第2話 アップデート Version10.0.0

 現在の時刻:18時59分11秒


 俺は、早々とプリンと豆乳を買い、デパ地下から出てきた。


 もうすぐでアップデートかぁ。まぁ、いつもとたいして変わらないだろうけど……。さて、さっさと帰りますか。


 帰ろうと、ついさっき下ってきた階段を上ろうとした時、俺の視界中央に、TVモニターのアイコンが現れた。

 

 俺はテレビを見る指示なんて出していない……。何、勝手に起動してんだよ。


 

 現在の時刻:19時00分00秒(Japan)


 何も映っていない、黒いTVモニターが目に映る。


「Version10.0.0――アップデートを開始します」


 そうPoPoronの声がイヤーから聞こえた瞬間、黒いTVモニターに一節の言葉が現れた。


『Last job of PoPoron(ポポロンの最後の仕事)』


 あっ、アップデートが始まったのか……。やっぱ、これで最後だったんだなPoPoron。


 そう、何気に思い、俺は歩み進めた。


『Thank you for everything(今までありがとう)』


 黒いモニターには、その言葉が粒子となり風のように消えてゆくに合わせて、その色とりどりの粒子が人型に集まりだしたのだ。


 すげぇ!やっぱ、全世界一斉アップデートだけあって、大がかりな演出だな。


 そう思ったのは束の間、黒いモニターには、白い仮面をかぶった人間の姿が現れていたのだ。モニターの右上にはLiveの文字が点滅している。


「みなさん、ごきげんよう。私は、コンタクトAR開発会社、AISHIGHT Corporation. America CEO(代表取締役)の ウィン・デイビットと申します。先ほどは驚かしてすまなかったね。少しサプライズをしてみたかったものでね。ちなみに、この白い仮面も面白そうだったのでつけているのだが……不信感を与えてはいけない。外しておくとしよう」


 そう言うと、顔の白い仮面も粒子となって消えてゆき、本人の顔を構築し出した。


 本気マジかよ、リアルタイムで本社のCEOまで現れた。……これは、すごい。


 俺は、話を聞きながら、交差点で立ち止まっていた。


「それはさておき、今回のアップデートVersion10.0.0には、今までにない新たなシステムを搭載したのだ。これは人類にとって大きな革命とも言えるだろう。その名は、AIAエーアイエー(artificial intelligence anima:人工知能生命体)システム――」


 人工知能生命体?

 

 俺は画面に映る文字を見て少し疑問を感じた。

 

 PoPoronも人工知能だっただろ?


 理解しがたい俺は、少し眉間にしわを寄せた。


「これまでに、私たちは秘書機能アプリケーションソフトウェアとしてSiiLiシーリからPoPoronへと、より高いレベルの人工知能システムを求め、そして、大きく進化を遂げてきたのだ。そう、人間と共にね。そこで、話を戻すが、今回の人工知能生命体AIA……いや、生命体・animaアニマは、今までの進化の数段階上をいくことになるだろう……。そう、なぜなら今回は固有のアニマが存在し、そのアニマたちは人間と同じように自我を持ち備えているからだ。そして、全てのアニマは立体として目の前に現れる」


 なぜかわからないが、妙に動悸が激しくなっている……。これは、未知なる世界を感じる前のわくわく感なのか、それとも、恐怖なのか。それとも……いや、ニートの俺が何か変わるかもしれないなんて期待感は持たないようにしよう。


そこだけは、いたって冷静な俺。どちらにせよ、俺は、夢中になって話を聞き続けた。


「まぁ、簡単に言うと、目の前にアニマが出てきて、楽しくお話でもしましょってわけだね」


 なるほど!わかりやすい。でも待てよ、自分の意思を持っているなら結構めんどくさくないか?まぁ、制御はできるんだろうけど……。


「さて、簡単なアニマ自体についての説明はそれくらいにして、今から、このアップデートの大きな要となる大事なシステムについて説明するので、ここからはよーくご理解するようにお願いしますね。今回、私がこうやってみなさまの前で直々にお話するのもそれだけ重要なことを伝えたいから、ということです。……それではさっそく説明を始めます。」


 まてまて、アニマシステムが本題じゃないのか? ……アニマのことだけで充分だろ。まだ何か凄そうな機能があるのか……。いや、それともコンタクトARの使用法自体が変わるとかか……。Version10.0.0、マジで凄そうだな。


 ウィン・デイビットの話を聞きながら交差点を渡り終えた俺は、路地裏のパーキングに向かって歩き続けた。


 もう、プリンのことなどとっくに忘れていた……。

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