第15話 医療キット

 今まで、いろんなことが起こりすぎてウルに気が回らなかったせいか気がつかなかったが、ウルをよく見ると、服は全体的に擦り切れ、ボロボロになっており、右腕の袖も破け、血が流れ出ていた。


 あの時、キラーの尻尾から腕を出した時に受けた傷か。


「ウル、それ大丈夫なのか」


「え?」


 何気ない様子で俺の方を見るウル。


「その腕、血が流れ出ているだろ。それに体もボロボロじゃねぇか」


「あ、あぁ。アニマはね、人間がバトル中に内部から受ける神経的ダメージとは違って、戦闘で直接的な怪我を負うの。だから、血が出たりするわ。まぁ、人間から見ると映像演出なんだけど、ダメージは正確に受けるようになっているの」


「違うって!俺の言ってるのは、その怪我でいても大丈夫なのかっていってんだ」


「プッ」


 え……?


 急に笑い出すウル。


「ミチノブって面白いね。さっきは『お前らはシステムだろ』なんて言っていたのに、急に心配なんかしてくれるんだもん」


「それは、余裕なかったっていうか。正直まだ、いろいろよくわかってないっていうか……」


 それにしても、アニマって『システム』とか言われると気にするんだな……。でも、人間でもないわけだしな。あぁ、やっぱ、こういうことを考えると余計にどういう風に接していいかわからなくなる。


 無意識に後ろ髪を何度も触ってしまう俺。


……まぁ、どちらにせよ、アニマって人間らしい可愛いところもあるんだな。


「ありがとうね」


 一間空けた後、唐突にそう言ったウルは、笑顔でこちらを向いていた。


「まぁ、とりあえず、どうなんだよ」


 俺は、久しぶりに、こんなにも純粋に感謝されたものだから、少し照れ臭くなった。


「あ、うん。さっきも言ったように、ダメージは受けているんだけど、これくらいならたいしたことはないわ。アニマは基本的に自然治癒するの。まぁ、回復速度はアニマによって違うんだけどね。……あ、それと、バトルで戦闘不能になれば、『医療キット』なしでは回復できないからね。


 それに、ついでだから言っておくけど、普段のバトルで怪我をした場合でも、すぐにアニマを回復させるためには、今言った『医療キット』が必ず必要になってくるわ。まぁ、相場は……場合にもよるんだけど、今の私の怪我程度なら即時に全回復するためには3000円くらいは必要かな。まぁ、とにかく、怪我の具合によって値段は変動するの。だから、もし戦闘不能にでもなれば、即完治するためには……多分最低でも約100万円は必要だからね」


 はぁ?通常なら一般的な課金の域を超えているだろ……。まぁ、でも今となってはあまり驚きはしない。さっきのバトルにしろ、もうゲームじゃないことは十分にわかってきたし。でも……


「まてまて、戦闘不能時の即時回復が最低でも約100万円?!どれだけ金をとる気なんだよ」


「まぁ、即時に全回復させるのだから仕方ないわ。もし、連続で戦うことになった場合、アニマが少しでも怪我をしていると不利になるでしょ。だから、時をお金で買うと思えば安いものよ。


 あ、あと、言い忘れていたけど、今話したことは、あくまでも即時回復のことであって、もし、戦闘不能になったとしても、最低1万円さえ払えばで戦闘不能状態が解除され、最低限の体力の50%は回復してくれるから安心して。だけど、戦闘不能後に1万円がなかった場合、実質、それ以上バトルができないことを意味するから、その状態で何もせず3日間が過ぎれば、ペナルティを受けることになるから気をつけてね」


「あぁ、覚えることが多い……」

 

 ん?しかし俺はここで一つの疑問が浮かんだ。


 さっきの話でこのバトルをやめられないことは理解できたが、俺はもう自分からバトルなんてする気はないし、基本的にもうバトルをしなくていいはずなんだ。なのにウルは、なんでさっきから、これからのバトルを想定して話をすすめるんだ。


「なぁ、ウル。それはわかったけどさ、俺はもうバトルしなくていいはずだよな」


「そうね。確かに、もう3日間はバトルしなくていいわ。でも、最後に行ったバトルから3日過ぎるまでに、またバトルをしないとペナルティを受けることになるわ」


 その時、俺の視点は一時停止した。なぜなら、また、バトルをしなければならないという緊迫感と、ペナルティがいつ自分に降りかかるかもしれないという恐怖感が同時に襲ってきたからである。


 冗談だろ?聞いていない、そんなこと。実際、あのアップデートの時も、あのCEOは3日以内に1度でもバトルをしなければって……


 まてよ、これってずっと続くってことなのか?


「うそだよな。3日以内にバトルを一度でもすれば、ペナルティは受けないはずじゃなかったのかよ。これって、もしかして……」


 動揺する俺を前に、ウルは頷いた後、ゆっくりと口を開き、甘く澄み透った声で、1語も噛むことなく言葉をはいた。


「そうよ、これからずっとペナルティを受けないためには最低でも3日間のバトルローテーションが繰り返される。そう、これが今回のアップデート――Version10.0.0アニマシステム」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る