第4話・神の悪戯とのこと


 ゲームを始めてから四時間ほどプレイをしていた時のこと。

 現実世界とゲームの時間は統一されており、現在夜の十二時だ。

 レベル上げも一段落し、現在レベルは10。

 周りを見ると、草原は月に照らされていて、深夜帯に入ったからなのか、プレイヤーの数も結構まばらになってきていた。

 さて、明日のこともあるし、そろそろやめるかと思っていた矢先、


『こんなことが話題になっていた』


 と、ゲームを紹介した友人からメールが届いており、VRを中断して、さっそく書かれているリンク先を見ることにした。

 掲示板のスレが立てられたのは、ほんの一時間前のことだった。



 ===========================



 【緊急速報】オレのVRギアが壊れた【メンテナンス中】



 1 名前:名無しのゴンベエ

 もう泣きたい。せっかく星天遊戯始めたのに



 2 名前:名無しのゴンベエ

 スレ立て乙。kwsk



 3 名前:名無しのゴンベエ

 今日、オレが住んでいるところでありえんくらいのゲリラ豪雨に見舞われてて、オレが帰ってきた時には休止状態にしてたパソコンの電源が落ちてた。たぶん停電してたんだと思う。

 そんで、いつでもゲームが再開できるようにVRの電源つけっぱなしだったんだが、雷にやられたのかうんともすんとも言わん。



 4 名前:名無しのゴンベエ

 VRギアたん昇天したのか。時間置いて電源入れたか?



 5 名前:名無しのゴンベエ

 悲しいこと言うな。実際一時間くらいあとにもう一回電源を入れてみたが反応しない。マジで電源ショートしてるかもしれん。

 メモリーとか入れ替えてるから、そこまでなら分解できるが、如何せん本体全体まではオレの知識では怖くてできん。

 仕方ないからメーカーに修理出す。痛いが壊すよりいい。



 6 名前:名無しのゴンベエ

 ゲームの人気とうわさでVRギア売れてるからな。

 そういうのは懸命な判断だ。俺もPCならある程度知識もあるし、大丈夫だが、VRギアはまだそんなに歴史があるわけじゃないし、1と同じでメモリーの入れ替え以外の改造はまだ怖くてできん。



 7 名前:名無しのゴンベエ

 そういえば、おれの住んでるところもゲリラ豪雨にあってて、雷すごかった。

 まぁ1と違って、しっかり電源は切ってました。(キリッ)



 8 名前:名無しのゴンベエ

 他にも被害にあったやついるんじゃないか?

 かという私も被害にあった人間でね。

 >7と同じだったから、機械が壊れてはいないが。



 9 名前:名無しのゴンベエ

 いま調べた。どうやら現場は東京みたいだな

 時間は今日の夜9時から、30分くらいの短いやつだけど、降水量3センチらしい。雷結構鳴ってたって情報掲示板に書いてある。



 10 名前:名無しのゴンベエ

 その時間、だいたいみんななにかVRゲームしてるな。

 さすがにいきなり過ぎてアボーンってなってるやつ大量発生してそうだなw。



 11 名前:名無しのゴンベエ

 しゅじんこうのめのまえがまっくらになった▼



 12 名前:名無しのゴンベエ

 リアルすぎるわw



===========================



「雷かぁ。そういえば途中でトイレに行ってる時に結構鳴っていたなぁ」


 オレは思い出しながら、ベッドに倒れこむ。

 明日、学校に行かないといけないため、しっかりと休眠を取る。

 ……たぶん、ものの数分で、倒れるように眠りついた。



 ♯



 翌日の夕方。学校から帰ってきたオレは、鞄を机の上に置き、部屋着に着替えると、夕食が用意されるまで[星天遊戯]にログインすることにした。


「さてと……おっ?」


 はじまりの町にあるログインポイントに入ってから、メニュ―を開いた時だった。

 メールマークのアイコンの右下に、[○]の中に[3]という数字が入ったマークが付けられている。



 ◇シャミセン【職業/法術士】/メール③

  ◇Lv/10

   ◇HP25/25 ◇MP10/10 ■2183N



「メールが来てる? しかも三通も」


 たぶん運営からの情報メールだろうなと思い、そのメールを開いた。



 ◇送り主:ビコウ

 ◇件 名:はじめまして

  ・はじめまして 先日からゲームを始めたばかりの初心者です。

  ・昨夜シャミセンさんの戦闘を見て、あなたの戦い方に興味がわきました。

  ・すこしお話できませんでしょうか。ちなみに勧誘とかではありません。

  ・もしよろしければ、明日の夕方、御時間がありましたらはじまりの町のログインポイントで待っています。



 という内容。どう見ても勧誘です。本当にありがとうございます。


「送り主は……えっと?」


 送り主の名前を見て、すこし唖然とする。



 送り主の名前は[ビコウ]と書かれている。

 ステータスを見るにはフレンド登録しないといけないらしく、まだ誰一人とて登録していない。



「あの……」


 周りを見渡していると声が聞こえ、そちらへと振り返ると、そこには、栗皮色くりがわいろのショートカットに、金色の瞳をした少女が立っていた。

 少女は格闘家の職業のようで、チャイナドレスを改造したようなミニスカートタイプの拳闘士の服をまとっている。

 身長はおそらく一五〇くらいだったが、歳相応以上……いや、それ以上に膨らんだ胸に、オレは誘われるように視線を落としていた。


「どうかしましたか?」


 少女は首をかしげ、ジッとオレを見つめた。

 丸々としたつぶらな瞳の奥から、人を見定めるような雰囲気がある。


「あ、いや……オレになにか用かな?」


 オレは慌てて、少女の顔をうかがう。


「はい。お待ちしておりました」


 少女は笑顔で応える。

 はて、なにを待っていたんだろうか?


「あ、ビコウさん、見つかったんですか?」


 もうひとつ、少女の声が聞こえ、そちらに目を向ける。

 やってきたのは桃花色ももはないろのツインテールに真珠色パールライトの瞳をした少女だ。

 オレに気付くと、ビコウと呼ばれた栗皮色髪の少女に駆け寄るや、彼女の背後に回り、オレをジッとみつめた。

 その様子が、なんとも小動物っぽく見えて、可愛らしい。

 先ほどの少女と同じくらいかと思ったが、並んで見ると、この子のほうが大きいようだ。



「待ちなさいなテンポウ。相手がおどろいているでしょ?」


 もう一人、今度は大人っぽい女性の声だった。

 その女性は身長が一七〇前半はあり、スラっとした身体をしていて、モデルのようなプロポーションだ。燃えるような赤い髪は腰まで流れるように伸びている。

 いわゆるストレートパーマだと思う。

 オレとおなじような魔法使いの法衣を羽織っているが、首につけているネックレスに無意識に目がいった。

 そのネックレスは九つの髑髏しゃれこうべが並ぶように装飾されていた。



「えっと、もしかして最初の、栗色の髪をした女の子がオレにメッセージを送ってくれた?」


 オレがそうたずねるや、栗髪の少女がうなずいてみせた。


「実はわたしたち先日ゲームを始めたばかりでして、わからない部分もあるんです」


 ツインテールの女の子が、困ったといった表情でオレを見つめる。


「そこで優しそうな人に目をつけて、色々と一緒にプレイしてもらいたいなって。もちろんそれなりのことはするけどね」


 赤髪の女性は、クスクスと笑みを見せる。


「あ、自己紹介がまだだったわね。アタシの名前はケンレン。[死霊術師ネクロマンサー]という職業よ。このちっこいのはテンポウっていって、職業は[魔導剣士]。で、こっちのアタシたちの中では一番チビのわりにバカみたいにおっぱいが大きいのがビコウ。職業は[武闘家]よ」


 ……と、赤髪の女性――ケンレンがオレに自分たちを紹介する。


「よ、よろしくお願いします」


 オドオドとテンポウが頭を下げる。


「まぁよろしくね。ところでケンレン、なに? 今の紹介の仕方は?」


 栗色の髪の少女……ビコウは、キッとケンレンを睨みつける。



「いや、事実を言ったまでよ」


 ケンレンは悪びれる様子もなく平然とした表情でいいかえす。


「いくらなんでも初対面の人にそういう説明はないでしょうがッ! このエロカッパァッ! 胸のことについては本当のことだけど、結構気にしてるのよ?」


「しぇからしかー、あんたが反魔法効力があるスキルばもっちょらんかったら、煮て、焼いて、食って、木の葉で被せるっちゃけどねぇ。こんのバカザルかぁっ!」


 ギャァギャァとケンレンとビコウが喧嘩をはじめた。


「と、止めなくていいのか?」


 今度はオレがおどおどと、喧嘩している二人を止めるべきか、テンポウにたずねる。


「ほっといてもいいですよ。どうせすぐに飽きますから」


 テンポウはさほど気にしていないといった表情を見せている。

 おそらく普段からこういうテンションなのだろう。

 よくよく考えると、美少女三人に話かけられているため、オレは内心違う意味でドキドキしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る