第11話 決着

 その瞬間、物凄い衝撃音が鳴り響く。


「なにが、起こった……」

 

 モクモクと立ち込める煙。 

 

 動揺するカズマの声とともに、辺りは、何もなかったかのように静まり返える。


 どう、なった……。


 俺は、乱れる息を整えながら、ゆっくりと振り返った。

 

 すると、そこには、拳を握りしめ立つウルと、戦闘不能になったキラーが倒れていた。


『WIN: ミチノブ&ウル』


 俺の視界に表示されるバナー。


「ハァ、ハァ、ハァァ」


 あぁ、よか、った。……ハァ、ハァ、なんとか、間に、合った。


 200kmオーバーパンチ……それは、あの迫られた危機的状況の中、俺の頭に瞬時に浮かんだ必死の思いつきであった。その着想は、ごく単純なものであり、車に触れることによって、本来車が持ちうる能力、つまり『100km以上出るスピード』を特殊能力の発動で、ウルのパンチに上乗せするといものである。


 当然、俺は車自体が特殊能力の発動条件に合致するモノであるかもわからなかったし、もし、発動できたとして、ウルが車の『どの能力の2倍の力』を得るのかもわからなかった。それに、あんな状況だ。200kmオーバーパンチの威力がどの程度であるかも予想もついていなかった……。だが、この威力……車のスピードと同時に、車の重みまでのっていたのかもしれない。


 ただ、一つ言えることは、あの時の俺は、残された時間で特殊能力を発動後、ウルのパンチをいかにキラーに当たるようにするかであり、キラーの尻尾を噛んだり、抓ったり、殴ったりしたのはウルの腕を少しでも自由にするためであった。なんにせよ、本当に決死の賭けだった……。


 俺は、安堵とともに、車にもたれかかるように崩れ落ち、同じようにウルも肩の力が抜けたように地に座った。


 気づけば、キラーは見えなくなっている……。


「ま、まじかよ」


 と口を大きく開け「敗北が信じられない」というような顔つきで突っ立ているカズマ。しかし、次の瞬間……


「て、てめぇぇ!!!!!」


 大きな声で叫び苛立つカズマは、ナイフを強く握りしめ俺に向かってきた。


 只々、今は状況が呑み込めないのであろう。人間は予想と大きくかけ離れた事態が起きれば起きるほど、混乱し、冷静さを失う。いや、これは自分の思い通りにいかなかった時の、ただの八つ当たりか……。


 俺は、出会った時からカズマのようなチンピラがこうなることを恐れていたが、勝ってしまった以上こうなることも必然的に理解できた。


 が、しかし、その考えとは裏腹に突如、目の前でカズマが取り乱し始める。


「いち……?! な、なんだ、この目の前の数字は!く、くっそ、くっそぉ。次から次へと俺の邪魔ばかりしやがって!!」


 2……、3……

 

 カズマは、目の前に見える何かを、必死にナイフで振り払おうとしている。


 が、それは数秒。カズマの苛立ちの矛先はすぐさま俺に切り替わった。


 4……


「もう、手加減はしねぇ」


 そう、狂った目でカズマは言葉を吐き捨て、刻々と俺に近づいてくる。


 5……


 俺、ここで、刺し殺されんのかな……。

 

 もう、俺にはなぜか逃げる気力もなかった。


 ニヤニヤと笑いながら歩くカズマ。


 6……

 

 せめて、食後のプリン。最後に食べたかったな……。

 

 7……


 ドガッ。


 えっ……?


 その瞬間、突如、俺の目の前でカズマは足から崩れ落ちたのだ。

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