サクラノ扉(ゲート)後編
午前10時02分
扉(ゲート)が解放されてから10時間が経過。
奏
『私の花粉症、どうやったら直るかな?』
「よし、ここまで来たぞ」
このゲームのラストを飾るメインヒロインの奏(かなで)編。今まで解析したデータを頼りに攻略目安の最短時間である10時間でラストシーンまで積んだメガネの前に最後の選択肢が展開する。
1.病院に行ったらいいんじゃないかな?
2.薬を飲んだ方がいいと思うけど?
3.鼻にねぎでも突っ込んどけば?
この3つの選択肢からひとつを選び、その選択によってそれぞれのエンディングを迎えることになる。
メガネが目指すのはもちろん2人が結ばれる真のハッピーエンド。
「1と2は選択済みだ。残るは3しかない」
花粉に悩む内気な少女がやっと主人公に心を開きかけ、どうすれば直るか真剣に答えを求めるこのシーンで3を選択するのはかなり躊躇(ちゅうちょ)される。
しかし残された選択は3しかない。
きっと驚きの展開が待っているのだろう。
「すまん、奏」
メガネはためらいながら3を選択する。
『・・・ひどい、ひどいよメガネくん』
奏は目に涙を浮かべ、メガネの前から去りそれから奏と会うことは2度となかった。
~Fin~
「クッ、、、、どうなっている?」
「全てのパターンは解析した。去年このシーンの2までを選択し、残された最後の選択はこの3しか残っていないはず。なぜだ!?」
すでに10時間が経過している。やり直せるのはあと1回。しかし今の選択で全ての手は尽くしている。他に選択の余地はない。
今までのエンディングも先ほどのバッドエンディングや中途半端なエンディングでどれも真のエンディングと呼べるものではなかった。
クリアに通常の数十倍時間がかかる手の込んだゲーム。
道理的に考えてもこれだけの大作を作り、引退作品として発表した懇親(こんしん)のゲームのエンディングがこれで終わりでは作った本人がまず納得しないだろう。
真のエンディングは別にある。
だが何かが心にひっかかる。何かがおかしい。
そもそもなぜ、人気絶頂を極めていた苗場悠はこのゲームを最後にこの業界から引退したのか?
そもそもなぜ、今まで大手ゲームメーカーから出していた苗場悠がこのゲームだけ個人で発表したのか?
メガネはその真意を確かめるべく更新が止まった作者である苗場悠のサイトに飛んだ。
サクラノ扉(ゲート)特設サイト
「このゲームはただのゲームではない。私の全人生を賭けた正真正銘の恋愛だ。私以外の何者にもこのゲームはクリアできまい」
(・・・・・私以外の何者にも?)
「まさか!」
メガネはその真意を理解した。
このゲームはサイトに記してある通り、ある1人の主人公以外はクリアできないゲームだったのだ。
「最初の主人公の名前を設定する段階で、【悠】にしない限り真の攻略は不可能。そんなトラップだったとはな」
仮に名前を【悠】にして最初からやり直すにしても、メインヒロインの登場するこのステージにたどり着くまでは全てのサブヒロインの攻略を最初からやり直す必要がある。
残り10数時間でクリアすることは到底不可能。
それ以前にメガネは自分の名前でクリアすること以外本望ではない。
「苗場悠。奏がお前の理想の美少女という訳か。だから自分だけのものにしたかった。だがお前は誰にもクリアされない暗い闇に閉ざされた奏の気持ちを考えたことがあるのか?そんなものはお前の一方的な束縛以外の何物でもない!」
「残り13時間と20分か。。。」
メガネは何十にも偽装されたプログラムを紐解き、その隠しリミッターの解除に成功。
そして最後の選択肢の場面にたどり着く。
奏
『私の花粉症、どうやったら直るかな?』
1.病院に行ったらいいんじゃないかな?
2.薬を飲んだ方がいいと思うけど?
3.鼻にねぎでも突っ込んどけば?
「3はない。1か?2か?」
「・・・私なら、コレだ!!」
3月26日 23時59分57秒。
ついにメガネは10年間、誰もクリアできなかったゲームの完全攻略に成功する。
その後メガネは、サクラノ扉(ゲート)攻略wikiに隠しリミッターを解除したパッチを配布。
その話題は瞬く(またたく)間にギャルゲーマーの間で話題となり、ここ10年で1番盛上りを見せるゲームとして人気が再燃。
ユーザーより激しいバッシングを受けた製作者、苗場悠は長年更新が止まっていた公式ページでコメントを更新した。
サクラノ扉(ゲート)をプレイして下さった皆さまへ
奏は自分の思い描く究極の美少女でした。皆を楽しませるためのゲームデザイナーでありながら、自分のものだけにしたいという欲求を満たすため自分の名前以外ではクリアできないようにしました。
この秘密を守るため当プロジェクトは個人名義で発表しました。そして自分にはこれ以上の理想のキャラは描けないと判断し、ギャルゲー界からの引退を決意しました。
攻略されたのは悔しい気持ちもうれしい気持ちも半々です。
苗場悠
ーエピローグー
蓮場学園から続く長い下り坂。
昨日まで満開に色づいていた桜は、はらはらと舞い今年に新しい出会いと別れを告げているようだ。
花びらが舞い踊る桜並木を眺めながらメガネがつぶやいた。
「今までありがとう奏。私も新しい出会いを探すとしよう」
終
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