第3話 AIAバトルマネーシステム
「みなさん。画面に注目してください」
ウィン・デイビットは右の手の平を左から右へと動かした。それと同時に、モニターには文字が現れる。
『
バトルマネーシステム? ってなんだよ。アニマでバトルゲームでもできるっていうのか?それなら、すげぇおもしろそうだけど……。まさに、ニートの俺にもってこいだな。あれ、うん、どうしてだろう……なぜか、いつもニートが頭に過ると……悲しくなる。
「そう、AIAバトルマネーシステム……これが今回、アニマの実装とセットで搭載される大事なシステムになります。簡単に言うと、アニマのパートナー(アニマ搭載者)同士がお金を賭けてバトルする……つまり、実際に戦闘をするということです。もちろん、アニマと一緒に戦います」
TVモニターにはわかりやすく図の説明が出ている。
なるほど。リアル型ポケ〇ンみたいな感じだな。
「ここで、みなさん。勘違いはしないでください。これはゲームではありません。実際にリアルマネーを賭けて戦います。つまり、勝者には賭けただけのリアルマネーが与えられ、敗者には賭けた分だけのリアルマネーが失われることになります。バトルマネーの最低賭け金は1万円からになり、1万単位で賭ける金額は増やすことができます」
……はっ? 何淡々と話を進めているんだ。急に公式でこんなことを発表するなんて馬鹿げているだろ。
と俺は不意に思い、少し鼻で笑ってしまう。
もしそんなことができたとしても、大抵の人は利用するわけがない。世の中は貧乏人の方が多いんだ。こんなのただの金持ちか、廃課金者の遊びじゃねぇか!
と思っている間にもデイビットは話をし続ける……。
「と、唐突に言われてましても、みなさん、困るのは当然です。ですので、私から最低限のルールを説明しましょう」
デイビットが1本の指を立てると①の文字が画面に現れた。
「①バトルは、原則として、どちらか一方の申請により始まり、申請後、承認があった場合にのみ戦闘が確約されます。つまり、バトル開始には両者の合意が必要となります」
なるほど、奇襲はないということか……。ちゃんとしてんだな。ってなんで真面目に聞いてんだよ俺は……。まぁでも、いつかやるかも知れないし、それに、世界規模となると面白そうだしな。
次に2本の指を立てるデイビット。
「②賭け金(バトルマネー)はバトルの申請がされ、その承認後申請者により決められます」
てか、それじゃ確実に金持ちが有利だろ。もし、金持ちが申請してきて、金持ちであることを知らずにバトルを承認した場合、申請者である金持ちが大金を賭けてきやがったら負けたときにこっちは金なんて払えなくなる。こんなのすぐパーだ。貧乏人から金を搾取するクソみたいなシステムだな。
そして、3本の指を立てるデイビット……。
「③バトルを楽しむために、元よりアニマには固有の特殊能力(
特殊能力!? ……完全にこれはリアリティ型の戦闘ゲームだろ。やばいなぁ……ニートの俺はお金がないから不利なのかも知れないけど、少し、いや、かなりやりたくなってきた。別に少しお金を賭けて、賭け金がなくなればやめればいいだけだし……。それに、俺は普段からギャンブルだってしていない。世界規模でやるんだ、ちょっとくらいやっても損はしないだろ! うん。
と心で頷き、ルールを聞いているうちに、やる気マンマンになっていた俺は、自分の車が停まっている駐車場の前まで来ていた。
視界に、LASTの文字が現れる。
「これだけは、必ず頭に入れておいてください。それはペナルティについてです。
もし、戦闘の敗北によって持ち金が0円以下になったり、3日以内に最低1度もバトルを行わなかった場合には、ペナルティが発生します。ですので、くれぐれもそうならないように注意してくださいね」
ペナルティ? ……まぁ、でも3日以内にバトルをすればいいだけだし、こっちから申請して全額を賭けないようにさえすれば、ペナルティを受けることはないだろう。それより最低金額が1万円からだっけ……きついなぁ。
それから集中して聞いていた俺は喉が渇いたので、すぐ近くの自動販売機まで向かった。
「また、敗北条件やペインシステム、アイテムについて等、その他諸々のルールの詳細につきましては、アニマにルールブックを持たせてありますので、そちらをご覧ください」
腕の時計を見るデイビット。
「さてさて、もうこんな時間ですか、それではみなさん、アニマとの暮らしを存分にお楽しみください。 最後に、もう一度だけ言っておきます。これはゲームではありません。しっかりとルールに沿ってバトルを行ってください。それではみなさん、ごきげんよう」
別れの挨拶に手の平を挙げたデイビットだが、すぐ、その手の平の5本の指を軽く曲げ、その腕を下げた。
ん?
デイビットの話を聞きながら、自販機でジュースを選んでいた俺は、もう一度デイビットが映るモニターに注目した。
「おっと。言い忘れていましたね。AIAやバトルマネーシステムが今回のアップデートにより搭載される対象者は『現在までに、コンタクトARを1度でも装着したことのある者』になりますのでご確認のほどお願いします。ではでは……」
よしっ、俺も対象者だな。……って、そんなの、この世界にいるやつらほぼ全員じゃねぇか。コンタクトARを装着したことがないやつなんて、めっちゃ幼い子供か、めちゃくちゃお年寄りくらいだろうな。まぁ、みんな、いつも通りアップデートされたところでだろうけど……。
『ウィン・デイビットより』と文字が視界に現れた後、その黒いモニターからは、白い光が放出され、眩しさとともに、視界が一瞬見えなくなる。
その直後、俺の目の前には『Version10.0.0アップデート完了』の文字が現れ、その文字が消えると、『Login ID』『認証』 の文字が視界中央にバナーとして現れていた。アップデート完了後に表示されるいつも通りの光景だ。
とりあえず俺は、今すぐAIAシステムを起動する気はなく、それよりも電子マネーでジュースを買いたかったので、まず、ログインするために『Login ID:Saijo Michinobu』と頭でイメージし、脳に指示を出した。
視界に、『Login ID:Saijo Michinobu』と表示されると、次に俺は、生体認証を開始するために、右の手の平を顔の前までもってきた。
コンタクトARには個人を特定するための生体認証システムが大きく3つある。1つ目は、指紋認証システム。2つ目、3つ目として目で認識する、虹彩認証と網膜スキャンがある。そのため、3段構えのセキュリティは至って万全であり、デバイスがコンタクトということもあって、他人が他人のコンタクトをつけることも殆どといっていいほどない。
俺は、指紋を目で読み取ったあと、右目と左目で虹彩認証と網膜スキャンを始めた。
――青く光る瞳。
これ1分くらいかかるんだよなぁ……。はぁー。喉乾いてんのに早くしてくれないかなー。こっちはログインができないと、ろくにモノも買えないんだよ。
自販機を眺めながら、「アニマねぇ……」なんて考えているうちに、『認証に成功しました』という文字が視界に現れた。
よし、ジュース、ジュースと……。って、あれ?
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