主人公の資格

ー放課後ー


体育館で草デュエルが行われていた。


MC:『勝者!DJヒロイック!!!』


「超☆ファンタスティックだぜ!」


「広居~、良かったぞー!」

「ヒロイック素敵ー!!」


「・・・・・なんかアイツ、オレとキャラ被ってない?」


遠巻きに見ていたタケルは漠然とした不安を感じる。


「広居くんて爽やかだし、タケルくんよりも主人公っぽいよね」


少佐が何気なくタケルの痛い所を突いた。


「広居=通称DJヒロイック。最近話題のデュエラーだな。校内でも男女問わずみんなから好かれる人気者だ」


メガネが情報を追記する。


「おーいタケル、みんなー!」


(あ、ヤベ気づかれた)


なんとなくバツが悪くなり顔を伏せたタケルの元に広居が元気よく駆け寄ってくる。


「どーしたんだよタケル、体調でもわるいのか?もっとファンタスティックに行こうぜ☆」


広居が爽やかな笑顔で話しかける。


「お、おう」


「じゃあ俺バイトあるから。またなー!」


3人に手を振りながら爽やかな風を残して広居はその場から居なくなった。


「・・・・・爽やかだな」



ーその日の深夜3amー


ゲームで夜更かしをしていたタケルはのどが渇き、家の前の自販機でジュースを買おうと外に出ると背後から声をかけられた。


振り向くとそこにいたのは大量の新聞を自転車の荷台に乗せている広居だった。


「どーしたんだよ。こんな朝早くに新聞なんかチャリに乗せて」


「新聞配達のバイトだよ」


「バイトってお前、学校終わってからもやってるのに?」


「ウチ、片親で母親が病弱だし幼い妹もいるからさ」


「じゃ、後で学校でなー!」


「お、、おう」



ー翌日ー


学校帰り、3人はいつものように店長のところに寄り道をした。

その帰り道の途中、暗くなった公園に1人の人影が見える。


そこに居たのはディスクの素振りをしている広居だった。


「、、、広居」


「よう!仲良し3人組。今帰りか?」


「お前こそこんな時間に何やってるんだよ!」


「何って素振りの練習さ☆」


「そりゃ見ればわかるけど、だってお前。。。」


朝は新聞配達、昼は学校、放課後に草デュエルをし、夕方から飲食店でバイト、終わってから素振りの練習。そして帰宅後はDJの練習と勉強。それが広居の毎日のスケジュールだった。


「俺、一流のデュエラーになって家族に楽させるのが夢なんだ!ファンタスティックだろ☆」


タケルは広居の話を聞いていて、胸にじんわりと熱いものがこみ上げてくるのを感じた。


その夜、タケルは布団の上でボーっと天井を見上げていた。



ー学校の昼休みー


「タケル!良かったら放課後デュエルの相手になってくれないか?お前強いんだろ☆」


広居だった。


「あ、ああ。。もちろんいいぜ」


MC:『それではこれより草デュエルを開催します!』


今日のデュエルは何と!去年全国の1位になった輝かしい記録を持つタケルと、みんなのヒーローDJヒロイック!


放送部の学生がMCを努める。


草デュエルのルールは1本勝負。


互いが20分ずつプレイをし、その場にいるオーディエンスからより支持を受けた方が勝者となる。


「なんかタケルくん、昨日公園で広居くんに会ってから元気ないっていうかいつもと違う感じがするけど大丈夫かな?」


少佐が心配する。


「フム。何か思うところがあるのかも知れんな」


メガネが腕組みをする。


MC『デュエルFight!』


先攻は広居ことDJヒロイック。


「みんな!俺の熱いハートを聞いてくれ。行くぜファンタスティック☆ボンバー!」


DJヒロイックは王道なヒーローものを主軸に鉄板で熱い選曲を展開。オーディエンスの支持を集める。


後攻タケル。


いつもなら奇想天外な選曲と相手の揚げ足を取った言葉(スペル)による攻撃でオーディエンスを盛り上げることができるが、日々の草デュエルによって目の前にいるオーディエンスの好みを誰より熟知した熱い選曲、日々の練習により培われた確かなDJテクニック、そして彼の人間性を前に調子が出ず、なす術がなかった。


「なんだよー。タケルーつまんねーぞ!」

「全国一位ってこんなモンかよ!」


MC:『それでは本日の勝者は、、、DJヒロイック!!!』


「ありがとうみんな!ファンタスティックだぜ☆」


大勢のオーディエンスがDJヒロイックの周りに集まり彼の勝利を祝福している。


なす術がなかったタケルは崩れ落ちるように力なくその場に四つん這いになり弱音を吐いた。


「、、、ダメだ!あんなにピュアで頑張ってるいい奴にオレは勝てない。このまま主役の座も受け渡すしかないのか。。。」


みんながDJヒロイックを祝福する中、タケルの目の前に仁王立ちする1人の男がいた。



時政だった。


「タケル。。。見損なったぞ!僕に負ける前に他のデュエラーに負けるなんて、そんなの絶対に許さないんだからな!」


そういい残すと時政は肩を震わせその場から去っていった。


「タケル。広居が今のまま日々の努力を怠らず進んで行けばいずれ世界で活躍する一流のデュエラーになるだろう。そして彼のスタイルは王道だ。人気の面でも収入の面でも大きく引き離されるかも知れんな」


メガネがタケルに真実を告げる。


「オレにとっての真のデュエラーとは有名になってモテて金持ちになること。。。けど、アイツの夢はそんな不純なものじゃない!一体どーしたらいいんだ!?」


タケルは四つん這いになったまま叫ぶ。


「それでいいじゃないか。あまりらしくない事を考えるなタケル。動機が不純でもそれがお前だ」


「現にそんなタケルの事をライバル視してる奴もいるみたいだしな」


メガネは体育館を後にしようとする時政の後姿にチラリと目を向ける。


「そうだよ。タケルくんは怠け者ですぐ横道にそれるけど一緒にて楽しいことも沢山あるし僕はタケルくんのデュエル好きだよ」


「、、、、、オレはオレのままでいい?主人公キャラを意識しないで自分らしく進めってことか。。。」


タケルはスクッと立ち上がった。


「ありがとな!メガネ、少佐。オレはオレの道を驀進するぜ!」


「練習はもっとした方がいいがな」

「練習はもっとした方がいいと思うけどね」


親友のふたりが声を揃えて言った。



つづく

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