第12話 ペナルティ
手から離れたナイフは地に落ち、滑りゆく。そして、うつ伏せになるカズマは、こっちらに強い眼差しを向け、口を開いた。
……何を言っている?
口を必死に動かすカズマだが、俺には何を言っているのかさっぱりわからなかった……。
その時、俺に唯一わかったことは、明らかにカズマの様子が先ほどと比べ、おかしかったことである。
「ペナルティよ」
気づけば、ウルが隣に立っている。
「これが、ペナルティ? 」
カズマは、急いで体を起こそうと何度も何度も地に手をつき上体を押し上げたり、自分の足を必死にさすったり、叩いたりしているが、上体が左右に動ごいているだけで、下半身は全く動いていない。……こんな表現はしたくはないが、それはまるで、昔テレビで見た事故に合った猫のようだった……。
「そうよ。ペナルティ名は、
この時、俺は、まずペナルティがどうこうよりも、焦り、もがくカズマを見てゾッとしていた。なぜなら、先程まで威勢のよかった人間が、急に、焦り、混乱し、そして、おかしな動きをしだしたからだ。
今の俺は、ただ黙って見ていることしかできなかった。
それから、何度もカズマは必死に体を起こそうとしているが、やはり立つことすらできない。
そして、俺はこの時、もう1つのあることに気づき、さらに、ゾッとすることになる。
……なぜ今まで気づかなかった。いや、気づいてはいた。
……さっきから話そうとするカズマの声は聞こえなかったんじゃない。
……そう、聞こえるはずがなかったんだ。
当たり前だろ。だって、カズマは声を全く出せていないんだから。
これで俺は、カズマの行動に異常なまでにゾッとした意味に納得がついた。
でも、どういうことだ……たかがシステムだろ。
俺はすぐに、ウルに視線を移すと、同じく、ウルもそれに合わせて俺を見た。そして、ウルはそのまま毅然とした態度で俺に向かって話しを続ける。
「言ったでしょ。もしバトル終了後、所持金が0円以下になった者はペナルティを受けることになるって……。全て今見たとおりよ。『セブンタイムズ』が発動すれば、ペナルティを受ける者の目の前には1から7の数字が表れる。そして、カウントダウンが始まり……7秒後、①言葉が話せなくなる。と同時に②下半身の運動機能が停止するの。
あっ、ついでに言っておくけど、ペナルティはARデバイスが脳へ直接、話すために必要な言語機能や下半身を動かすための運動機能を遮断するように信号を送っているから、一度でもペナルティを受ければ、もう回復することはないし、誰も逃げることもできないわ」
「なんだよそれ……どういうことだよ。明らかにおかしいだろ!これがペナルティなら異常過ぎる」
「何もおかしくないわ。あなた達は両者の合意によって、ペナルティが存在することを知りながらリアルマネーの奪い合いを行った……。これはゲームじゃないの。これは人生をかけた選択と戦い。負ければ当然それだけの代償があるということ」
たしかに、こうなったのはカズマの自業自得だ。でも、俺は少しウルを怖く感じた。いや、ウルと言うより、人工知能がか。……所詮、AIからすれば人間は人間なんだ。だから、AIは平気でそうやって軽々しく「現実はこうだ」みたいなことを語り出す。
「わからない……」
俺の頭には、人工知能が行える常識の範囲と目の前に起こった現実が入交り、もう何が何だかさっぱりわからなくなっていた。……カズマと同じだ。
「何言ってんだよ。」
ふと口に出す俺。
「人生とか代償とか意味がわからない。ウル、なんなんだよこれは。 これはもう、明らかにシステムの限度を超えているだろ!!」
俺はもうウルに八つ当たることしかできなかった。
「ふざけるなよ。お前らはシステムだろ……」
目を見開くウル……。
……普段の俺なら、こんな言い方はしなかっただろう。アタリ方が間違えているのもわかっている……。でもこんな状況なんだ。
目の前の現実を見て、少しの余裕もなく恐怖に包まれている俺には、こう言うことしかできなかった。
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