第2話・成長具合について考えるとのこと


 エントランスホールの中心に設置されていたモニュメントに、名前と第一段階での職業、そしてステータスにポイントを振り分けていく。

 それが終了すると、何重もの魔法陣がオレの足元に展開され、SF映画とかによくあるワープエフェクトとともにオレは最初の町へと転送された。



 ◇[イースゴッドの街]



 転送が終わると、画面に町の名前が表示された。


 十字路の道は規則正しく並べて整備された石畳。

 その中心にそびえ立つ大きな噴水が設けられていて、大通りを挟むように色々な店と民家が並んでいる。

 そして周りを見れば雲霞のようにプレイヤーとNPCが行き来している。

 腰に刀剣を携えていたり、法衣や鎧で身を包んでいたりする人を多く見かける。

 おそらくプレイヤーだろう。

 なによりただよってくる賑わった街のにおい、ときどき感じるやわらかな春風。

 今はリアルで四月。街路樹は桜で満開だった。


「うぅむ、仮想現実、末恐ろしや」


 目の前にひろがるゲームの世界よりも、こういうモニターからは感じられない触感と嗅覚を感じられるように、機械が脳に信号を送っているのだろう。

 違う考えをすると恐ろしいが、しっかりとセキュリティーがされているらしい。

 さて、自分の身なりはどうなのだろうか。鏡があったらぜひとも見てみたい。

 まぁ、そういうのは気にしない程度で、とりあえずステータスを見ることにした。



 試しに虚空に指をスライドしてみるとウィンドウが出現した。青く素っ気ない色。


「これって昔からこういう色だけど、やっぱりなんか意味があるのかね?」


 とかく、難しいことは考えず、自分のステータスを確認することにする。



 【シャミセン】/【職業/法術士】/〇N

  ◇Lv/1

  ◇HP25/25 ◇MP10/10

   ・【STR/14】

   ・【VIT/9】

   ・【DEX/19】

   ・【AGI/13】

   ・【INT/10】

   ・【LUK/35】


  ◇装 備

   ・【頭 部】

   ・【身 体】初心者の法具(I+2)

   ・【右 手】

   ・【左 手】初心者用の錫杖(I+3)

   ・【装飾品】



 以上がオレの現在のステータスだ。

 ちなみに名前のことだが、一分で決まったのは、結局悩んだらこれにしているからだ。それこそ小学生の頃から。

 ナズナというのは別名『ぺんぺん草』と言われていて、なんでも花びらが三味線を弾く時に使うバチに似ているかららしい。

 まぁ自分の名前がナズナだからってだけの理由だから、深い意味はない。



「武器補正がそんなになかった」


 初期ステータスを見たオレは愕然と肩を落とす。

 まさか+3だとは思わず、オレは悲鳴にも近い声をあげた。


「法術士の武器で知能値INTの武器上昇値が3はちょっと低すぎませんかね?」


 とはいえ、攻撃力は武器で決まるわけじゃないことだけはわかった。

 職業に沿った装備品によって上がるパラメータが違う。

 それだけがわかっただけでもありがたい。

 もしかすると、短剣が攻撃力STRじゃなく、職業の大盾使いに依存していて、生命力VITにプラス補正が付けられているのかもしれない。



「あ、左手に武器持ってる」


 普通は右手に武器なのだろうが、オレは左利きだ。

 VRギアにアカウントデータを作るさい、名前や住所などの個人データの他に、身長とかスリーサイズ(手につけているデバイスで触るだけだったが)の他に、利き手項目というのがあった。

 VRMMORPGをプレイするさい、普段使っている利き手の方が便利だろうという機能らしい。まぁ間違ってはいないけど。


「たしかに普段やり慣れてるほうがいいな」


 左手を見ると武器は持っていない。軽く振ると、シャリンという鈴の音とともに杖が出てきた。


「おぅ、杖なら山登りの時に役立ちそうだ」


 いや、歩いて疲れるということはないだろう。――さすがに体力を持っていかれるとか変なリアル感はないよね?



 あとはスキルだ。法術士なら魔法メインだろうな。

 どうやらステータスとは別らしく、画面を横にスワイプしてみると、スキル画面が出てきた。



 ◇魔法スキル

  ◇取得済魔法スキル

   *回復補助系魔法スキル

    ・ヒール

   *攻撃補助系魔法スキル

    ・ファイア


 ◇魔法スキルストック

  ・【空白】 【空白】 【空白】

  ・【*ステータスが達していません】



「[取得済]は今覚えてる魔法ってことなんだろうけど、ストックって……もしかしてこれに入れないと使えないってこと?」


 覚えた魔法を自由に使えるってわけじゃないのな。

 拳銃のリボルバーみたいに弾をこめるってイメージにするとわかるけど、使える魔法にも限りがあるってことか。最大でいくつなんだろう。

 戦闘時に装備変更ができないという可能性を考えれば、魔法に関しても、普段からどういう組み合わせにするかを考えたほうがいいな。

 まぁ、それは後々わかることだろうし、今は頭の隅にでも置いておこう。


「今覚えている魔法は……っと」


 オレはウィンドゥのスキル一覧に目をやる。

 ひとつは[ヒール]。これは例外もなく回復魔法だ。

 そしてもうひとつ覚えている魔法が[ファイア]である。


「おぅ、攻撃魔法を最初から持ってるのか」


 おどろく以前に、最初からふたつも魔法スキルがあることをおどろけと自分にツッコミを入れたのは、ものの数秒経ってからだった。

 取得済魔法の項目より下にあるストックは、レベルや知能値INTのステータスで入れられる魔法の数が決まっていて、今はまだみっつまでしかストックに入れることができないようだ。


「とりあえず、ヒールとファイアを魔法ストックに入れておきますか」


 文字を押しながら、ストック一覧のところへとスワイプさせる。



 ◇魔法スキルストック

  ・【ヒール】・【ファイア】・【空白】

  【*ステータスが達していません】



 これでヒールとファイアを使えるようになったということになるのか。


「さてと、これで冒険に出られる」


 と思った時、ふと気になることがあった。


「そういえば、所持金っていまどれくらいもってるんだ?」


 と考えていると、自分の頭上あたりに、



 ◇シャミセン【職業/法術士】/メール①

  ◇Lv/1

   ◇HP25/25 ◇MP10/10 ■0N



 といった、ステータスを簡略化した文字テロップがポップされ、オレの現ステータスと現在来ているメール数、そして所持金が表示されていた。さっきまで出ていなかったのだが、オレがステータスを見たいみたいなことをつぶやきいたからだろうか。

 そうだとしたら、結構優秀なゲームなのではなかろうか?

 メールが一通届いているようだが、どうやら運営からの、ゲームを開始した人に送られるDM(ダイレクトメール)だった。あとで読むことにしよう。

 それよりもまず、気になっていた所持金の項目に目を向けよう。


「えっと、ONオン?」


 いや、たぶん【[ゼロ]N】だろうな。

 [N]というのがこのゲームにおけるお金の単位かもしれない。


「まぁもし予想どおりお金だとして、モンスターを倒したら変化するだろうし、その時に再確認しよう」


 オレはそう思い立つと、すぐに荒野へと足を向けたのだった。



 最初の街の大門をくぐりぬけると、外は一面広大な草原だった。


「さてと……おぉっ! けっこう盛り上がっているな」


 周りを見ればプレイヤーがモンスターと戦っているのが目に入った。


「うーん、まだはじまりの町から離れていないからかモンスターもそれなりの強さしかないな」


 冒険者たちと対峙しているのは、ウサギやネズミ、虫のモンスターだった。

 プレイヤーが攻撃を仕掛けようとした時、モンスターが先に攻撃を仕掛けてきている。

 いわゆるリアルタイムバトル形式だ。

 っていくことは、モンスターの敏捷性AGIが高かったら、二人かがりでやってもきついってこと?

 他の人のバトルは、どうやら遠くからでも観覧できるようになっているようなのだけど、次のターンまでのゲージが見えないってことは、内部でAGI計算がされているってことか。



「お、倒した」


 様子を見始めてから、だいたい五ターンくらいで戦闘に勝利してる。

 AGIが高いと、連続で攻撃することも可能だろうから、あくまで目安でしかないけど。


「というか、ターンの区切りをどうするかだよな?」


 [敵→味方→味方→敵]みたいに一周するとかだったらわかりやすいんだけど、リアルタイムバトルっていうのは、状態異常で敏捷性AGIが変わるとそれだけで攻撃の順番がコロコロと変わるから、それで最悪避けられるなんてこともありえるし。


「ここらへんのはまだそういう状態異常を出してくるのもいないだろうし、のんびりとやってみますか」


 オレは左手を振り、錫杖を取り出すと、新たにポップアップするモンスターを探しはじめた。


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