幻のディスクを手に入れろ! 後編

ーアルティメット・デュエル・コンペティション当日ー


店長の指導の元、苦しい練習を重ね世界レベルで戦える力を十分に蓄えたタケル、メガネ、少佐の3人で編成されるサークル【V(ビクトリー) 3】は順調に勝利を重ね決勝までコマを進めていた。


「ぐわあー!!!」


突如、会場から絶叫が聞こえ振り向くと巨大モニターに準決勝を戦う時政の吹き飛ばされる映像が流れていた。


MC『WINNER!鮭AZ』


店長を含めた4人は時政の元へ駆け寄るとそこにはデュエルで大敗しボロボロに傷ついた時政が倒れていた。


「き、、、気をつけろタケル。。。あいつの強さは尋常じゃない。。。」


時政が意識を失う。


そして決勝戦


デュエルプリンスの異名を持ち優勝候補と言われていた時政を完膚なきまでに叩きのめした謎の仮面の男【鮭AZ(しゃけ・あず)】がタケルらの前に立ちふさがる。


【第1ラウンド】


先攻はタケルらのサークル、V3


「時政を殺ったくらいでいい気になるなよ!オレ達のサウンドでぶちのめしてやるぜ。」


3人は阿吽の呼吸(あうんのいき)で力を合わせ、今日一番のスコアを叩き出す。


「ターンエンド!どうだ参ったか」


タケルは自信満々に紅鮭を挑発する。


後攻、紅鮭


「フン、旧タイプが図に乗りおって。宇宙環境に対応したニュータイプである私の力の前にひれ伏すがいい」


自身をニュータイプと名乗るその男は人間離れした判断能力と反射神経でオーディエンスの心を鷲づかみにする的確な選曲を完璧かつ超人的な速さで次々とミックス。


ジャッジメントのポイントはありえない速度でグングン上昇し、鮭AZの持ち時間が終わる。


「ターンエンド!」


「フハハハハハ!旧タイプの人間がニュータイプである私に勝てると思ったか」


「なんだ!あのスコア?!あんな高ポイント見たことねー!」


タケルが驚愕する。


鮭AZの叩き出したスコアはサウンドデュエル至上、前人未踏の最高ポイントを叩き出していた。


「な、なんだあのスコアは。。。サウンドデュエリストである私でさえもあのスコアは不可能。。ヤツは一体。。。」


会場はどよめき、主催の海座ことDJカイザーも驚愕している。


【第2ラウンド】


「タケルくん、メガネくん、少佐、頑張れー!」


デュエルの勝利へ導くべくコーチ役を買ってくれた店長の声援も空しく圧倒的に引き離されたポイントの差はまるで埋まらない。


「クソう!あいつ強すぎるぜ」


タケルが苦虫を噛む。


続いて鮭AZのターン


またしても人間の身体能力を凌駕した超人的なプレイを次々に繰り出し元々大きく開いていたポイントの差をさらに引き離す。


残り2ターンあるが、このポイント差を埋めることは奇跡でも起こらない限り不可能。タケルらは絶対絶命の窮地に立たされた。


「ハレ晴れサマーは我がゲオ皇国が頂く。そしてそのディスクの力を使いゲオ皇国が地球を支配するのだ!ウワーハッハッハッ」


「ザクとは違うのだよ!ザコどもめ」


「テメー、なめやがって。ガ○ダム気取りかこの野郎!」


「落ち着けタケル。ヤツの挑発に乗るな」


メガネがタケルをたしなめる。


【第3ラウンド】


ジャッジメントでポイントを稼ぐためのアルゴリズムを徹底的に解析したメガネの選曲。


ゴッドフィンガーの異名を持つ少佐の世界トップレベルのDJテクニック。


そしてオーディエンスの熱を煽るタケルのMCを持ってしても壊滅的に開いたポイントの差は縮まるどころか大きく開くばかりでまったく歯が立たない。


そしてタケルらのターン最後の一曲。


「畜生。。。このハゲがー!」


タケルは自暴自棄に悔し紛れな悪態をつきターンエンド。


・・・・!!!!


するとその瞬間、鮭AZは稲妻に打たれたかのようにギクリと身をのけ反らした。


仮面をかぶっている為、表情は読み取れないが鮭AZが激しく動揺していることは明らかだった。


タケルが悔し紛れに放った何気ない言葉(スペル)が鮭AZの胸を貫き、ここから戦況は大きく変わる。


後攻、鮭AZのターン


今までのプレイがウソのように崩れる。


選曲は乱れ、ミックスもボロボロになり連続でミスを犯したためマイナスが加算。ポイントは大きく下がる。


「どうしたんだアイツ。さっきまでのプレイがウソのようだぜ」


タケルが鮭AZのズタボロなプレイに目を疑う。


「どうやら本当にハゲだったたようだな。そして鮭AZはそれに強いコンプレックスを抱いているのだろう。あの仮面はそのコンプレックスを隠すために被っているいわばヤツの自尊心を保つための装置。」


「さっきのタケルの一言で、自尊心が制御できなくなったのだろう」


メガネが状況を分析する。


動揺が隠し切れない鮭AZはその後も凡ミスを連発。次の最終ターンもミスを連発してくれれば何とか巻き返せる射程距離に入ってきた。


【最終ラウンド】


「ポイントは縮まったけど未だ差は大きく開いたままだ。このまま普通にやってもまず勝ち目はない。ヤツの動揺をスペルでさらに誘発させ足元を完全に切り崩すんだ!」


店長が戦術をタケルらに伝える。


「ああ、分かったぜ!店長」


タケルらは得意の言葉(スペル)を全面的に押し出す戦術に出た。


相手を直接罵倒したり傷つける言葉を使うのはルール違反なため、間接的にグレーゾーンのスペルで鮭AZを追い詰める。


「おい鮭AZよ。お前さっきのスペルで【ハゲ】しく動揺したみたいだな」


グサッ!


鮭AZが動揺する。


「オレ達のサウンドはもっと【ハゲ】しさを増すぜ!」


グサッ!グサッ!


鮭AZが激しく動揺する。


「これで終いだ。究極の【ハゲ】しい曲をお見舞いしてやる!いっけー!!」


グサッ!グサッ!グサッ!


鮭AZの心が限界を超え自尊心を守っていた仮面がピキピキと音を立てヒビ割れ、砕け散った。


あまりのショックで戦意を完全に喪失した鮭AZはその場に膝をつきそのまま倒れた。


鮭AZ選手、デュエル続行不可能なため優勝は、V3!


仮面の下の素顔は金髪の波平ヘアーをした中年男だった。


「あー!この人は!」


少佐がマスクの下の素顔を見て叫んだ。


小「ゲーセンGEOの店長さんだよ」

(その昔ビーマニの神と言われた)


タ「なんだ、ゲーセンの店長かよ」

(どーりで上手いわけだゼ)


メ「フ、ニュータイプとはよく言ったものだな」

(一瞬本気で信じかけてしまったぞ)



ーエピローグ―


相手の弱点をついたデュエルで勝利したことに若干の痛みを心に感じたタケルらは受け取った賞金で金髪の高級カツラを買い、鮭AZの骸(むくろ)にそっと被せた。


「よし!何はともあれ勝ったぜオレ達!」


「凄いね!ハレ晴れサマーだよ。もう一生働かなくていいんだね!」


少佐が自由へのパスを手に入れたことに対し喜びを露(あらわ)にする。


「ああ、賞金もまだ沢山残ってるし今日はどーんとキャバクラで打ち上げしようぜ!」


そうして店長を含めた4人は意気揚々とキャバクラに入店。


「あの席、私が着くわ」


ミステリアスな美貌をまとったホステスがタケルの横に座る。


「はじめまして。不三子で~っす!」


(すんげーボイン!金があるっていいなぁ~)


美女に囲まれしみじみと幸せを感じながら4人は酒を酌み交わす。


「あ、あれ?何だか眠くなってきちゃったよ僕。。。」


少佐が急にうとうととしはじめる。


「なんだよ少佐だらしねぇな。。。」


少佐に続きタケル、そしてメガネと店長も突如強い眠気を感じ、その場に眠り込む。。。


「お客さん、お客さん!」


4人はイカつい男の店員に起こされ、明細書を渡される。


そこには賞金が全て吹っ飛ぶほどの高額な金額が記されていた。


「すんげーボッタクリ店だったな」


「睡眠薬を飲ませて記憶を無くし、不当な利益をむさぼる手法か」


「こっちが覚えてないことを逆手にとって飲んだってことにして請求しちゃうんだね」


「まあいいじゃん、社会勉強のひとつになったと思えば」


「このディスクは中古だけど、それでも数億はくだらないんだから賞金の100万なんて今さら大したことないよ」


店長が細かいことは気にする必要はないと3人をたしなめた。


「まっ、それもそうだな」


タケルがディスクを拝もうと胸ポケットに手を入れる。


「・・・・・あれ?」


その場に凍りつくタケルの異変に気づき皆が足を止めた。


「あれ?ってまさか。。。」


「・・・・・無い」


その時、閉まった店の奥から1台のバイクが音を上げ近づいてきた。


「これは頂くわ。じゃあねー」


すれ違いざまハレ晴れサマーのディスクを指に挟んだ女がウインクをしながらタケルらの横を通りすぎる。昨日タケルの隣についた不三子という女だった。


メガネの調べでその後分かったことだが不三子という女は世界的に有名なスリで、会場から優勝したタケルらの後をつけスリのチャンスを伺っていたようだった。


「優勝者はキャバクラに行くことを想定し、どこでも出勤できるよう周辺の店全てにバイトの登録をしていたらしい」


「…してやられたな」


メガネがオチをまとめる。


「ちっくしょ~~~~~~!!!!」


タケルの悲痛な叫びが朝の歓楽街に響いた。



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