第6話・火男とのこと



 昨日と同様、夜八時から十二時までプレイする。

 そのあいだ、すこしログアウトをし、学校の課題を一時間ですませたので、実質三時間のプレイだ。

 イースゴッドの街から半径四キロ周辺に生息しているモンスターはあらがた見つけては倒しているため、図鑑がそれほど増えていない。

 レベルもあれからふたつ上がっただけだ。


「それでもレアアイテムゲットできたけどな」


 オレはほくほくとした顔で草原に座り込む。周りにモンスターの気配はなかった。


「まさか、装備品のレアアイテムが手に入るとは」


 オレはウィンドゥを虚空に表示し、アイテム一覧に目をやった。



 ◇火の法衣/【防具】/ランクR/VIT+10

  ・炎系攻撃を一定の確率でVITの0.(レベル)%に軽減できる。

  ・また炎に関する罠や、自分や仲間の炎系魔法を受けた場合、その炎を一定時間まとうことができる。

  ・その場合の攻撃力は+VIT*1.(レベル)%となる。



「……つまり敵からの攻撃は軽減して、罠と自分からわざとやった場合は攻撃力が増えるってことか」


 これで杖による攻撃をしなくてもいいかもしれない。

 いや法術士なんだから魔法で攻撃しろよとツッコミたい。


「えっと、これを装備した場合、生命力VITは19だから、それに1.12倍だから[+21%]になるんだな」


 これも生命力VITによって効力が違うようだ。

 現在の攻撃力STRは[14]だから、この状態で攻撃をした場合、攻撃力STRは[1.21%]になるから、おおむね[17]に上昇する。


「さてと、さっそく試してみるか」


 寝る前に、どれくらいの効力なのか、近くにいる草系のモンスターで試してみましょう。そうしましょう。


「それにしても、今日はほとんど彼女たちと一緒だったなぁ」


 ログインしたことがわかるよう、フレンド登録をすませているため、明日また会えるだろう。

 すこしゲームをする楽しみが増えてきた。



「よし。まずは攻撃魔法を出すにはモンスターとの間合いをグリーンにしないとな」


 遠距離魔法の威力は、その魔法の強さと距離によってダメージが違うようだ。

 たとえば野球ボールくらいの炎の玉を放つとして、20メートル離れているとする。

 すると炎はその距離を飛んで行くわけだから、そのあいだにモンスターが気付き、それを避ける。もしくはダメージが軽減してしまう。[F&A]のダメージ修正は物理のみならず、すべての攻撃に適用されていた。

 なので、できるだけ魔法を使う時はイエローゾーンのほうが確実にダメージを与えることができる。


「レッドのほうがいい気もするが、それってクイックとか早くするスキルを覚えるしかないか」


 もしかすると間髪入れずに魔法を使えればと思ったのだが、一回魔法を放つと、次の魔法を放つまで一秒のロスがある。

 さらに詠唱の時間を考えれば、強力な魔法ほど時間がかかってしまう。

 今現在、ファイアなら二秒、ヒールなら一秒のロスがある。

 もちろんこれは知能値INTのパラメータに依存しているだろうから、レベルとパラメータが高くて、簡単な魔法なら、タイムロスなく、すぐに発動できるということになる。

 ……あくまでオレの予想だが。



「そろそろ試すか。…………」


 オレは近くで飛んでいた雀ほどの大きさをした蜂のモンスターと間合いをグリーンからイエローまで狭めていき、さらにレッドまでの間合いになるところギリギリの場所から詠唱を始めた。

 ――[忍び足]のスキルを発動しといてよかった。

 目の前のモンスターは一度戦ったことがある蜂のモンスターだ。

 そのモンスターはゆらゆらと空中浮揚している。

 まだオレの存在に気付いていなかった。


「詠唱が溜まった。自分にファイア」


 杖を天高く掲げ、炎を自分に放った。

 おそらくこの光景を見た他のプレイヤーは、オレがモンスターからの攻撃で混乱状態となり、自分に向けて攻撃をしていると思っているだろう。

 炎は[火の法衣]を包み込み、真っ赤に染まる。

 そしてなにより、てのひらが熱く燃えていた。


「うぉ、すげぇっ! これって炎系の上位魔法だったらかなりかっこいいんじゃないか?」


 てのひらを見ると、血がたぎったように赤い。


「オレのこの手が真赤に燃える。勝利をつかめと轟き叫ぶっ!」


 オレは拳を握りしめ、蜂のモンスターめがけて攻撃を仕掛けた。

 [忍び足]のスキルで、レッドゾーンに入っても蜂はまだ気付いていない。……運が味方した。


「ばあぁくねぇぇええつっ! ゴォッドォッ! フィンッガァァあああっ!」


 火の拳が蜂を一打する。その瞬間、蜂のモンスターは炎に焼かれた。

 コインとともに、アイテムが現れる。


「おぉ、レアアイテム。しかも装飾品だ」


 蜂が落としたアイテムは[女王蜂の耳輪クイーンビー・イヤリング]だった。ランクはR。

 早速、装備品の説明を見る。



 ◇[女王蜂の耳輪クイーンビー・イヤリング]【装飾品】/ランクR/LUK+10

  ・とある国の女王が蜂を愛でており、それを尊重するために作らせたというイヤリング。

  ・幸運に恵まれており、これを装備すると所有者よりもレベルが低い蜂モンスターは奇襲をしなくなる。



「ようするに魔除けアイテムってことか。それでも幸運値LUKが増えるのは嬉しいな」


 それにココらへんの蜂モンスターなら一発は無理でもうまくいけば二ターンくらいで倒せる。


「今のオレよりレベルは低いだろうから、奇襲を受けることはなくなるな」


 ……とそう思った瞬間、あるアイテムが手に入りやすくなったこともわかった。


「思い立ったら吉日よ。そんなに時間がかからんだろうし試してみるか」


 オレはそれを装備すると、森の中へと入った。



 森の中央辺りに入り、めぼしい木を探しながら、耳をすませていると、蜂の、あの恐ろしい羽音が聞こえ始めた。


「ゲームとはいえ、やっぱ慣れないな」


 オレはゲッソリとした表情で、その音がしたほうへと近付いた。

 木の近くには予想どおり蜂が群がっている。その中心に蜂の巣があった。



「よし。[忍び足]」


 [女王蜂の耳輪クイーンビー・イヤリング]を身に付けているのだから、奇襲を受ける心配はないかもしれない。

 それでも用心には用心だ。


「よしイエローゾーンに入った。[ファイア]」


 さらに念を押す。火の魔法を自分に当てて、[火の法衣]は火に包ませる。

 これで火に弱い虫のモンスターは迂闊に攻撃してこなくなった。

 それこそ飛んで火に入る夏の虫にはなるまい。

 間合いがレッドゾーンに入った。

 [忍び足]と[女王蜂の耳輪クイーンビー・イヤリング]の効果で、周りの働き蜂たちは攻撃を仕掛けてこなかった。


「計画どおり。こりゃぁ簡単に手に入ったな」


 オレは木にじ登ると、蜂の巣に手にかけた。



 蜂の巣に触れた瞬間、



 ◇レアアイテム【蜂蜜】が手に入りました。



 というアナウンスが出てきた。


「おぉ、やっぱりレアアイテムだった」


 何度か森を探索していて、蜂の巣の存在には気付いていた。

 しかし周りには蜂のモンスターが湧いていて、迂闊に近付けなかったのだ。

 蜂蜜自体は蜂のモンスターを倒せば[蜂蜜の元]というアイテムが手に入り、それを一定量集めると、[蜂蜜]に変化する。

 だが、その量もランダムで、何回戦闘すればいいかわからない。

 それが[忍び足]のスキルと[女王蜂のイヤリング]のアイテム効果を使えば簡単に手に入った。



「すごく面倒だったもんなぁ。まぁ[蜂蜜]があれば詠唱が楽になるからいいか」


 喉の傷みに[蜂蜜]がいいと昔から謂われていたことだけども、まさかゲームでも反映されていたとは思わなんだ。


「今日は本当に運がよかったな。でももう遅いし、ログアウトして明日に備えよう」


 イースゴッドの街へときびすを返し、明日も学校なので早々に宿屋へと向かうのであった。



 § § § § § § § § § § § § § §



 さても、シャミセンがログアウトしてしばらく経ってのことであった。

 当星天遊戯の情報掲示板では――。


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 435 名前:名無しのゴンベエ

 ちょっとおまいらに聞きたい。


 436 名前:名無しのゴンベエ

 >>436

 どうした?


 437 名前:名無しのゴンベエ

 今日アイテム集めにはじまりの町ちかくの森を探索していたんだが、そこで蜂に攻撃されないで簡単に蜂蜜ゲットしてる法術士がいた。


 438 名前:名無しのゴンベエ

 どういうことだってばよ?


 439 名前:名無しのゴンベエ

 そいつ、多分[忍び足]スキル持ってる?

 もしくは魔除けアイテム持ってるとか


 440 名前:名無しのゴンベエ

 いやそれよりもだ。なんかそいつファイアを自分にぶつけて、炎に包まれながらアイテム取ってた。


 441 名前:名無しのゴンベエ

 多分[火の法衣]っていうレアアイテムを装備してる。

 あれってたしか自分に炎系の魔法をかけると攻撃力増えるらしい。


 442 名前:名無しのゴンベエ

 それって、虫系モンスターは近付かないじゃないですか。


 443 名前:名無しのゴンベエ

 自然の摂理を利用した計算高い取得方法だな。


 444 名前:名無しのゴンベエ

 でも[火の法衣]って高くなかったか?

 たしか防具屋だと五万くらいしていたはず。


 445 名前:名無しのゴンベエ

 もしかするとモンスターからゲットしたとかかね。

 ほら近くに炎系モンスターがよく出るスポットがあったし。


 446 名前:名無しのゴンベエ

 それでもかなり運がないと手に入らないんじゃない?。

 >>435が目撃したのって、レベルどれくらいだった?


 447 名前:名無しのゴンベエ

 >>446

 フレンド登録していないから、詳しいステータスは見れない。

 ただレベル表記は12だった。


 448 名前:名無しのゴンベエ

 ふぁ?


 449 名前:名無しのゴンベエ

 それってまだ始めたばかりじゃん。

 すげぇなそいつ。どんだけLUK高いんだよ。


 450 名前:名無しのゴンベエ

 そういえば、そんなのを近くの草原で見つけた。

 みんなが言っている通り[火の法衣]で炎をまとって、拳で蜂モンスター倒してるところを見たわ。


 451 名前:名無しのゴンベエ

 法術士が拳で語るなよwwww


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 と、このような形で、シャミセンのおこなった採取方法がちょっとした盛り上がりを見せていた。

 人知れずちょっとした噂になっていたことを、薺煌乃ことシャミセンは知る由もなく。

 掲示板の住民たちも、すぐに別の話題に切り替えたことで、そのことは静かに鎮火するのだった。


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