第18話・運営の疑惑とのこと



 オレとセイエイは『聖牛邸』の中へ入り、ボースさんを先頭に応接間へと案内された。

 そのあいだ、彼がこのゲームの日本語サーバーを管理しているチームリーダーである孫丑仁ソン・チュウジンだということがわかった。

 というかリアルの名前を出しても大丈夫なのか?

 それをたずねると、他言無用で頼むとのこと。喋る気は毛頭ないので安心してください。

 たまに運営がNPCに紛れて、プレイヤーがちゃんとルールを守ってプレイをしているかというのを、フィールドや町を巡回しているそうだ。


「好きなところにでも坐ってくれたまえ」


 そう言われ、オレとセイエイは並んでソファに坐った。


「セイエイ、こっちに席が空いているからそっちに座りなさい」


 ボースさん、なんか慌ててません?


「だいじょうぶ。ここがいい」


 セイエイはなんか手でソファの布を握りしめてる。よほど動きたくないのだろう。

 それを見て、ボースさんはあきらめたような、なんとも複雑な表情で溜息をつく。

 一瞬、オレを見た。目がマジで怒っている。

 オレ、なんか失礼なことをしたっけかなぁ。



「さて、シャミセンさん。今回の件については、他のプレイヤーも含め多大な損害を出してしまったことを、スタッフとして詫びよう」


 とボースさんが話を切り出し、ゆっくりと頭を下げた。


「それは別に構いません。お金だったら、またアイテムを見つけて売ればいいですし、ただ今回のことですけど、掲示板に書かれていたことがあったんですか?」


「いや、イベントクエストは別サーバーで開催されるから、その心配はない。だからこそ今回の事件、それによる不具合で生じたとは思えないのだ」


 他にも色々と不具合があったかもしれない。はじまりの町の裏山以外にもレベル制限で入れない場所は多くある。

 だけどそれは運営が設定したレベルなら大丈夫だろうという考えのもと、そのレベルに達したプレイヤーのみが入れるようになっている。


「キミのスキルを考えると、裏山に出るモンスターが勝てるとは思えない。藪蛇の毒にやられていたとしてもだ」


 それはゲームのせいじゃなく、オレの注意散漫が招いた結果です。

 だけどこれではっきりとした。昨日の悪夢は運営ではなく、スタッフの誰かがしでかしたことということだ。


「あの、あるプレイヤーが、このゲームを作っている会社の、他のゲームとコンバートしたって」


 考えられる不具合といったら、これだよなぁ。

 もしかするとコンバートしたデータにウイルスが発生していて、それがモンスターの行動をおかしくした。

 可能性は低いだろうけど、そう考えると辻褄が合う。



 しかし、オレが思った以上に、返ってきた答えは意外なものだった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ? キミはいつそのことを聞いた? それはまだゲームでは実装されていないシステムだぞ?」


 唖然とした表情でボースさんがオレに詰め寄る。


「えっ? それってどういうことですか?」


 オレは、それこそ団栗眼どんぐりまなこのように目をあけている。

 セイエイも、普段の無表情が信じられないといったほど、驚愕の事実に焦りの色を見せていた。



「そのゲームは[魔獣演武]というものでね。モンスターを捕まえ、テイムとして一緒に行動することができる品なんだ。だけどシナリオに不具合があり、先日サービスを終了したんだよ」


「コンバートできることは?」


「現在調整中だ。サービス終了を知らせる時、星天遊戯と一部のステータスが継承されるということはアナウンスをしている。それにあわせて大型アップデートでは主に職業の追加、テイムモンスターの実装など、[魔獣演武]をしていたプレイヤーがすぐに楽しめるようにしている」


「ということはそれによる不具合で、今回のようなことが起きたというの? フチン」


 セイエイが困惑したような声でたずねる。


「っと? フチンって?」


 そういえば、ボースさんを最初に見た時も、おなじように[フチン]って言ってたっけ。


「あっと、日本だとお父さん、、、、って言ったほうがいいのかな?」


 セイエイはオレの問いかけに首をかしげる。

 というか父娘おやこで廃人ですか?

 いや、ボースさんの場合はスタッフだから廃人とは言わないだろうけど。


「これも他言無用で頼む。セイエイは自力でここまで成長しているからな。私がなにかやったのではないか、私がデータを改編して成長させたのではないかという噂が会社でも広まっているんだ。そんなことをしたら即アカウント停止だからね」


 ボースさんは苦笑を見せた。別に喋る気はないです。

 というより、素でこれだけ強いのだから、やっぱりセイエイは廃人確定だな。



「とにかく運営としては、今回の事件を重く考えている。魔熊でもレベルがまだ低いため魔法効力は使わない。つまりキミの[刹那の見切り]の弱点は付けないはずだ」


 あれ? そうなるとすこし妙なことを思い出す。


「あの、セイエイと戦った時、彼女の剣を避けることができたんですけど、[刹那の見切り]では避けることができないはずじゃ?」


「あれは剣技といって魔法とは少し違う。だから[刹那の見切り]の弱点である、魔法、もしくは魔法効果がついた武器の攻撃の対象にはならない」


 と、セイエイが説明してくれた。

 ただ、すこしばかり口を窄めた感じだったので、多分結構悔しかったんだろうなと思う。


「いいのか? 敵に塩を送っても」


 オレはすこしからかうように言った。


「問題ない。シャミセンはLUKが強くても他のところは弱いからわたしに勝てるとは思っていない」


 たしかにそうです。よほど運が無いかぎりレベルの差が激しすぎて勝てる気がしません。



 ボースさんはこれから運営と話があるとのことでログアウトした。

 セイエイもサクラさんや他のプレイヤーと一狩り行く予定だったらしい。なんか変に時間を使わせてしまったな。


「これ転移アイテム。自分が行った場所なら場所の名前を言えばどこでも転移できる」


「魔法で覚えることってできないのか?」


「できなくもない。でもかなりINTが必要になる。それよりちょっと前のアポートならもしかしたら覚えられるかもしれない」


「そうか。気が向いたら聞いてみるよ」


 それを聞くや、セイエイはすこしばかり笑みを浮かべた。

 それこそ仔犬のように、耳をピンッと立て、尻尾を振るような感じだった。


「それじゃぁまた……ね」


 そう言って、セイエイは粒子となってログアウト……はしていないようだ。転移魔法をつかって別の場所に移動したのだろう。

 だいたいログアウトしていたら、フレンドリストにある彼女の名前がグレーになっているはずだ。

 フィールドマップを見ると、聖牛邸ははじまりの町から南に十キロほど離れた場所にあった。歩いて帰れない距離でもない。



「レベル上げついでに歩いて戻るか」


 そうオレは思ったのだが、……今デスペナルティー中で戦闘が禁止されていることを思い出す。

 といっても、残り一時間を切っていたので、しばらく待っていれば活動再開ができるのだが。…………


「うーん、なんか乗り気にならないな。そういえばアクアラングって水中でも息ができるって魔法だったな。ってことは川を覗き込むってのも可能じゃないか?」


 そう思い、セイエイからもらった転移アイテムを使って、はじまりの町へと転移することにした。

 そこから山のほうへと登って行き、少し離れた場所にある清流へと向かった。

 後々わかったことだけど、聖牛邸周辺のモンスターは平均レベル15くらいとのこと。

 ……レベル上げだなんて思って軽く見てた自分が愚かでした。


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