第13話 現実
もう俺には何が何だかわからなくなっていた……。
何が現実なんだ……。
「またアイサイトのおふざけだよな」
「ごめんなさい、ミチノブ。でも、これは現実なの。ミチノブも負けていたらこうなっていたのよ……。今は私の言っていることがわからなくても、きっと、日に日にわかるはず……」
カズマを見ながら話すウル。
だが、俺にはその言葉が、俺自身を心配して言ったのか。パートナとして消えると困るから言ったのか。それとも、ただ、現実を突きつけるために言ったのか、わからなかった。
しかし、1つだけ確かなことは、ウルの言ったことに間違いはないという確信であった。
そう、もし負けていたら、俺がこうなっていたからだ……。
と、そう思うと次第に俺の全神経へさらに緊張感が走った。
「やめることはできるよな」
首をゆっくりと横に振るウル。
「まじかよ……」
「ねぇ。ミチノブ。私はシステムだからあなたたち人間の気持ちが全てわかるわけじゃないし、現実的なことばかり言うのかもしれない。
……でもね、これだけは信じて。
時は、もう戻れないの」
ウルが何を言いたかったのか正直わからなかったが、その言葉の意味が、ニートの俺の心に突き刺さるのは紛れもない事実であった。そう、人生はゲームではなく、1度きり……バーチャルの世界以外の時は待ってくれない。失敗すれば、その失敗を取り返せても、失敗した事実が消えることはない。そして、大抵の場合、取り返せないことの方が多いのだ。
俺の、こんな人生さえもいつもそうだった。失敗ばかりして、何も取り返せなかった……。
確かにそうだよな。さっきウルが言ったみたいに、このバトルに限らず人間は毎日、人生を選択し、何かを賭けて戦っているのかもしれない。誰かが良い思いをすれば、もう一方は苦しい思いをする。だから勝った方には報償を与え、負けた方には代償を与える……。
だからこそ、今を噛みしめて何事も勝ち進めなければいけないってことなのかもな。
負けたら終わりなんだから……。
俺は、イレギュラーな状況に困惑していたが、いつの間にか結局、今までと現状は何一つ変わらないのだと自己完結し、逆に冷静になれていた。
俺は、一息つく。
「確かに、ウルの言うとおりかもな。わるかった、八つ当たって」
きっと今までの会話からシステム的に一定の情報を漏らすことをブロックされているのだろう。ペナルティの情報も最初は隠されていたからな。まぁ、今はウルなりに俺を後押ししてくれたことはわかった。
頷くウル。
俺も頷き返し、ふと、またカズマの方を見るが、そこには気力を失ったのか、絶望からなのか、カズマはそこに、足を延ばし、じーっと座り込んでいた。別に、死んでいるわけでもない。
カズマは俺を見て、微かに口を動かす。
「な・ん・で」
そう、見えた。
そして、カズマは、頭を抱え込むようにして、ゆっくりとうつむき静止した。
俺はどうすることもできず、何も言い返せなかったが、確かに感じたものがある。
なんで、負けたんだ
なんで、こうなった
なんで、足が動かない
なんで、話せない
なんで、何も、わからない……
それは、きっと、その言葉が全てを語っていたのだと……。
それから、俺はゆっくりと立ち上がり、念のため、一連の出来事を警察に連絡しようと何度か電話をかけたが、回線が込み合い繋がらなかったので、ウルとともにゆっくりと自分の車に戻り、乗車した。
くっそ。まだ、頭が痛い……。
6月1日金曜日
現在時刻:21時13分07秒
視界に映るコールアイコンが点滅している。
『不在着信:2件あり』
俺は何気なく着信履歴を開く。
『親父さん 1件 留守電あり』
『秀さん 1件』
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