第3話 呼び出された両親

 学校に光輝の両親が来た。問題を起こしたから呼ばれたのだろうと生徒達の間では噂されていた。

 問題を起こしたのは郁子だろうと光輝は思ったのだが、呼び出されたのなら行くしかなかった。何喰わぬ顔で教室の隣の席で一人でドーナツを食べている郁子を置いて指導室へ向かう。

 光輝は先生や両親と一緒に話をすることになった。

 両親は何か深刻な顔をしていた。


「ついにこの日が来てしまったか」

「この日?」


 光輝は気になって訊く。親は答えた。


「いつか闇の世界の者が来ると思っていたよ」

「あなたはわたし達の本当の子供ではないのよ」

「え」


 呆気に取られる光輝に両親は事情を説明した。


「お前は闇の王の生まれ変わりなのだ」

「今までのご無礼をお許しください」

「いやいや、いきなりそんなことを言われても困るよ」

「そうだな。お前は闇の王である前にわたし達の子供だ」

「その認識は変わらないわ」

「事情を説明させてもらおう」

「はい」


 そして、両親は事情を説明した。




 闇の王は人間に深い興味を持っていた。そこで側近の司祭ゼネルと相談して人間の世界に転生することにしたのだ。

 だが、それは司祭ゼネルの罠だったのだ。彼は言葉巧みに王を誘導して闇の世界から追い出し、代わりに何も知らない王の妹リティシアを操って、自分が闇の支配者になろうとしたのだ。


「つまりもうその司祭が闇の世界の支配者になったと?」

「でも、誤算があったのだ。王になるには闇の炎の力が必要で、王はそれを持ったまま人間に転生したのだ」

「リティシアは今のままでは王になれないの。ゼネルの目論見は外れたのよ」

「先生、よく分からないし、もうここにいなくていいかな」


 先生は立ち上がろうとするが、光輝の親は呼び止めた。


「待ってください。この話は先生にも知ってもらいたいのです」

「先生は光輝の担任ですからね」

「はあ」


 先生は素直に席に戻った。

 光輝は訊ねた。


「それでその闇の炎の力は今どこに?」

「今もお前の中にある。闇の炎の力よ出でよ、シャドウレクイエムと唱えなさい」

「や……闇の炎の力よ出でよ、シャドウレクイエム」


 ちょっと恥ずかしかったが、光輝は言った。その時、腕の中から何かが湧き上がる感じがして黒い炎が出た。

 最初は小さいかと思われたその炎だったが、その勢いはすぐに増して大きくなり、吹き上がる黒い炎に両親と先生はひっくり返って床に伏せた。


「こら、いきなり出す奴があるか!」

「だって唱えろって言うから!」

「早く収めなさい!」

「どうしたらいいんだ」


 収めろと言われてもやり方が分からない。とにかく言い聞かせることにする。闇の炎を出す右手に向かって訴える。


「静まれ! 静まれよ! 僕の右手―!」


 何だか間抜けなことを言ってしまった気がするが、必死な時に悠長なことは言ってられない。

 その時、


「わたしに任せてください!」


 扉を蹴破る勢いで開いて郁子がやってきた。こんな時は心強い。今度は誰も彼女に静かに入れとは言わなかった。

 郁子は炎を恐れもせずに近づいて光輝の腕を掴むと、指を揃えて叩き付けてきた。


「封印! 封印!」

「痛い! しっぺ痛いって!」


 光輝は腕を振り切って上げる。その時には炎は不思議と収まっていた。郁子は額の汗を拭った。


「ふう、封印は成功しました」


 その手腕に両親は感嘆の声を上げた。


「さすがは闇のハンターだ」

「あなたに任せておけば安心ね」

「光輝君、この包帯を巻かせてください。炎を抑える効果があります」


 郁子は光輝の手を取って包帯を巻き始めた。

 女の子にやってもらって光輝は少し照れてしまう。包帯なんて巻くほどじゃないと思ったが、断れそうにはなかった。

 まあ、気になるようなら後で外せばいい。そう思うことにして好きにさせることにした。

 両親は話を続けた。


「我々はしばらくお前と離れて暮らそうと思う」

「あなたは狙われているの。近くにいると危険なの」

「でも、ハンターが守ってくれる。だからそうするようにと勧められたのだ」

「わたし達はしばらく温泉旅行に行ってくるわ」

「うん」


 温泉旅行ならいいかと光輝は思った。両親は続けて郁子に頭を下げた。


「郁子さん、息子のことをお願いします」

「頼りにしてるわよ」

「はい、どうぞお任せください」

「光輝、我々がいなくてもきちんと暮らしていくんだぞ」

「うん」


 そして、両親は出かけていった。




「では、光輝さん。一緒に帰りましょうか」


 光輝は郁子に誘われて一緒に下校することにした。

 特に話すことはなく、お互いに無言だった。郁子は剣を手に周囲を警戒している様子だったが、何かが襲ってくることは無かった。

 二人は気づいていなかった。電柱の上から悪魔が見張っていたことに。彼は手を出さないようにと命令されていた。

 主人の命令を忠実に守り、悪魔は光輝が家に着いたのを見届けて飛び立った。




 何事もなく家に着いた。光輝が鍵を開けて入ろうとしたところを郁子に止められた。


「闇の者が罠を仕掛けているかもしれません。調べてくるので待っていてください」

「うん……ってさっきから何で敬語?」

「あなたが闇の王だって聞いたから。偉いんでしょ?」

「いやいや、王である前に僕らクラスメイトだから」

「分かったわ。わたしも何か変だと思ってたの。敬語ってよく分からないし、謙譲語って意味分からないし、ご飯を召し上がる時は何が正しいのかと」

「そうだね。気楽にいこ」

「分かったぴー」

「ぴーって何?」

「……冗談よ。とにかく調べてくるからちょっと待ってて」


 郁子は警戒しながら家に忍び入っていく。光輝は彼女でも冗談を言うんだと思って見送って、待つことにした。

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