第2章

第14話 前兆

 俺は、車の電源を入れ、シートにもたれかかろうとするが、驚きとともに即座に上体を起こした。


「えっ」

 

 親父……?何の用だ。それに留守電まで。……あ、そうか。俺の帰りがあまりにも遅すぎるから、わざわざ電話をしてきたのか。って、何歳だよ俺は……。まぁ、あぁ見えて親父は心配性だからな。


 でも、俺の親父は普段、電話をかけてくることはあっても、今までの人生で一度も留守電なんて入れてくることはなかった。


 隣のシートには、当たり前のようにウルが座っている。


「ミチノブ、留守電再生する?」


 俺のイヤーに自然と入るウルの声。


 そうか、アニマは今までのPoPoronみたいな役割もするんだよな。 


「あ、いや、今はやめとく」 


 今はとにかく、この場から離れたい……。それに、また何が起こるかわからないしな。まぁ、留守電のことは少し心に引っかかるが、そこまで気にすることもないだろう。


「わかったわ」


 この時、俺はいつものことのように、秀の着信のことは忘れていた。というのも、もし、用事があれば、秀はまたすぐに電話をかけてくるという意識が当たり前のように俺の中にあったからである。それに、メッセージも届いていない。


 それより、俺は戦闘が終わり、安心したのか少し笑みをこぼし、アニマが隣にいるという、今までにない異様な空間を不思議に感じていた。


「てか、ウル。普通にいるんだな」


「うん。でも目障りなら設定で姿を消すこともできるからね」


「大丈夫。まだ慣れないっていうか……それに、まだ、いろいろ状況も把握しきれてないしな」

 

 そして、俺はウルと話をしながら自動運転車に『行先:1番近いコンビニ』と指示を出した。――青く光る速度メーター。


 あぁ、それにしても、今は喉が乾いてしょうがない。結局、アップデートとバトルのせいでジュースは買えなかったからな。


 『行先』が決まると、すぐさま動き出す自動運転車は、静かな動力音とともに、ゆっくりと進みだした。


 もちろん、運転手は俺だが、ハンドル(コントローラー)は握っていない。なぜなら、この時代のハンドルは、予備のために備え付けられているからである。言うまでもないが、それだけ、圧倒的にコンピューターの信頼度が高いということを示している。



 パーキングを出る際、通り過ぎたカズマの姿は、とても傷ましく、何とも惨めではあったが、同情の念は、全く起きなかった。それは、俺の頭にバトル上では対等であり、あいつの下手に出れば俺がやられていたという思いがあったからだ。


 それに、今の俺には他人のことを考えるほど、余裕がないのかもしれない……


 だから俺は、この世の中には救いようのない人間は必ずいる。そして、綺麗ごとだけでは生きていけない道理がある。と、そう思うことで自分を納得させた。


 カズマを過ぎ去る間、静かに口を閉じる俺とウル。


 そう、現実は何も変わらない。もう、考えないようにしよう。

 

 と、心で頷いた俺は、少し重苦しい雰囲気を感じたので、それをかき消すかのようにウルにたわいもない話を持ちかける。


「まぁ、とりあえず、今からコンビニでも行って……」


 と、その瞬間、俺は、ふとウルを見て驚く。



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