第11話・第一回イベント前半反省とのこと



 噴水広場に強制召喚されたオレたち『施餓鬼』のメンバーは、前半のことについて話をしていた。


「やっぱりセイエイちゃんとナツカさんがトップに来てましたね」


 テンポウは噴水の縁に坐り、オレたちを見上げている。


「そんなに強いのか?」


 ゲームを初めてまだ一週間と満たないため、あまりトッププレイヤーの名前には詳しくない。


「まぁ強いでしょうね。この二人はいってしまえばゲーム開始の頃からやっているトッププレイヤーですから。たしかセイエイはレベル44。ナツカがレベル46ですね」


 そのレベルの差に、よくオレたちは三位になれたなと驚懼する。

 いくらこの子たちがレベル不詳のデタラメなステータスでもだ。


「シャミセンさんみたいに20までのレベルのプレイヤーは極振りしない限りはあまり力の差はないかと思います。でも上位レベルのプレイヤーはレベルがひとつ違うだけで攻略における対策も違えば、それにともなって力の差がはっきりとしてくるんです」


「そうか。初期からやってるわりにあんまりレベルが低いなとは思ってたけど」


「まぁ、このゲームは今のところ最高レベルが50に設定されていますから、レベルによるポイントは最高で[245ポイント]になります。それからアイテムによる追加ポイントも使えますけど、イベントクエスト以外、無課金ではまず買うことができませんからね。装備品におけるプラスも視野に入れておかなければいけません」


「それがレベルひとつ違うだけでも力の差が出るっていう意味か」


 オレがそう聞き返すと、テンポウはうなずいてみせた。



「ビコウ、そういえばあなた……ナツカと連絡は取れる?」


 ケンレンにそう言われ、ビコウはキョトンとした表情を見せる。

 まったく予想していないことを言われたからだろう。


「えっと、ちょっと待ってね……」


 ビコウは指を虚空に掲げると、そこにウィンドゥが現れ、メニューの中にある電話のアイコンを押した。


「というか、知り合いだったのか?」


 オレは何気なくケンレンにたずねた。


「ビコウと最初にチームを組んでいたのがナツカなのよ」


 ケンレンが答えた時、電話の呼び出し音がきれた。



『こちら幸福安心委員会です』


 女性の声が聞こえ、オレはけげんな表情を見せる。


「ナツカ、ビコウだけど、今、大丈夫?」


『あぁビコウ? こっちは大丈夫よ。って、スゴイわねあなたのチーム……といっても、ほとんどテンポウの[悪食イビルイーター]で手にいれたポイントだろうけど』


 ナツカというトッププレイヤーの声は、オレたちにも聞こえている。

 そのため、おそらく攻撃スキルの名前だろうと思う[悪食]の話題になるや、テンポウが顔をうつむかせていた。


『あの技を使うなんて、さすが豚ねぇ。欲望の塊だわ。いくらすべての攻撃を一時的に無効化できるとはいえ、三十分で一千人倒したんだから』


「あうあう、人が気にしていることを。それに苦肉の事態の時しか使いませんよぉ」


 と、オドオドと喚き立てるテンポウ。その声が聞こえているナツカはケラケラと笑っている。


『あっとそうだ。えっとシャミセンさんでしたっけ? はじめまして、わたくし『ソラビト』というチームのリーダーをやっておりますナツカともうします』


 改めて自己紹介され、オレはドキッとする。

 声だけなので顔も姿もわからないが、澄んだ声だった。


「えっと、こちらこそはじめまして、シャミセンと申します」


『っと、気難しい挨拶はここまでにして、後半についてそろそろ運営からメールが届くと思います』


 その言葉に、オレは疑問に思った。

 運営からメッセージが届くということを前もって知っているという口調だったからだ。



 ◇運営からメッセージが届いています。



 その会話をしていた時、メッセージアイコンに新着メッセージが届いたという報せがきた。

 それはオレだけではなく、ビコウやテンポウとケンレンにも来ていたらしく、三人とも指を虚空にかざし、そのメッセージを読んでいるようだ。

 オレも慌ててメールを確認した。



 ◇送り主:運営より

 ◇件 名:上位チームの皆様へ

  ・*このメッセージは送信専用のため、返信いただいても対応いたしかねます。ご了承ください。

  ・『第一回イベントバトル・ロワイアル』上位入賞おめでとうございます。

  ・決勝戦のルールですが、みなさまが前半で貯めた討伐ポイントを、チームメンバーのうち誰かを倒した場合、そのプレイヤーが手に入れたポイントすべてを消化する討伐イベントといたします。

  ・制限時間は本日午後9時から10時となります。



 というメッセージ内容だった。

 ――そのプレイヤーが手に入れたポイントすべてが消える……。

 この文章の意味を理解するや、オレはとっさにテンポウを見た。

 ケンレンとビコウも同様にテンポウを見ている。


「ふぇっと? もしかしてわたし狙われてる?」


 テンポウは唖然とした顔でオレたちに問いかける。オレは黙ってうなずいた。


「まぁ、モニターでかなり盛り上がっていたみたいだからね。狙われるのは自然なことじゃない? それにシャミセンのところに転移テレポートする前にもかなりポイントを稼いでいるからね」


 ケンレンが「がんばりなさい」と、テンポウの肩を叩く。


「イッ、[悪食イビルイーター]はMPを結構消費しますし、無条件で使えるユニークスキルは次に使えるまで時間をかなり浪費しますから、今日のイベント中はもう使えませんよ? それに別チームの総ポイントがわからないんですから、誰を狙えばいいのかわかりませんし」


 あたふたと、テンポウはビコウのうしろへと避難する。

 身丈はビコウより大きいので、なんか情けなく見える。


「逆に狙わないっていうのもありじゃないのか? 別に倒さなければいけないっていうわけじゃないだろうし」


「で、でも一時間ですよ一時間。楽しいことは早く過ぎますけど、嫌なことは一分一秒でも長く感じてしまうんですから」


「まぁ、チームがバラけるわけじゃないんだから、わたしたちがどうにかするわ」


 なんとかテンポウをなだめようとしているオレたちの提案を、「んむぐぅ」と不服そうな目でテンポウはうなずいてみせた。



『話は決まったようね。わたくしは二位だから、これ以上順位を上げたくないし、かと言って下がりたくもないのよ』


 ナツカの言葉に、オレは首をかしげた。


「えっと順位によって報酬とか違うんですか?」


『ええ。二位のチームリーダーがもらえるのは【水神の首飾り】という、LUKが20上がる装飾品ね』


 それを聞くや、オレの耳はピクついた。

 レベル上げにおけるポイントのすべてをLUKに振り分けると決めている以上、できれば装備品での増幅もしたい。


「ちょ、ちょっとナツカッ! それは言わないでって釘を刺したはずだよね? しかもそれLUK/レベルの小数点切り捨ても付加されるから、もしかすると無理してでも取ると思って、ほかの二人も黙っていたのに」


 ビコウが慌てた表情で、電話先のナツカさんに文句を述べた。

 それを聞いて、オレはすこし計算をしてみる。

 現在のオレのLUKは基礎が95、[女王蜂のイヤリング]の増幅値が+10なので合計で105になる。

 それから自分のレベルを分母にすると、だいたい+8になるだろう。戦闘すれば経験値が増えてレベルが上がる分、分母が大きくなって付加する数値もちいさくなるかもしれない。

 デスペナルティはあるかもしれないが、今は気にしないでおこう。


『あらら、それはごめんね。でもわたくしもほしいのよ。最近LUKでないとセイエイに勝てる気がしないから。あの子、体現スキルで[貧乏神]を持ってるから』


「[貧乏神]?」


 オレは首をかしげ、ナツカにたずねた。


『モンスター、または敵プレイヤーのLUKを六割減少させることができる特殊スキル。つまりそれだけクリティカルが出る可能性が低くなるということね。LUKが100だとして、[貧乏神]を持っているプレイヤーと対峙した場合、その時のLUKが40になるのよ』


「えっとクリティカルの確率を考えると、すこしでも相手のLUKより高くあったほうがいいってことか」


「そういうことですね。それでも負ける時は負けますけど」


 VRRPGにおいて、上位プレイヤーほどプレイヤースキルがものを言う。

 それを考えると、セイエイとナツカは、よほどの腕があると考えてもいいだろう。

 それは多分ビコウたちも同じだった。

 よく考えると、オレはメンバーの本気をまだ直に見ていないのだ。


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