第3話・初戦闘の疑問とのこと


「相手は……そうだな」


 じっくりと周りを見渡し、めぼしいモンスターに狙いを定める。

 ふと目に入ったのは、前方10メートル先にいたウサギ。

 白い体に赤い瞳という見た目は普通のうさぎなのだけど、ひとつ違うのは異常に前歯が発達していること。

 そのウサギはオレの気配にはまだ気付いておらず、のんびりと草を食べている。

 見た目に反して、なんともほのぼのとしたモンスターだ。


「なんか普通に考えると動物虐待だよなぁ」


 ゲームなんだから気にするなといわれそうだが、こうも現実に近いと、本当にやってるように思えてきて心苦しくなってくる。

 今回は魔法ではなく、通常時での攻撃力STRがこの周辺のモンスターに対してどれほどのものなのかを確認するため、杖が当たる範囲まで近付かなければいけない。

 つまりは距離によってはウサギのほうもオレに気付いて攻撃してくる場合もある。



 オレは意を決して、一歩、また一歩とウサギに近付いていく。

 ウサギはまだ気付かない。

 ――そろそろ気付くかな?

 そう思いながらも、ジワリ、ジワリと足を近付ける。

 モンスターはこちらに気付かないが、これ以上近付いたら攻撃されそうだ。

 足を一歩踏み出し、


「おらぁっ!」


 ……と、杖の膨らんだ部分でウサギの頭をポカリ。


「杖装備してるキャラがこんな物理攻撃なんてしないよな」


「……っ! キュゥ」


 と自分にツッコミを入れると同時に、ポテン……と、そんな音が聞こえるくらい、ウサギは柔らかく、気をうしなうように倒れ、消滅する。

 ウサギがいた場所にコインが散らばっている。



「…………はぁ?」


 いやいやいや? ちょっと待て?

 攻撃してまだワンターンですよ? ウサギさん。

 そんなね、出たばかりの冒険者の攻撃を一撃喰らっただけで倒れますか?

 そんなオレのツッコミをさえぎるようにファンファーレとアナウンスが流れた。



 ◇プレイヤーのレベルが上昇しました。【Lv.2】

  ・ポイント【5】授与されます。



 どうやらレベルアップしたということらしいが……。


「いや、ちょっと待て?」


 オレはレベルが上ったことにおどろくとともにツッコミを入れる。

 そんな一回の戦闘ですぐにレベルが上がるのかい?

 それってどうなんだ? 運営。……


「まぁいいや。どうせあとからきつくなってくるんだろ」


 ウサギがいた場所に散らばっているコインを拾い集める。

 コインは手に持った瞬間、消える。


「あらら?」


 唖然としたが、すぐにメニューを開いて確認する。



 ◇シャミセン【職業/法術士】(+5)

  ◇Lv.2

   ◇HP25/25 ◇MP10/10 ■1N



「あ、増えてる」


 最初[0N]だった所持金が[1N]に変わっていた。

 どうやら手に持った瞬間、その人の所持金になるようだ。


「財布いらねぇなぁこれ」


 五枚落ちていたのでそれら全部を拾い集めると合計で[5N]。

 まったく割が合わん。


「もしかすると、レベルがすぐに上がるようになってるのか?」


 すると、メニューボタンが光っていることに気付き、それを開いた。



 ◇体現スキル【忍び足】を取得しました



 それを見て、はてと首をかしげる。

 そんな一回の戦闘でスキルを覚えるのか?


「えっと[忍び足]か。えっと、なになに? 相手の攻撃範囲のレッドゾーンからでも先制が取れる……かぁ」


 気付かれはするけど、相手の動きが遅くなって先制が取れやすいってことか……。

 だけどこれって、アサシンが覚えるやつじゃないのか?

 そう思いながら、下に目をやると、スキル取得の条件が記されており、さらに「はぁっ?」という、素っ頓狂な声をあげてしまった。



 ◇【忍び足】

  *体現スキル/AGI依存

  ・相手の攻撃範囲がレッドゾーンの場合でも先制が取れる。

  ・使用時、現AGI5%(小数点以下の場合、一桁繰り上げての計算)分のHPを消費する。

   ◇【取得条件】

    ・モンスターとの間合いがレッドゾーンに入っても、気付かれずに攻撃を成功させる。



 取得条件の説明を見て、オレは思わず納得のいかない声を出した。


「嘘だぁ、それってレベル1はどう考えても取得できないだろ?」


 オレは目を点にする。

 もしかしたら敏捷性AGIとかが高かったら手に入れられたかもしれない。アサシンとか。

 でも、オレの敏捷性AGIすんげぇひくいよ。

 ってことはモンスターから気付かれなかった。という意味では幸運値LUKで手に入れたのかね?

 気を取り直してステータスを見ると、職業の横に[+5]という文字が出ていた。

 レベルアップの時に追加されたのだろう。


「やはり、ポイントを振り分けるみたいだな」


 さて、どれに振り分けるか…………。


「魔法を覚えるということを考えると、知能値INTに振り分けたほうがいいだろうな」


 普通の魔法系職業ならそうする。オレだってそうする。


「だが、すべて幸運値LUKに振り分けてやる」


 もはや決定事項だ。

 これで幸運値LUKの数値が35から40に上昇した。


「あれ? HPとMPに変化はないのか」


 おそらくは生命力VITを増やせば、それにともなってHPが増えていくんだろうけど、レベルによる上昇はないようだ。


「うーん、生命力VIT補正があったのか? もしかするとクリティカルで倒せたとか?」


 さきほどの理解不能な勝利に、オレは色々と推察してみる。

 それでもせいぜい通常攻撃しかしていないから、150%くらいの補正しかないと思う。

 モンスターのVITにおける防御力もあるから、一撃で倒せたとはあまり思えない。



「モンスター図鑑みたいなものはないのかね?」


 メニューを広げると『図鑑』という項目があり、それを開く。


「お、モンスターが結構登録されている」


 ウサギ以外にもネズミ、虫の名前が一覧に表示されていた。


「あ、見ただけだと図鑑に登録はされるけど、戦闘して勝たないとステータス全部が見えないんだな」


 ウサギ以外のステータスはすべてハテナが並んでおり、ウサギだけしっかりとステータス情報が記録されていた。



 ◇ピーバーラビット

  ◇HP20 ◇MP0 ◇属性/【木】

  ・草原に暮らしている、人になつきやすいおとなしい兎。

  ・齧歯類のようなするどい前歯を持っている。

  ・攻撃を仕掛けてなければさほど恐ろしくもない。

  ・ただし攻撃されたらされたで強力な前歯で攻撃を仕掛けてくるため注意が必要。

  ・また巣である穴蔵に住んでいる母兎は敵がその穴に近づいてきたと察した時点で毒霧を吹き出すスキルを発動する。



「HPはっと、…………20?」


 ウサギのHPを見て、オレは思った。


「あぁっと、たしか[忍び足]の取得条件が『モンスターとの間合いがレッドゾーンに入っても、気付かれずに』……」


 オレはとっさに[F&A]にウィンドゥを切り替えた。


「[攻撃範囲]、[攻撃範囲]っと」


 質問一覧に、モンスターとの間合いについての説明が載せられていた。



 *F&A

 ◇モンスター、並びに対プレイヤーとの攻撃範囲について

  ・攻撃範囲は三段階あり、モンスターを中心に、赤・黄・緑の順に間合いが設定されている。

  ・緑(グリーン)はモンスターとの間合いが一番離れており、攻撃力は黄(イエロー)の1/2。

  ・そこから攻撃が通っても、攻撃ダメージを受ける前に立ち去ることができる。

  ・黄(イエロー)は剣と剣がぶつかる範囲。あたえられるダメージは100%。

  ・赤(レッド)は入った瞬間モンスターがすぐに気付き、被ダメージは150%。プレイヤーの攻撃も150%になる。

  ・クリティカルダメージは距離に関係なくダメージ計算では+100%となる。



「ということは、あの攻撃で、合計で250%になっていたってことか?」


 それでもたとえば与えられるダメージが[5]だったとしても、250%だから、せいぜい[12]くらいだろう。

 これではまだ一撃で倒せるほどじゃない。



「でもクリティカルダメージでも倒せないってことは、まだほかにもダメージ計算があったってことだよな?」


 武器に属性があったとしても、まだ装備しているのは無属性だからそれはないだろう。

 そんなことを考えながら、[F&A]を上にスワイプしていると、下にある『モンスターの急所について』という項目を見つけた。



 *F&A

 ◇モンスターの急所について

  ・モンスターにはその部分を攻撃するとかならずダメージ補正が出る【急所】というポイントがあります。

  ・その部分を攻撃すると、モンスターとの間合いがグリーンの場合においても150%のダメージ補正が入ります。

  *これは通常におけるクリティカルダメージとは異なります。



「でも急所……?」


 そんなところなかったような――と首をかしげていると、


「頭を杖で叩いて――もしかして急所って頭だったりする?」


 つまり、これまでの、レッドゾーンによるダメージ補正の[150%]に加えて、クリティカルの+[100%]、そして急所によるダメージ補正が[150%]だから、合計でダメージが[400%]になっていたということになる。

 これで通常攻撃であたえられるダメージが[5]だとしたら、キッチリ[20]になるから、ウサギのモンスターは一撃KOだ。


幸運値LUK補正すげぇ」


 そう思ったが、どうせ運が良かったのだ。次どうなるかわからない。

 気を引き締めて、オレは次の戦闘へと気持ちを切り替えた。


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