第7話・チーム戦イベントとのこと



 翌日、リアルでの夕食を済ませ、課題を一通り終わらせる。


「さてと、そろそろログインしますか」


 そうつぶやきながら、VRギアを頭に装着し、ベッドに横たわった。

 ゲームにログインすると、まずビコウ・テンポウ・ケンレンの、三人が待っている噴水広場のところへ行き、彼女たちと合流した。

 オレを待っているあいだ、ビコウがおなかがすいて倒れそうだったとのことなので、情報をゲットするために近くの酒場へみんなで行くことにした。



 酒場に入ると店員のNPC以外はほとんどがプレイヤーキャラだ。

 みな思い思いにテーブルに坐り、食事を楽しんでいた。

 オレたち四人もひとつのテーブルに坐る。


「ご注文はどれにいたしましょうか?」


 オレたちが坐ったと同時に、ウェイトレスのNPCが注文を聞きに来た。



「えっとね……イタリアンハンバーグステーキの単品。森のきのこのドリア単品。オムライスビーフシチューソース単品。カニのクリームスパゲッティ単品。メープルフレンチトースト単品。ナスとトマトのピッツァ。コーンクリームスープ。ホウレンソウとベーコンのソテー。バニーズ特性サラダを和風ドレッシングで。あとドリンクバーひとつ!」


 と、ビコウがそれこそまくし立てるように注文をする。どんくらいお腹が減ってたんだろうか。


「そ、そんなに注文して大丈夫なのか?」


 オレは対面に坐っているビコウを一瞥しながらたずねると、


「大丈夫大丈夫」


 とビコウはカラカラとした笑顔で返してきた。



「あ、わたしは四川風麻婆豆腐と春雨をそれぞれ単品。一口餃子を二人前。それから担々麺と甘味かんみに杏仁豆腐。ドリンクバーひとつ」


 オレからみて上座に坐っているテンポウがちいさく挙手しながら注文をする。

 見た目がビコウの次にちいさいだけに、そんなに多く頼んでも大丈夫なのかと思った。

 もしかすると結構な大食漢なのかもしれないが、女の子に言うことではないけど。


「和風ハンバーグステーキ。ミートソーススパゲティーをそれぞれ単品で。スイーツにティラミス、蜜豆抹茶ケーキ、ミルフィーユ。ドリンクバーひとつ」


 下座に坐っていたケンレンも、前二人と同様に多くのメニューを注文をする。

 っていうか、ほんとキミらどんだけ食うの?


「お、オレはコーヒーで」


「あら? 好きなモノ頼んでいいんですよ。今日はビコウさんのおごりってことになっていますから」


 首をかしげるようにテンポウがオレに言ってきた。


「いやさっきご飯食べてからログインしたからな。お腹いっぱいなんだよ」


 オレは苦笑いを浮かべる。

 いや、それ以前にだ。

 ――これって、ゲームだよな? ご飯を食べて満腹になるのか?

 もしかしたら、そういう隠しパラメータがあるのかもしれない。

 まだ初めて二日しか経っていないから、オレが知らないパラメータがあるのだろう。



 注文した料理が次々とテーブルの上に並べられていく。


「さてと、シャミセンは運営からのメールを確認した?」


 ケンレンは和風ハンバーグステーキをナイフで一口サイズに切りながら、それを口に咥える。

 その仕草は慣れていて、思わず見惚れてしまった。


「あ、あぁ、読んだよ。ゲームが始まってからちょうど四ヶ月目だからちょっとイベントをやるみたいだな」


 タイトル画面からログインした時、最初の画面で『第一回イベント開催』というものが出てきてからログインしたことを思い出す。


「今回のイベントは四人でチームを組んでの総力戦。メンバーは別々の場所で他チームのプレイヤーを討伐する。チームメンバーの勝利数と敗北数の合計から順位を決める」


「前半は勝てばポイントが[2]もらえますけど、負ければポイントが[1]減ります。ただプレイヤー同士の間合いがイエローに入るだけでポイントが[1]もらえるとう、参加プレイヤー総当りのポイント戦ですね」


 どうやら対峙しただけで、プレイヤーそれぞれにポイントが[1]加算されるようだ。

 その戦闘で勝てばポイントが[1]増えて合計で[2]になり、負ければポイントが[1]減ることになるから、負ければ実質ポイントが[0]になるわけだ。


「おそらくサービス開始からやっているプレイヤーがチームを組んでいる場合を考えて、シャミセンさんや初心者プレイヤーが手に入るポイントを考慮したのでしょう。これなら少なくてもレベルが近いチームどうしで戦えば勝利数でポイントが入りますし、強いチームから逃げてもポイントが入るようになります」


「しかもぅ、うむぐぅ、運営のブログぅではぁ、あむぅ、自分よりも強いレベルのプレイヤーに勝つと勝利ポイントが倍はもらえるみたいですよ」


 食事をしながら、ビコウがもごもごと口を動かす。


「それってスゴイな、まぁある程度条件はあるだろうけど」


「そうですね。レベルの差が10以上でないとボーナスポイントは入らないそうです」


 レベル10以上か……それってかなりキツいな。



 もちろんステータスにもよりけりだろう。場合によっては相手が課金していて、同レベルだったとしても攻撃力が高いアイテムを装備しているかもしれない。


「相手のステータスが見えないってのがこんだけキツいとは思わなかったな」


 こっちはまだ攻撃スキルがひとつ。魔法スキルがふたつとそれを補助するスキルがひとつしか覚えていない。

 [忍び足]も攻めるという意味では有効だが、守るという意味ではあまり使えない。――もしかすると防御系で似たスキルがあるかもしれない。



 ……と、オレが色々と考えていた時だった。


「とりあえず、私たちはシャミセンさんをリーダーにして出場しようかと考えています」


 そうテンポウに言われ、オレは「えっ?」と彼女を見やった。


「お、オレがリーダーに?」


 オレは自分を指さしながら、テンポウたちに聞き返す。


「いちおう出場しただけでもアイテムはもらえるのよ。ちょっとした回復アイテムだけどね。参加したらログインしなくてもいいのよ」


 参加賞があるだけまだいいのかね。


「うーん、自分で言うのもなんだけど、そんなに攻撃力ないんだよな。レベルアップのポイントは全部LUKに振り分けているし、[女王蜂のイヤリング]でプラスになってるけど、それでもかならずクリティカルが出るとは思えないぞ?」


「それについてはちょっと私に考えがありますから大丈夫ですよ」


 ビコウがすこし、不敵な笑みを浮かべる。



「とにかく明日の夕方六時からですから、チームを組んでおきましょう」


 ケンレンはフレンド登録画面から、オレにメールを送る。

 目の前にいるのだから直接いえばいいのだが。


「チーム名はどうするんだ?」


「『施餓鬼せがき』というのはどうでしょうか?」


 なんだそれ? まぁチーム名を考える手間もなくて助かる。


「では、私たちはちょっとこれから用事があるので抜けますね」


 テンポウが惜しむような口調で頭を下げた。

 おそらくイベントに参加するための勧誘だったのだろう。


「あぁ、オレはみんなのステータスを見て作戦とか考えてみるよ。ビコウひとりだと大変だろうからな」


 何気なくそう伝える。


「ふぇっ? あ、ありがとうございます」


 ビコウは顔を真っ赤にし、はにかむように顔をうつむかせた。

 そんなふうに言った覚えはないのだけど。


「それじゃぁ、明日イベント開始の一時間前に集まりましょう。幸い明日は土曜日だからね」


 ケンレンの言葉を最後に、三人の美少女たちはログアウトした。

 フレンド登録している一覧にある彼女たちの名前も白かったものがグレーに変わっている。完全にログアウトした証拠だ。



「さてと、それじゃぁ彼女たちのステータスを見ましょうかね」


 どうやらチームリーダーになったプレイヤーは、特権としてメンバーのステータスを見ることができるようだな。


「…………えっ?」


 彼女たちのステータスを見るや、オレは唖然とする。

 その数字が想像していた以上……いや、異常だったからだ。


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