第17話・半獣半人とのこと



 デスペナルティーから突然の緊急メンテナンス。

 それによって、オレはその日、ゲームが再開されるまで星天遊戯にログインができないでいた。


「結構長いな」


 夕方六時。学校から帰って夕食を食べる前に一度ログインしようと思ったのだが、VRギアから見える景色には、いまだに[ただいまメンテナンス中です]というのがタイトル画面に出ている。

 パソコンで星天遊戯の情報掲示板を覗いてみると、かなり今回の緊急メンテナンスで話題になっていた。

 なんでもアップデートのデバッグがなにかが理由に、他のところにまで反映していたとか、新しい職業のテストで強力なモンスターがそのままになっていたとか。

 突然のデスペナルティーの保証がないとか……それは別に気にはならない。


「ビコウたちはどう思ってるんだろうな」


 ふとそう思った。

 彼女たちが言っていた言葉が気になったからだ。

 最初から強い敵にばかり当たって、簡単にデスペナルティーを喰らう。そうするとゲームがつまらなくなる。

 だから徐々に、順序良くスキルアップしていくのがRPGだと思う。もちろんオレみたいに運良く戦っているプレイヤーもいるだろうけど……今回のあれはさすがにやばい。

 もし毎日ログインするほどハマってなかったら、やめていたと思う。

 掲示板では『おれ、星天遊戯やめるわ』という文字がちらほら見えていた。



 夕食を済ませたのは、それからしばらくして夜七時を回ったころだった。

 部屋に戻り、パソコンを確認するとメールが届いている。

 確認してみると[星天遊戯]の運営からだった。


 ◇送り主:運営スタッフ

 ◇件 名:緊急メンテナンスについて。

  ・日頃より弊社のゲーム『星天遊戯(Show Ten Online)』をプレイしていただき、まことにありがとうございます。

  ・昨日より起きました不具合による緊急メンテナンスが終了いたしました。

  ・このたびはご迷惑をおかけし、また突然のログアウトをもうけましたこと、まことに申し訳ありません。

  ・今回のお詫びとして、プレイヤーのみなさまには回復アイテムとクリスタルを配布いたします。

  ・今後はこのようなことが起きないよう努めてまいります。

  ・今後とも弊社のゲーム[星天遊戯]をよろしくお願いいたします。



「ログインできるようになったのか」


 ちょっと一安心。とはいえ、まだデスペナルティーがあるので狩りに行くことはできなかった。



 さっそくログインすると、最終ログアウト先の、はじまりの町にある宿屋の一室だった。


「みんなからメッセージ来てるかな」


 そう思い、メニューを開いた。


 ◇運営からのお知らせ。

 ◇プレゼントボックスにアイテムが届いています。


 のふたつだけだった。

 新しいメッセージは運営からの業務連絡だけで、パソコンのメールと対して内容は変わらなかった。

 プレゼントボックスも、メンテナンスによるお詫びとして回復アイテムが10個。[ブルークリスタル]がひとつといったところ。STRをひとつ上げるようだ。なんか使う気がしないので保留しておく。

 フレンド一覧に目をやる。誰もログインしていなかった。


「まだみんな入ってないんだな」


 と思ったら、徐々に集まってきていた。


 ◇テンポウさまからメッセージが届きました。


 待ってました。とりあえず状況確認。


『大丈夫ですか? もしお時間がございましたらはじまりの町の噴水広場で待っています』


 いつもの……噴水広場か。

 オレは身支度を整えると、噴水広場へと向かった。



 オレが到着したころには、テンポウとケンレン、セイエイとサクラさん、ナツカとあと一人は誰だ?


 ◇****/Lv**


 鑑定してみようにも、名前が伏せられて識ることができない。


「隣の女性は?」


 仕方ない、ナツカに聞いてみるか。


「はじめまして『白水はくすい』ともうします。職業は[狙撃手スナイパー]です」


 見た目はパッと見だとキャリアウーマンだと思う。

 ナツカのノーフレームメガネと違い、彼女は片目につけているといったところ。

 胸元が大きく開いており、格好はなんとも動きやすそうな緑のエルフ調だった。


「こちらこそはじめまして、シャミセンといいます」


 オレは手を差し出す。白水さんはそれに応えるように握手をしてくれた。


 ただ、このメンバーの中にビコウの姿がなく、


「ビコウは? さっきフレンドリストを見た時はログインしていないみたいだったけど」


「フレンドでログインしていないとなればこっちには来ていないってことだろうね」


 ケンレンが肩をすくめる。云われてみればたしかにそうだ。



「それよりシャミセンが遭遇したモンスターについて教えて。わたしの予想だとかなり強かったんじゃないかと思う。平均レベル10のモンスターに、シャミセンのLUKもそうだけど、[玉兎の法衣]で自動回復もしているから、そんな簡単に負けるとは思えない」


 セイエイがオレをジッと見つめる。

 オレは昨夜のことをつぶさに教えた。

 ついでに防御系スキルである[刹那の見切り]についても説明。

 それを聞き終えたみんなは青ざめた表情を見せていた。



「あ、ありえないわよ。そんなレベル10くらいのモンスターに魔法が使えるとは思えない」


「[刹那の見切り]は魔法と魔法効果のある物理攻撃には通用しないんですよね? たしかに魔法を使うモンスターもいるけど、でもそれは中盤の……平均レベルが20くらいからの話で、町の裏山に出没するモンスターの中で魔法が使えるのはかなり先の、頂上付近のモンスターだけよ」


「ってことは、掲示板に書かれていたようなことが起きていたってことか?」


 おそらくとセイエイ以外の皆が口をそろえるようにうなずいた。



「うん。わかった……彼にはそう伝えておく」


 セイエイを見ると、誰かとボイスチャットをしていたのだろう。

 一言二言だけいうと、電話を切っていた。


「ボースさんはなんて言ってました?」


「原因はまだ調査中。もしかするとまたアップデート前に長期メンテナンスするかもしれないって」


 セイエイとサクラさんの話し声を聞くや、オレは首をかしげた。


「えっと、どういうこと? ボースって人は運営と関係があるのか?」


 そうたずねると、セイエイはうなずいてみせた。


「フチンとこれから会う。シャミセンも一緒に来て」


 そう言うや、セイエイはオレの手を握った。


「テレポート。聖牛邸」


 セイエイがオレに有無をいわさず、転移アイテムを使った。

 アイテムはパリンと砕け散る。それと同時にオレとセイエイの身体が粒子となり飛び散った。あの、心の準備ができていないんですけど?



「到着」


 さほど表情に変化を見せず、セイエイはいつもどおりの淡々とした声だった。

 逆にオレは突然の転移におどろいております。

 というかホントマイペースすぎる。

 たぶん、この子の性格を知ってないと、友達付き合いなんてできそうにない。オレは……もはやあきらめました。


「シャミセン、大丈夫?」


 口調は変わっていないが心配はしてくれているようだ。


「あ、ああ大丈夫だ。ってかここってどこだ?」


 オレは周りを見渡した。

 緑、緑、緑っ! 索子ソーズと発で『緑一色リューイーソー』ができそうなくらい緑が多い。

 母さん草原です。牛がいっぱいいて牧草食べてます。大量の乳製品と、食肉となっていく牛が沢山いる雰囲気です。ドナドナドナ……。

 オレのうしろには大きな屋敷が聳え立っていた。牧場の横にある牛小屋より規模がデカい。



 と混乱するのはこのへんにして、オレはセイエイを見上げた。


「ここフチンが管理しているフィールドにある農業地区。ここで美味しいしぼりたて牛乳と牛肉をアイテムとして販売したり、他の町のアイテム屋に卸していたりしている」


「でも牛モンスターを倒したらドロップできるよな?」


「ドロップはできる。でも保存状態がいいのはやっぱり職人スキルを持った人が捌いたやつじゃないとすぐ腐っちゃうし、そもそも美味しくない」


 あ、さいですか。とツッコもうと思ったがやめた。

 というか、この子の場合はツッコミを入れてもスルーされるか、意味がわかっていないかだ。

 あまりムダな体力を使わないでおこう。



 カランコロンと、牛が首につけている大きな鈴みたいな音が聞こえ、オレはそちらへと顔を向けた時だった。


「やぁ、二人ともよく来てくれたねぇ。さぁ立ち話もなんだし、中に入ってくれたまえ」


 と、あきらかにとある会社から怒られそうな声だった。

 たとえるならネズミ……。


「フチン、それ以上はいけない」


 セイエイも、さすがにこれにはツッコミをせざるをえなかったようだ。


「うーむ、完成度が低かったか?」


 低いどころか高いです。ただ本当に怒られそうなのでやめてください。



 さて、少々脱線をしているので、屋敷から出てきた男性プレイヤーについて説明したいと思う。

 牛でした。オレはなにを言っているかわからないと思うけど、本当にそうなんだから説明のしようがない。

 顔が牛だ。黒毛和牛みたいな身体をしている。

 ガタイがよろしい。斧持ったら強そうだけど、なんか奥さんの尻に敷かれそうな雰囲気もあった。

 プレイヤーネームを確認した。



 ◇ボース/Lv50



 ……レベルマックスでした。というか実際にいるんですな。

 高いレベルなんてセイエイとナツカくらいしか知らないから、なんとも新鮮な気持ちだ。



「警戒しなくていい。あれはただのでまかせ。プレイヤースキルだけでいうなら実際はわたしやおねえちゃんからしたらすごく下手い」


「どういうこと?」


 なんかすごく知り合いっぽいけど?


「ははは、私ははじまりの街の警護もしていてね、たまに善良なNPCを殺してしまうプレイヤーがいるんだよ。それを取り締まっているんだが、逆に倒してしまうんだ」


 あ、つまりそれでレベルが限界値まで育ったというわけか。

 だけど、見た目は怖そうだけど、根は優しい人だということはわかった。

 ただ、どことなく誰かと似ている。……マイペースなところとか特に。


「さて、話は屋敷の中でしよう。いいかねふたりとも」


 ボースさんにそう誘われ、オレとセイエイは応えるようにうなずいた。


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