第7話 駆け引き ②
視界には、『バトルが確約されました』と文字が表れる。
俺は間をとるために、カズマから少し離れた。
まだ、相手のアニマは見えない。
そして、目の前と両者の間の上空に、大きく『現在、バトルマネー(賭け金)を決定中……』と文字が表示された。
きたか。まぁここは、問題はないだろう。それより、今のうちにいろいろ確認しておかないとな。
「フィールドは、リアルと全く変わらないんだな」
「そうよ。基本的にフィールドに制限はないから、自由に動けるわ」
駅から少し離れた裏路地のパーキングということもあり、今日は平日でもあったため、車は5台程しか停まっていなかった。見晴らしは良い。
そうだ。もっと、聞いておかないといけないことがあったんだ。
「敗北条件を教えてほしい」
「うん。それは、どちらか一方が降参するか……」
よし、降参があってよかった。これで、気軽に戦闘の感覚を学べるし、やばそうになったらやめられる……。
この時まで少し、緊張していた俺だが、降参があることを知り、かなり冷静になれていた。それは、自分への危害を回避できる唯一の道を確実に確保できたからだ。
「それと、アニマまたはパートナの戦闘不能、そして、痛みによるパートナのショック死になるわ」
「は?……ショック死?」
ゲーム中の例えだよな……。
「そんなにアニマの攻撃は痛いのか」
「普通の人間の攻撃じゃないからね。でも、ペインシステムをいじらなければ、そうそう激痛による即死なんてありえないわ。これは、人間を殺すシステムじゃないから」
「何か、よくわからないけど、怖すぎるだろ……」
しかし、すぐに降参するつもりの俺には、たいして重要なことではなかった。
てか、あれ?バトルマネーを決めるの、遅くないか……。
カズマを見ると、ニヤニヤとした後、突然、大声で笑い出した。
「ハッハハハ……てめぇ!俺に嘘ついたよな? なめやがって」
その瞬間、目の前に現れたバトルマネーを見て俺とウルは驚く。
『バトルマネー:40000円』
「ハハッ。これで俺はお前から40000円を奪い取れる。勝てば俺の所持金はプラス4万円でトータル5万円。超最高だぜ。しっかし俺をよく騙してくれたな。危うく損するところだったぜ。
……てかさ、俺が4万円を賭けれたってことは、てめぇの所持金は最低でも3万円ってことだろ?マイナス4万円で、そくペナルティいきじゃねぇか。ハッハッハッハ。ちなみに、キラーが言うには、足りない勝利マネーはアイサイトが負担するらしいしぜ。ほんと、最高のシステムじゃねーか」
え……。俺には、カズマの言っていることが全く理解できなかった。
「はぁ、うそだろ。な、なんでだ」
これで、負けたら全額持っていかれる……。
「うそっ。……信じられない」
驚くウル。
「どういうことだよ、ウル」
「ごめんなさい……。バトルマネーは、お互いが所持しているAIAマネーを足した金額(万単位)まで賭けることが可能なの。……あいつは、こっちが1万円しか持ってないって信じ込んでいたから、こんなにも慎重に賭けてくるとは思わなかった」
たしかに……。
俺は賭け金のシステムを知らなかったが、どっちにしろ、あそこで、申請を拒否していたら、確実にこっちの所持金は1万円以上だとばれていた。それに、あんなやつだ、こっちから申請をさせるわけがない。結局、1万円以上だとバレた場合、力技で強制的に承認はさせられていただろう。それに、そうでなくても、バトル外で何をされていたかわからないしな。
……これは、リアルなんだ。
「いや、あれが最善の策だったはず。可能性はあった。気にすんな」
落ち込むウルを励ますように俺は笑って言った。
「うん」
でも、状況が変わった。俺は、この勝負、絶対に勝たなければいけない。
『それでは、バトルを開始してください』
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