第7話 竜退治
翌日。
「どうしてこうなった」
光輝の前には王の配下の大軍勢が控えていた。城の前の荒野いっぱいまで広がっている魔物達。
「どうぞ我らにご命令を」
「うむ」
光輝は王として命令を下す。下すしかない。この大軍勢が待っているから。もうちょっと見にきただけと言って帰れる空気では無かった。
「じゃあ闇の竜を倒しに行こうかあ」
「ははーっ」
少し緊張で声が裏返ってしまったが気にする魔物はいなかった。
光輝は軍勢を従えて竜の住むと言われている北の山へと向かった。
今の光輝はかつて王が着ていたと言われる漆黒の禍々しい鎧を着ていた。この鎧も早く脱ぎたかった。恥ずかしくてクラスのみんなには見せられない。
ここに郁子の姿が無いのは幸か不幸か。いないのは寂しいが、いても喜べるような状況では無さそうだった。
代わりにリティシアがべたべたと引っ付いてきた。
「お兄ちゃんと出かけるなんて楽しみやわあ」
「そんなに引っ付かないでよ」
「何で? おじいちゃんはお兄ちゃんともっと仲良くしと言うとるよ。その方が得やからって。ゆくゆくはあたしの願い事何でも聞いてもらうんや」
「あの人は」
どうも司祭ゼネルはまだリティシアを利用して王に取り入ろうと企んでいるようだった。そんなことしなくてもこの世界のことは好きにやっててくれればいいし、リティシアにくっつかれてもちょっとは嬉しいけど大部分では困ってしまうのだが。
ともあれ山頂に着いた。途中で何度か襲撃があったが、親衛隊長と配下の魔物達の敵では無かった。
休んでいた竜はびっくりして顔を上げた。
「げげーっ、闇の王! どうしてここへ! 我の部下達はどうした!」
「みんな倒した!」
親衛隊長と配下の悪魔達がとは言わなくて良さそうな雰囲気だった。
「奴めの相手はあなた様が。どうぞ荒野の果てまで届くよう高らかに詠唱なさって、みなに王の力をお示しください」
「王自らがあの竜を退治なさるぞー!」
「おおーーーー!!」
ゼネルやアクバンの無茶ぶりに配下の悪魔達が盛り上がる。
光輝は鎧と同じく漆黒の魔剣を抜いた。もう早く終わらせて帰りたい気分だった。
王の凛々しい戦いの姿に配下の魔物達が盛り上がる。
「お兄ちゃん、頑張って」
リティシアも期待に目をきらきらとさせていた。
竜は掛かってくるかと思ったのだが、
「シャドウレクイエムの傷がまだ癒えていないのに、お前の相手なんてしてられるか! ここは逃げさせてもらうぞ!」
扉を開いて逃げてしまった。ゼネルは困った顔をした。
「困りましたな。人間界へはこれほどの軍勢は送れません。ハンターどもに恰好の攻撃の口実を与えるだけでしょうから。奴らは口では守ると言いながら戦いが大好きなのです」
確かに郁子は最初から好戦的だった。リティシアはまだ期待に目を光らせていた。
「でも、お兄ちゃんだったら」
「うむ、王だけなら。今はあちらの人間。行ってくれますな?」
「うん」
どうも行くしかなさそうだったので、光輝は扉を通って竜の後を追った。みんなの声援が遠くなり消えていく。
扉を抜けた先は教室だった。
「何でここへ来たー」
クラスメイトの視線が痛い。見られたくないと思っていたのに、嫌なことに限って当たってしまう。
光輝は漆黒の鎧を着て漆黒の剣を持っている。
目の前には狭い教室で大きな竜が狭そうにしていた。みんなが驚いた顔で見ていたが、パニックは起こっていなかった。
「ここならお前の人質が取れると思ったのだが……狭い! 飛べん! それにこの結界は何だー!」
見ると竜の全身を光の網が捕えていた。なるほど動けないならパニックにもならないか。人々には恐怖よりも珍しい動物を見る興味の方が勝っていた。
結界がある説明を聞き覚えのある少女の声がしてくれた。
「闇の者が現れた場所だから本部に頼んで結界を用意してもらっていたのよ。まさか竜が掛かるなんて思わなかったけど」
郁子が教室に来ていた。堂々としたハンターの存在も人々に安心を与えていた。
例え目の前に猛獣がいても相手が檻の中で、猛獣使いやハンターがいれば人々は安心してしまうものだ。
光輝は訊いた。
「体調は大丈夫なのか?」
「ハンターだからね。本当だったら一日だって休むわけにはいかないわ」
郁子は剣を抜いた。両親から事情を説明されていた先生は今度は止めることはしなかった。教室のみんながちょっと盛り上がった。
「闇の者は人には見えないんじゃなかったっけ」
「こいつは強いから見えるのよ」
「ふーん、そう」
どの程度がそのラインかは分からなかったが、今気にすることでは無さそうだった。
「さあ、あなたも攻撃を。結界が捕えている今がチャンスよ」
「分かった。けど……」
光輝は剣を構えながらシャドウレクイエムを撃つべきか迷った。だが、行動する前に
「すみません。もう悪さしません。だから命ばかりはお助けをー!」
竜が結界の中で平身低頭あやまってきた。光輝はどうしようかと迷った。郁子に目線で訊ねる。
「あなたが倒せと言うなら、わたしはこいつを倒すのに何のためらいも抱かない」
「それもどうかと」
光輝は迷ったが、結局許すことにした。やはりあやまっている相手に攻撃するのにはためらいがあった。
襲ってきたら斬るぐらいの心構えはしていたが、相手にその気はもう無いらしかった。
「シャドウレクイエムはもうこりごりだ。これからはあなたの手下として働かせてください」
「いや、帰っていいよ」
竜をも従えた光輝はその日のうちに学校の有名人となった。
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