第6話 日曜日は魔界へ行く
日曜日は思ったよりすぐにやってきた。
光輝はリティシアとゼネルを伴って魔界へと来ていた。
郁子は置いてきた。彼女は今日という日が待ち遠しいと修業をしすぎたあげく寝不足で体調を崩して寝込んでしまったらしい。そう連絡してきた。遠足前の子供だろうか。
来られないなら仕方ない。彼女を心配させるわけにも行かないので光輝は今日はちょっと見てくるだけだからと連絡して通話を切った。
予定は変えられない。リティシアに腕を引っ張って誘われては行くしかなかった。
光輝は荒野を見渡す。自分がここの王だったと言われても思い出せる物はない。どこへ行こうかと迷っていると、向こうから人影がやってきた。
いや、人影ではなく悪魔の軍勢だった。光輝は逃げたいと思うが、ゼネルとリティシアが動じなかったので動く機会を失ってしまった。
「ご安心ください。彼らは味方です」
「お兄ちゃんの親衛隊長のアクバンさんや」
「へえ、親衛隊長」
その悪魔達を引きつれた隊長は大柄で背の高い恐そうな悪魔だった。彼はぎろりとした目で光輝を見て、続いてゼネルに話しかけた。
「司祭殿、リティシア様を連れてどこへ行かれていたのですかな? あなた方がいない間に我が国には竜が現れて大変だったのですぞ」
「転生された王を迎えに行っていたのだ」
本当はリティシアを王として認めさせるための炎を手に入れに行っていたのだが、ゼネルはいけしゃあしゃあと誤魔化した。
元より司祭の味方で兄を連れてきてご機嫌のリティシアは余計な口を挟まなかったし、事態の悪化を望まない光輝が何かを発言することでもなかった。
親衛隊長はまじまじと光輝を見た。光輝は背筋をぴんとさせて緊張してしまった。
「その黒と金の瞳はまさしく王。……と言って欲しいのだろうが、最近ではカラコンで偽装が出来ると聞く。うかつに信用するわけにはいきませぬな」
「相変わらず疑り深い奴だ」
「あのおっちゃんのせいであたしも認められんかったんや。お兄ちゃん、あれを見せてびびらせたって」
「うん」
リティシアの言いたいことは分かっている。どうにも逃げられそうになかったので、光輝は右腕の包帯を取ることにした。
そして、呼び覚ます。
「闇の炎よ出でよ。シャドウレクイエム」
「おお!!」
その黒い炎にみんなが驚嘆の眼差しを向けた。
炎を出しながらも光輝は落ち着いていた。魔界へ来たからか何回か使って慣れたのか、闇の炎は随分と扱いやすくなっていた。
親衛隊長は後ずさって地に膝をついて頭を下げた。
「その炎はまさしく王! 疑ってすみませんでした!」
「分かればええんや」
リティシアが勝ち誇って鼻を上げる。ゼネルは王に行動を促した。
「では、我らの城へ向かいましょう」
「うん」
光輝としては少し気恥ずかしい行為だった。右腕の包帯を巻こうと
「今度はあたしが巻いたるわ」
したらリティシアが寄ってきて巻いてくれた。もう好きにしてくれという気分だった。
準備が出来て光輝達は城へ向かった。
城は少し壊れているようで、あちこちで悪魔達が修理に追われていた。
光輝は隣の親衛隊長アクバンに訊いた。
「何かあったの?」
「竜の襲撃があったのです。今はどこかへ向かってから北の山へ去ったようですが」
「奴は人間界に現れたのだ」
「そこでお兄ちゃんがやっつけたんやで」
ゼネルとリティシアの言葉にアクバンは感嘆した。
「さすがは王です。奴はまたいつ来るか分かりません。でも、王がおられれば安心ですね」
褒められても光輝には苦笑いぐらいしか出来なかったが。城内へ入って玉座のある部屋にやって来る。
「竜退治には明日向かうとして、今日は我らの歓迎をお受けください」
明日は学校が、とも断れそうに無い雰囲気だった。光輝は仕方なく歓迎会を受けることになったのだった。
夜も更けて。
明日は戦いがあるからと歓迎会を早めに切り上げさせた光輝は隅っこに移動して電話を掛けることにした。
明日学校を休むことを連絡しておかないといけない。光輝の頼む相手は郁子しかいなかった。
だが、やはりと言うべきか、携帯は圏外だった。
光輝がため息をついているとリティシアがやってきた。
「お兄ちゃん、どうしたん?」
ゼネルやアクバンは明日の準備で忙しそうだったが、彼女は暇そうだった。光輝は事情を説明することにした。
「電話が繋がらなくて」
「それならあっちの通信機を使えばええで」
そこにあったのは郁子が前に使っていた大きな通信機だった。まさか自分がこれを使うことになるとは思わなかった。
光輝はリティシアに教えられるままに操作した。あの時の郁子は苦戦していたが、今度はすぐに繋がった。
「はい、凛堂です」
「郁子さん? 調子はどう?」
「大分良くなったわ。明日には学校に行けそう」
「無理しないで。辛かったら休んでもいいから」
「うん」
「それで……やっぱりいいや」
「?」
光輝は郁子に学校のことを頼もうと思っていたのだが、彼女が本調子では無さそうだったので止めることにした。
「それじゃあ、今日はゆっくりと休んで。また今度学校で」
「うん、またね」
通話を終える。気づくとすぐ間近にリティシアの顔があってびっくりした。彼女はにやにやとしていた。
「お兄ちゃんとあのお姉ちゃんってどういう関係なん?」
「どうって、ただのクラスメイトだよ」
友達どころか、ついこの前まで話したことも無かった。だが、リティシアは納得しなかったようだ。さらに突いてきた。
「嘘や。絶対恋人や」
「恋人ってお前なあ」
「お兄ちゃんが外で恋人作ってきたあ」
「ああもう、そんなこと言ってからかってくる妹にはこうだ」
「わひゃひゃひゃ!」
少しくすぐってやるとリティシアはアホみたいに笑い転げた。子犬みたいで面白かったのでつい熱中してしまった。
通り過ぎる悪魔達が仲睦まじい二人の様子に暖かい眼差しを向けてくるのに光輝は気付かなかった。
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