無我夢中

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


「はぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!」


厳しい表情でタケルとメガネが対峙している。

ふたりの闘気の輪が重なりあったその時!


「もうやめない?そういうテンション芸みたいので無理に場を盛り上げようとするの」


少佐がふたりの間に入ってきた。


「どうせなにも考えてないんでしょ?」


「んなこと言ったってよー」


タケルがいつもの調子に戻る。


「・・・・・・・・ゴホン」


とりあえず急場のしのぎとしてタケルの応急案に乗ったメガネは気恥ずかしそうに下を向き無言で眼鏡の位置を直した。


「なんかイベがない限りは話もなにも何もはじまんねーかんなぁ」


タケルが両手を頭の後ろに組んでグダった。


すたたたた。


そこへ自称神さまのクラスメイト神羅が何やら慌てた顔でタケルらの元に駆け寄ってきた。


「みんな!大変なのです!!」


「G✩T(グッドタイミング)!ちょうどなんか話のネタになるようなニュースないかって待ってたんだ」


「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないのです!」


「一体何事だ」


メガネがキリリとした顔で神羅に問いただす。


「隕石です!蓮葉町に向けて隕石が落下してきているのですよ。あと20分で激突します」


「何!隕石だと・・・・」


いつも冷静なメガネが目を見開き唐突すぎる出来事に絶句している。


「おおー隕石か”君の○は”みたいでいいじゃんか!」


「デュエルで粉砕してやんよ!」


「棚ぼたの神展開だね!」


待ち望んでいたハプニングにタケルと少佐のテンションは高まっている。


「隕石相手にどうやってデュエルするつもりなのですか!相手は意思のないただの鉱石なのですよ」


・・・・・・・・。


「やべーじゃねーか!!」


「この話ってどんな困難でもデュエルで戦って解決するってストーリーじゃなかったの?!」


状況を正確に把握したタケルと少佐の表情は一瞬で恐怖の色に変わり慌てふためく。


「お前神さまなんだろ!どーにかできねーのかよ」


タケルが神羅に救いの手を求める。


「どうにもできないのです。我にできることはただ地球を見守ること」


一同はふと晴れ渡った空を見上げた。上空には黒い塊が見える。

まだ遠いがゴゴゴゴゴと微かに落下音も聞こえてきた。


―隕石落下まであと15分


メガネは解決策を見つけ出すためタブレットに携帯用キーボードを接続し高速で情報を検索している。


死の予感を乗せた黒い塊は次第に大きくなってきた。


「どんどん近くなってきているよ!」


少佐が叫ぶ。


「メガネ!どうだ?何か分かったか」


タケルが今までで一番真剣な顔でメガネに問いた。


「グッ、ばかめ・・・・」


しかしメガネのその表情は愕然としたものだった。


「米国はすでにこの事態に気づいていて”静止衛星型レーザー兵器SOL”を使用し隕石の破壊を指示したらしい。しかしそこで働く所員が昨夜派手に宴会をしたらしく所員全員が泥酔し皆眠り込んで未だ連絡がとれていないようだ」


ペンタゴンとSOL管理局のチャットをハッキングしたメガネが内部報告用にアップされた画像をタケルらに見せた。


「何やってんだバカヤロー!」


タケルが叫ぶ。


「日本は?日本軍は何か策はないの?」


「・・・・みんな知っているだろう?我が国は兵器を持ち合わせていない」


絶望が一同の前に広がった。


―隕石落下まであと10分


ニュース速報

ただいま蓮葉町に向けて隕石が落下しています。あと10分で衝突する模様。

住人の方は直ちに町の外へ避難してください。


町の至る所で緊急避難警報が鳴り響いている。


住人はパニックに陥いり交通は大渋滞していた。


「タケル!」


そこへ大声でタケルを呼ぶ声がした。


時政だった。


「もう時間がない。ボクとデュエルしろ!」


「お前こんな時に何言ってんだ!俺たちみんな、今ここで死ぬかも知れないんだぞ!!」


タケルはマジ顔で時政を怒鳴りつけた。


「ボクの人生の全てはデュエルに捧げている。お前を倒せるならボクの人生は一片の悔いもない!」


「この状況を救ってくれたらデュエルでも何でもやってやる!俺とデュエルしたいならまずこの状況を何とかしろ!」


「時政!たしかお前、ロケット事業にも投資していると言っていたな?」


メガネが何か閃いた表情で時政に問う。


「ああ、投資というか開発なんだぞ」


「それは何処にあるんだ!」


「ここの地下にあるけど。。。一体なにするつもりだ。あれには30億もかけたんだからな」


「よし!みんな今から言う材料を支給集めてくれ!」


1 肥料

2 除草剤

3 木炭

4 軽油

5 硫黄


「タケルは用務員室、少佐は先生の車、私は理科室に向かう。時政はロケットの発射準備をしてくれ!」


全員がメガネの指示で各ポジションに走った。


―隕石落下まであと5分


けたたましい轟音がする。

隕石は輪郭がはっきりと見えるまで近づいていた。


タケル「肥料、除草剤、木炭よし!」

少佐「軽油よし!」

メガネ「硫黄よしだ!」


神羅はじっとその状況を見守っている。


時政「・・・・一体何をするつもりだ」


時政が胸ポケットから携帯サイズの機械を取り出しボタンを押すと、なんと校庭が真ん中から左右に開き地下からロケットが現れた。


「少佐!出来たか?」


「うん、準備OKだよ」


メガネの指示の元、手先の器用な少佐が爆弾を作り上げていた。


「よし!その爆弾をロケットの先頭に積むんだ」


メガネが新たに指示を出した。


「え?!ちょ・・・・ちょっと待て。一体なにをするつもりだ」


時政はメガネの意図をまだつかめていない。


「爆弾を搭載したロケットを隕石に向けて発射し、粉砕する」


「あれ30億もしたんだぞ!」


「馬鹿野郎!いくらしたって死んだら終わりだろうが」


タケルが正論を言う。



少佐とタケルのふたりでロケットの先頭に爆弾を積み終わりOKサインの親指を立てる。


「よし時政!発射ボタンを押せ」


メガネが時政に指示を出す。


「ボクは誰の指図も受けない!」


時政のプライドが蓮葉町の危機回避の邪魔をする。


「だからテメーは砂利だってんだよ!このクソ雑魚デュエラーが」


タケルが全力の言葉(スペル)で時政を煽る。


「な、なんだとー。ボクを馬鹿にするなんて絶対に許さないんだからな!」


タケルに煽られプライドを傷つけられた時政は、ロケットの発射ボタンを押す。


―隕石落下まであと3分


隕石は眼下へ迫っていた。


爆弾を搭載したロケットは轟音を立て少佐とタケルのギリギリ脇を通って上空に発射。


一同は固唾を飲んで状況を見守る。





校庭にて


閃光が走り隕石は粉々に爆破された。


間一髪、危機を逃れたタケルら一同は安堵の息をつく。


「やりましたね!皆さん」


神羅は人間の起こした奇跡に感動している。


「何もないって・・・・最高だな」


タケルが粉となって飛び散った隕石を眺めながらつぶやいた。


「月並みだけどやっぱり平和が一番だね」


少佐が後に続く。


時政は目の前で派手に吹き飛んだ時前の30億円の花火を複雑な表情で見つめていた。


「最低限、これくらいはやらないと今後は続けていけないという大いなる意思からのガイダンスだったのかも知れんな」


メガネはこれから続いていくであろうこの世界の日々に何かを感じとっていた。



つづく

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