スロースターター

―1月9日、早朝―


タケルは猛烈な二日酔いと共に突然目が覚めた。


「う~、ギ持ちわる~」


喉はカラカラに乾き、体内に大量に残るアルコールを中和するためフラフラとした足取りで台所へ向かい水道の蛇口を開けて水をガブ飲みする。


「はー、ここ半年くらいの記憶がないな」


「まあ、いいか」


シンク脇の冷蔵庫に張り付けてあるカレンダーをふと見るとマジックで力強く【今日から新学期!】と身に覚えのない印がしてあった。


タケルはポカンとしばらくその文字を見つめ、ニット帽とドカジャンをまとい学校へと向かう。


通学途中、冬の透き通った空気の中すれ違うJKの姿がキラキラと眩しい。


「俺も今年こそは有名になってあんな彼女をゲットしたいぜ」


ズズっと垂れ下がってきた鼻水を白い軍手をはめたまま人差し指ですくい酒臭い息でポツリとつぶやく。


教室につくと親友のメガネと少佐が目を見開いてこちらを見ていた。


「……タ、タケル君」


少佐が驚きの表情の後、目頭に涙をウルわせか細くタケルの名を呼ぶ。


「タケル……」


メガネは想いを閉じ込めたような厳しい表情で眉間にシワを寄せたままタケルをじっと見つめる。


「ど、どうしたんだよ二人とも」


二人のただならぬ空気に異変を感じたタケル。


「どうしたんだじゃないよ!」


雪崩が崩れたかのように少佐が大声で叫ぶ。





二人の話によるとタケルは半年ほど前から”売れない””モテない”を理由にやさぐれ、重度のアルコール依存症だったらしい。


なんとか酒をやめさせようと二人は献身的な努力をしたが廃人と化したタケルは何を言っても二人の話に耳を向けようともせず断固として酒を手放さなかったようだ。


「そういう訳だったのか……」


まだ酔いが覚めきらぬ頭でタケルは現在の状況を把握する。


「とにかく戻ってきてくれて良かった。もう大丈夫なんだなタケル?」


メガネがタケルの状態を確認する。


「……ああ、二人とも心配かけたみたいでゴメン」


ニット帽を取り両手に握りしめ自分の心配をしてくれていた二人へ深々と頭を下げ謝罪する。


そこへガラガラと教室のドアが開いた。


時政だった。


時政は氷のような冷たい表情でタケルと視線を合わせようとはせず横を通り過ぎざまつぶやいた。


「去年のデュエルキングダムは僕が優勝した。他の主要なタイトルも軒並み僕が制した」


「もうお前なんか敵(ライバル)じゃない」


始業のチャイムが鳴る


「……そうか」


タケルは静かに天井を見上げ、胸の中で消えかけていた情熱の炎が再び心に宿ったことを感じていた。


つづく

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サウンドデュエラー猛 ぴろる @piloru

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