第5話 アニマ ②

 視界には、何も起きない。


 まじか……。どうやって着せるんだ?いや、着てもらえばいいんだろう。この子、もしかして、ずっと裸なのか。……いやいや。そうだ、ルールブックになにか書いてあるかもしれない。


「ア、アニマだよn…あっ、ですよね?」


 混乱から、少し冷静さを取り戻してきた俺は、初めて会う人のように、改めてアニマに敬語で話しかけた。


「そうです、今は名前がありません」


 あっ、名前も決めないといけないのか。設定が多そうだな。


「あ、この本を見たら、服のこととか、いろいろ書いてある感じですよね」


「はい。私の服装なら、頭で、まず、アイテムショップをイメージすると、視界にショップ画面が出てきますので、その後に、『アニマの衣装』と脳に指示を出してみてください」


 なるほど、そういう手順があるんだな。


「あと、私に敬語は使わなくていいです。これから一緒ですから」


 たしかに……。でも、なんか、今までにない、変な気持ちだ。感情を人間とどう区別すればいいんだよ。どう接すればいいんだぁぁ!……とにかく、まぁ、ここはあまり気にせずにいこう。


「ありがとう、そうだよな。気楽にいこう!ってことで、よろしくな」


「はい」


「あっ、俺にも敬語使わなくていいから」


 コクリと頷くアニマ。

  

 俺は、言われた通り頭でアイテムショップをイメージする。そうすると、目の前には、『バトルアイテム』、『アニマアイテム』の2つのアイコンが出現した。


 バトルアイテムとかあるのか……。と、ふと思いつつ、続けて『アニマの衣装』と脳に指示を出す。


 アニマはずっと前を見ている。

 

「もし、いろいろわからないことがあったら聞いてね。パートナの頭で考えていることはアニマにはわからないから、聞いてくれれば、わかる範囲で答えるわ。それに、その本にもいろいろと書いてあるから、あとでしっかり見ておいてね」


 俺は、そんなアニマの優しい言葉に耳を傾ける暇もなく、目の前の金額を見て驚いていた。


『メイド服:5000円』『戦闘服:10000円』『……20000円、50000円……』


 は?高すぎるだろ。俺はアニマに貢げって言うのか。リアルマネーだろ?

 

 ふと、右上を見ると、『AIAマネー(リアルマネー):10000円』と表示されている。


「あれ、最初からお金が入っている……」


「それは、初回のプレゼントだわ。バトルをするのに、最低1万円は持っておく必要があるから、全員に配られているのよ」


 これは、ラッキーだ。でも、いいのか、悪いのか、わからない。……とにかく、バトルってのが、気にかかる。


「なるほど。っていうことは、やっぱり、バトルは強制参加なのか……」


「参加しないとペナルティがあるからね」


「そっかぁ。まぁ、いろいろ他にも聞きたいことはあるけど、とりあえず服を着ないとな」


 俺は、もう一度、アニマの衣装の購入欄に注目したと同時に、目を見開いた。


 は、はぁぁっぁ!最低金額の服がメイド服!?まじか……。俺は好きじゃないし、こんなの着せてたら、確実に変態プレイすぎるだろ。さっきは、金額にしか目がいってなかったからわからなかったけど、これはさすがにきつすぎる……。それに、隣の戦闘服は1万円……。どうする俺、考えろ。


「AIAマネーって、銀行のお金も変換できるんだよな?」


「できるわ。銀行に預けているお金を一旦、ポケット電子マネーに変換して、そのお金をAIAマネーに変換するだけ。すごく、簡単に出し入れはできるわ」


「わかった」


 今、俺のポケットマネーと残りの貯金額は合わせて多分3万円弱、つまり、全てをAIAマネーに変換した場合……3万円前後になるはず。ってことは、バトルは最低でもできて2回から3回までか……。うん、1回でもチャンスはあるほうがいい。このシステムは、お金を持っていた方が、確実に有利になる。……よし。


 そうと決まれば、俺は、すかさず『メイド服:5000円』を購入するように、脳に指示を出し、続けてアニマに着せるように指示を出した。


 その直後、アニマの体は発光し、一瞬のうちにメイド服に着替え終わっていた。


 アニマは自分の姿を、確認している。

 

 な、なんだよ、似合いすぎだろ!メイド服は好きじゃなかったけど、これは、これでありだな。見直したぞ、メイド服っ。って、俺は何に目覚めている……。これじゃ、本気で変態に染まっちまうだろ。 


 なんて、のんきに思うのも一瞬、目の前には、また、軽蔑の眼差しで立っているアニマがいた。いや、今回は少しご立腹のようだ。


「へぇ~こういう趣味があるんだぁー」


「ねぇよ!!一番安いから買ったに決まってるだろ。だいたいなんで俺のアニマは女なんだよ!というか、アニマって選ぶとかないんだな」


 俺は、話をしながら、お金の変換を始める。


「あっ、そう。


……それはないわ。アニマは、ランダムで選ばれるの。というか、その人にあったアニマが構築されるようになっているのよ。人間が一人一人、見た目も考え方も違うように、アニマも一体一体が見た目から性格まで違う。まず被ることがないのよ」


「なるほど、そんなシステムだったのか。相変わらずやることが凄いな、アイサイトは」


 俺のAIAマネーの所持金は、さっきの残りの5000円と合わせて『32410円』。これが俺の全財産かぁ……。まぁ、いつでも出し入れできるからなんとかなるよな。


「そもそも、男性パートナは、あまり人間型の女性アニマは構築されないはずなのに、なぜあなたみたいな変態に選ばれたのかわからないわ」


 いいすぎだよ、この子。……そうか、でもこういうはっきり言うところも、俺に合っているからなのか。


「紳士だから選ばれたんだよ」


 俺は、笑いながら言った。


 「へぇー」と言わんばかりの顔で、黙って俺の顔を見てくるアニマ。


「ま、まぁ、とりあえず、名前でも決めないと……なっ!!」


 と突然、俺は、見てはいけないものを目にしてしまう。


 本を拾い上げようとしているアニマの大きな谷間が目を襲ったのだ。


 すぐに、目を瞑る俺。

 

 って、これからどうしたらいいんだよおおおおお!

 

 どういう感情を抱いて、このアニマに接すればいいんだぁぁ!

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