第4話 アニマ ①

 急に、視界に映像が流れだす。


Secretary(鉛筆と本のマークの背景が映る)

『アニマは、今まで通り、あなたの生活を支え、これからも支え続けます』


Eat(パン、サラダのマークの背景が映る)

『アニマは、食事をします』


Costume(衣類のマークの背景が映る)

『アニマは、服を着ます』


Talk(口のマークの背景が映る)

『アニマは、お話をします』


『それでは、アニマと共に快適な暮らしを、幸せなひと時を……』


 映像が流れ終わると、目の前には『AIAシステム起動中』のバナーが表示されている。


 起動中?まてまて、なに勝手に起動してんだ。PoPoronのときみたいに、システムとして使用するか、どうかの判断はこっちの勝手だろ。てか、全てのシステムがそうだろ。


 俺は脳に、『AIA起動のキャンセル』と指示を出す。が、目の前のバナーは消えない。


 はぁ?? どういうことだ……。


 何度もキャンセルの指示を出し続けるが、起動中の文字は一向に消えることはない。


 くそっ。俺は、ゲームを始める時はまず、周りの様子を見てから始めるタイプなんだよ。評価とか、キャラクターランキングとか……そういう世間のイメージみたいなのが出てからやる方が、わかりやすくて、ルールもつかみやすい。それに、最初の選択で失敗してやり直すのが、超めんどくさいからな……。


 頭で指示ができないと感じた俺は、少し昔のやり方である、手の動きを使って、目の前のバナーをはらおうとすが、それでもびくともしない。


 その瞬間、脳裏に、デイビットの最後の言葉が自然と浮かぶ。


 『AIAやバトルシステムが搭載される対象者は……』って、強制使用ってことなのか。いや、考えすぎか。ただ起動するってだけだしな……いや、でも待てよ、AIAシステムが起動するってことは、バトルシステムはどうなっ……!?


 それは一瞬のことだった。


 『AIAが誕生します』との文字が視界に現れた瞬間……


  俺は、目を疑った……


 白光した大きな球体が現れ、その球体が弾けるとともに、目の前には、女の子座りをした裸の女の子が現れたのだ。胸の前には、ルールブックらしき少し大きめの本を抱きかかえている。


 そのアニマであろう女の子は、眠りから覚め、綺麗な瞳でこちらを見ている。


「はっぁ」


 俺の口からは無意識に音が漏れ、「ウソだろ」と言わんばかりに、同時に小さく笑みがこぼれた。人間は、想像を遥かに超える現象が目の前に起こったとき、笑みがこぼれるのかもしれない。


 ア、アニマだよな。あまりにもリアルすぎるだろ……二次元や3Dキャラクターじゃない、肌質からして人間そのものだ。歳は、俺と同じくらい、いや、少し歳下であろうか。ショートカットの青い髪の毛に、贅肉がなく主張しすぎないムチムチに仕上がったボディ……いや、主張するところはしているか。それに……何より、かわい、すぎる。


 鼻血は出やしないが、一瞬にして体の全神経が立ち、顔に血が上る。


 ……瞬間的にエロを感じるということは、こういうことなのか。不意打ちのエロ……凄まじいな。……なんて関心をしている場合かっ! さすがに、裸ってのはよくないだろ。


 と即座に冷静になった俺は、周囲を見渡した。


 よかった。誰もいない。


「ごめん!ちょっときて!ちょっときて!ちょっときて!」


 焦る俺は、アニマの肩に手を回し、少し屈みながら車の隣まで連れて行く。


 リアルすぎるアニマに少し焦っていたこともあり、人間と同じ対応をした俺は、あることに気づく。


 あれ?感触がある……。


 人に見えないように、車のフロントドアを背にしてアニマを座らせ、同じく隣に座った俺は、そのまま、もう一度、そのアニマの女の子の肩を軽く握った。当然、少し照れもあり、女の子ということもあったので、目を合わせないようにした。


 やっぱりだ……。


 と、その直後、俺の額にすごい衝撃で何かが当たる。


「痛って!!!」


 涙目になりながら、俺は地面を見をみると、そこには、先ほどアニマが抱きかかえていたルールブックらしきものが落ちていた。それを確認した後、アニマを見ると、先ほどの綺麗な瞳が、人を軽蔑するかのような目に変わっていたのだ。


「へ・ん・た・い」


 そう言うと、アニマの女の子は顔を少し赤らめつつ、体を隠すように三角座りをした。


「え?……あっ、ごめん!ちっ、違うんだ!あの、感触があるのかなぁって思ってさ。俺も初めてだからなんか、いろいろわかんないって言いうか……」


 どんだけ動揺してんだよ俺は……。ただの人工知能システムだっていうのにさ。でも、今の発言に、この仕草、本当に、アニマには自我があるみたいだ。それに、あの感触……。


 え?まてまて、この子が投げつけてきた本が当たったとき、額には痛みがあった。どうしてだ?AR(現実拡張)システムは視覚情報だけのはずだろ、あくまでもリアル空間への追加映像のはずだ……実体化なんて絶対にありえない。


 額を触る俺と目が合うアニマ。


 まだ、そんな軽蔑するような目で俺を見るか……。


「感触や痛覚があるのがそんなに不思議ですか」


「あ、うん」


「それは、瞬時にパートナの脳にARデバイスから意図的に物体情報や痛覚情報、そして、感触を認知させるように信号が送られているからです。見えないのに、見えている……感じないのに、感じる……それが、今回のアップデート内容です」


 へぇ? 意味が分からない。


 理解できない俺は、笑みこぼしながら首を傾けた。


 アニマは前を見ながら、俺に言う。


「わかりにくですよね。それでは、少し詳しく説明するのでよく聞いていてください。1度しかいいませんからね」


「わ、わかった」


 その瞬間、アニマは素晴らしいスピードで話だした。一般的な早口言葉より少し早いであろうスピードで……。


「要するに、コンタクトARデバイスから視神経を通じて、物体、痛覚、接触などの情報が脳に自動的に伝わり、その後、脳が神経系に信号を送るため、いろいろと感じる。または、認識することになります。つまり、デバイスからはリアルに準じた適切な信号が送られるため、意図的に脳が感覚に誤認識、錯覚を起こすということになるのです。なので、パートナにとっての私達アニマは既に人間みたいな位置、感覚になるので、たとえば、パートナが私を見ていなくても、私が後ろから触れば、触られたように感じるし、もちろん、叩けば、叩かれたように感じます。しかし、アニマはARデバイスによる痛覚情報や物体情報などを勝手にいじったりはできませんので安心してください」


 う、うん。なるほど……。ってどんだけ、平常に、早口で話すんだよこの子。言葉巧みすぎるだろ。やっぱり、こういうところはシステムだなって思ってしまう……。あぁっ。


「まぁ、こういうのは、とりあえず、慣れって、ことだよ、ねっ……。てか、それより、さすがに服着ないとやばいよな。えっと、ちょっと待ってくれ」


 すぐに俺は、脳に『アニマ・服を着せる』と指示を出した。


「あ、あれ?」


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