第14話・三つ巴とのこと



「よっしゃっ! 二位だ」


 オレ歓喜。まさかこんな結末になろうとは思ってもいなかった。

 いやというか、セイエイってもしかして向かってくる人には容赦ないけど、そうでもない人にはスルーじゃないですか?

 減ったポイントのほとんどはマントの女性が稼いだものだったらしい。というかね、物理攻撃とか奇襲に弱すぎません?


「もしかしてポイントほとんどINTに振り分けてる?」


 そうマントの女性にたずねてみる。

 ひとつためいきを吐きながらマントの女性はフードを脱いだ。

 現れたのは白髪の美女だった。年齢的に二十歳くらいか?


「いやおそらくレッドゾーンによる攻撃力増加、クリティカルや急所にクリーンヒットしたことで相手を気絶できたからでしょう。HP100以上はあるんですけどね」


 マントの女性は悔しい表情を浮かべながらも自己分析をしている。


「というか、あなた本当に法術士? どう考えても格闘系のほうが得意でしょ?」


 注意を受け、本当に自分の職業選択を間違えたんじゃないかなって思えてきた。

 でもいまさらポイントでINTを増やす気なんてないしなぁ。


「運だけで魔法は覚えられませんかね?」


 そうたずねると、


「簡単なやつなら書物を読めば大丈夫だろうけど、それでもINTが低いと理解もできないし、詠唱の時間も遅いわ。というか、あなたどれくらいなの?」


 と訊かれ、素直に「10です」と答えた。

 あと色々とステータス晒していく。

 持っているスキルは言わなかったけど。対策とかされたら困るしね。

 それを聞くや、ビコウやケンレン、テンポウはおろか、魔術師の女性とセイエイ、ならびにナツカが目を点にしております。


「あなた、それって法術士とか魔術師系の職業のステータスじゃないわよ。簡単な魔法なら大丈夫だろうけど、覚えるならすくなくてもINTを30くらいは振り分けたほうがいいわね」


 とあきれた表情でマントの女性……フレンド登録して名前発覚。

 [サクラ]というプレイヤーネームだった。レベルは36。

 セイエイともフレンド登録できた。さっそく彼女のレベルを見たが、レベルはほとんど変わっていませんでした。

 ナツカともフレンド登録をする。まさかこのふたりとフレンド登録ができるとは思っていなかった。

 これってLUK関係ないよな? だって対人でやってるわけだから。

 フレンド登録していない人のメッセージは受信をしないようにしておこう。噂を聞いて変な勧誘とかきそうだし。



「セイエイ、なんであんたのチームが負けるのよ? あんた[貧乏神]のスキル持ってるでしょうが?」


 ナツカがそれこそ泣きそうな表情でセイエイに詰め寄っている。

 よほど二位チームのリーダーがもらえる[水神の首飾り]がほしかったようだ。


「ごめん。そのスキルは戦ってる人にしか通用しにゃい。ゆえに彼はスキル対象外以前の問題」


 とセイエイが表情を変えずにあやまる。しかもコクリコクリと首を動かしながら。

 うん、イベントが終わったらぐっすり寝てください。


「というか、レベル13でLUKが95って……かたより過ぎでしょ?」


 それは認めます。だから装備で他のステータス補うしかなかとです。



「あっと、そうだ」


 オレはセイエイに返そうと思っていた[ミントクリスタル]のことを思い出し、それを取り出すと、彼女に返した。


「これ落としただろ?」


「落としてない」


 いや落としました。

 セイエイはそれを否定しているのか視線を逸らしている。

 それがなんとも、嘘をつくのへたくそだなと思った。


「わたしが落としたっていう証拠がない。ということでそれはシャミセンが拾ったもの」


「いやいや、課金アイテム捨てる人いないでしょ?」


 そう言われ、セイエイはムッとした表情を見せた。

 ふくれっ面がなんとなく幼く見えて可愛らしく感じる。


恋華、、、それだったらトレードで渡したらどうかな?」


 ビコウがそう提案する。

 セイエイの口調や態度からコミュ症なのはすぐにわかったのだが、どうやらビコウとはリアルで知り合いのようだ。というか渾名あだなでセイエイのことを呼んでいるのかね?


「でもそんなことしたらシャミセンは拒否する。新しい武器の素材に必要だけど、シャミセンのレベルだとまだ課金しないと、このアイテム手に入らない」


 あ、もしかして店で悩んでたの見てた? なんかすごい恥ずかしい。


「ビコウの言うとおりトレードにしよう。それに適うアイテムを用意する。それならいいだろ?」


 そう言うと、オレは[ミントクリスタル]をセイエイに返した。


「シャミセンがそれでいいならわかった。それじゃぁ[熊蜂ベアード・ビーの蜂蜜]持ってる? 十個くらいあったら嬉しい」


 そうお願いされ、オレは首をかしげた。


「聞いたことがないけど、蜂モンスターなら[蜂の王]っていうスキルで襲われることがないから蜂蜜を手に入れることは簡単だよ。でもなんで? セイエイくらいのレベルだったら簡単に取れるんじゃ?」


「蜂嫌い……」


 なんとも女の子らしい理由だった。

 討伐以外で虫モンスターとは戦いたくないというのだ。


「わかった。でもどこにいるんだ? 場所を教えてもらわないと蜂の巣を手に入れることもできないんだけど」


「この町から南部に五十キロはなれたところの山奥に生息してる。モンスターのレベルは平均で20くらい」


 それを聞いて、オレはすこしためらう。

 [蜂の王]というスキルがある以上、蜂のモンスターに襲われるということはないだろうが、他のモンスターはまだレベルの差的に無理があります。


「持ってきてくれるのはいつでもいい」


 セイエイもオレのレベルを考えてか、あまり催促はしないでくれた。



 それからしばらくして現在夜の十一時半。

 上位入賞による特別アイテムの送信は翌日、プレゼントボックスに入るとのこと。

 明日は日曜で休みだけど用事があるから、いつもどおり夜の十二時までにする。

 レベル上げついでにドロップアイテム集め。

 特にいいものは手に入らず、レベルもふたつくらいあがっただけ。

 もらったポイントはすべてLUKに振り分ける。

 基礎で三桁台に入り、現在105だ。

 結局あれって倒したってことにならなかったのか。

 イベントでは戦闘不能……つまり気を失えばポイントが減るということだったらしい。

 経験値を手に入れるには相手を倒さないとダメのようだ。

 一休みをして、覚えたスキルについて改めて整理する。



 ◇刹那の見切り

 *体現スキル/消費HPなし

  ・敵との間合いがレッドゾーンに入った場合、相手の攻撃が自身のAGIよりすぐれていればその攻撃を避けることができる。

  ・ただし魔法、もしくは魔法効果がついた武器(徒手)の攻撃は避けることができない。

 ◇【取得方法】

  ・レッドゾーンでの攻撃を五〇回回避する。



 五〇回も避けていたのか……まったく数えてませんでした。まぁこういう回数取得はたいてい忘れたころに覚えるだろうな。



 ◇[キュア]

  *回復系補助魔法スキル/消費MP:18%

  ・ヒールのスキルアップ。効率はヒールの[150%]。

 ◇取得方法。

  ・INT20で[キュアの書]を読む。

  ・[ヒール]を二十回使用する。



 これも今のオレのステータスだと、使用回数で覚えたといったところだろう。


「魔法ストックには制限があるし、入れておくけど戦闘以外は使わないでおこう」


 消費MPを考えると、あまり使わず、アイテムで補ったほうがいいな。

 というかMPの最大値増やすにはやっぱりINTを増やすしかないようだ。アイテムで増えませんかね?



 ◇セイエイさまからメッセージが届きました。



 というアナウンス。



『シャミセン魔法使えなくて困ってる? それなら[うさぎの毛皮]をみっつくらい持ってたら、それをはじまりの町のギルド会館まで持ってきて』



 という淡々としたメッセージだった。



 さいわい[うさぎの毛皮]というアイテムは、はじまりの町の近くに生息しているうさぎのモンスターがたまにドロップする。

 本当にたまに……らしい。

 それをアイテム欄で確認すると三つどころか十個は持っている。

 しかも結構レアアイテムらしい。売ればひとつ頭700N。

 十匹倒して一枚出るかどうか。オレの場合は三匹倒して一枚という割合。計算したらそうなりました。

 オレはメッセージで持ってるという内容で返事を送ると、


『それじゃぁ今から持ってきて』


 という返事がきた。



「落ちる前に用事だけすませるか」


 オレは、待ち合わせ場所である、はじまりの町のギルド会館へと足を向けた。



 はじまりの町に徒歩で辿り着き、ギルド会館入り口にやってくると、そこにはピンクのゴスロリファッションをした少女が立っていた。

 プレイヤーネームを確認する。……セイエイだった。

 彼女をジロジロと、物珍しそうに見ているほかのプレイヤーもいたが、フレンド登録している人以外は見えない設定にしているようなので、これがあのトッププレイヤーだとは思わないだろう。

 オレも思いません。



「やっときた。三十分くらい待ってた」


 オレが来ていることに気付き、セイエイはそちらに視線を向けた。

 あ、やばい。この子ヘタしたらヤンデレ化しそう。


「というかメッセージを送ったのは今から十分前だったよね? オレが寝てたらどうしてたの?」


「心配ない。その時は起きるまでメッセージ送ってる」


 かまってちゃんですか? かまってあげないと死んちゃう人ですか?

 とそういうツッコミには慣れているのだろう。


「おねえちゃんが付き合ってくれる。でも月曜からちょっと忙しくてログインできない」


 とのこと。あれ? 姉妹でゲームやってるの?

 たしかオレの従姉もVRギアを持っているから、興味本位に色々と聞いてみたいこともあるけど、まずは用件をすませたい。というかちょっとリアルに眠いです。



 プレイヤーステータスのウィンドゥがすこし緑かかっている。

 毒を食らったわけではない。

 これは脳波におけるアルファ波を感知しており、警告を出しているそうだ。

 つまり睡魔に襲われれば、それだけプレイヤーがログインした状態で動かない。

 つまり寝落ちしてる状態なので、モンスターやプレイヤーキラーに襲われた時の、デスペナルティの可能性が高くなるということだろう。



「私も眠い。でも明日大事な用事がある。だから今のうちにアイテムの調合を終わらせ……」


 セイエイが言葉を途中で止めた。……寝落ちした?


「寝てない」


 オレが起こそうとした時、セイエイはムニャッとした表情で目を覚ます。よだれが出ていて顔がしまらない。

 本当にオンとオフの落差が激しいなこの子。



「それで[うさぎの毛皮]でどうするんだ?」


「どうするもない。それを使って、あなたの新しい法衣を作る。というか最近ドロップ率が低くなっていて持ってる人すくないみたい」


 そういえばスキル以外のステータスは教えていたんだっけか?

 そうなると[火の法衣]を使うってことだよな?


「早くしないとマスターがログアウトする。待ってもらってるから」


 そう言うと、セイエイはオレの手を引っ張った。


「えっ? ちょ、ちょっとま……」


 オレは足を止めようとしたが、セイエイとのSTRの差があまりにかけ離れすぎてて、ほとんど引きずられるようにギルド会館へと引っ張られていった。

 たぶんすごい情けない格好だったと思う。


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