第44話 神獣に乗ってエアリアスの上空へ

「これが神獣か……」


 ドリルが用意してくれた神獣は三体いた。


 目の前にいる神獣は巨大な猫のような生き物。鞍が乗せられた背中は俺の肩ほどの高さだ。猫と違うのはライオンのようなたてがみを持ち、鷲のごとき大きな翼を持っていること。


 馬につけるような轡(くつわ)から伸びた手綱で操作をするのだという。


 一体はフィーネが乗り、もう一体にはドリルとカルニバスが乗る。三人とも身軽に神獣に飛び乗っていた。


 三体目に俺が乗ることになるのだが、神獣は黒眼をぎゅるりと動かし、俺を見てくる。俺の実力を見定めているようだった。


 そんな神獣の眼を気にしないようにして、手綱を手に神獣の背中によじ登る。だが、神獣の体は大きく、登るもの困難だ。俺が苦戦している間に、ほかの二体の神獣は翼を大きく広げ、空中に舞い上がった。


「マヒロー。早くー」


 上空から見下ろしながらフィーネが叫ぶ。


「あら? 名前はドーテーじゃなかったの?」


「ゾゾゲだよ。おなまえはゾゾゲ」


「じゃあ、私が勝ったらマヒロからドーテーに改名ね」


「ドリルがかつよ。かったら、おなまえはゾゾゲね」


 カルニバスとドリルの声を聞きながらどっちの名前も絶対嫌だと思いつつ、なんとか神獣の背中に登った。手綱で神獣を操作しようとする前に、神獣は勝手に翼を広げる。そして頭を上にして垂直に飛び立った。


 背中に乗っていた俺は落下しそうになり、慌てて手綱にしがみつく。上空で待機していたフィーネ達の神獣と同じ高度になってようやく俺の乗る神獣は水平を保った。それでも神獣は荒々しく背中をぶるぶると震わせる。


 この神獣はとても獣臭かった。俺はこっそり神獣に【スイートスメル+】のスキルを使う。とたんに神獣の匂いが変化した。


 神獣はくうーん、と鳴き、荒々しさがなくなった。首を曲げて俺の方へと向き、目を細める。俺の頭の中に『神獣ラミレスと繋がりました。ラミレスのマヒロに対する信頼度が上昇しました』とアナウンスが流れた。


 三体の神獣は風を切ってエアリアス国の方角へ向かって飛び始めた。ぐんぐんスピードが上がり、全身に風圧を受けて風音が耳に響いた。そのとき神獣が何らかの力を発動したようだ。三体の神獣は半透明の白色の泡のようなもので包まれた。それに伴って風圧と風音が消えた。


 声が通るようになって、カルニバスがフィーネに尋ねる。


「ところでフィーネとやら。ラミイとエミリスとかいう女を私とドリルが一人ずつ助けた場合、勝負はどうなるのだ?」


「その場合は残念ながら引き分けだね」


「だいじょぶ、ドリルがふたりをたすけちゃうから」


「ふん、お子様になぞ私が負けるか」


 ドリルを抱きかかえるように手綱を持ちながらカルニバスは神獣を操っている。お互いにむきになっているようでいて、その言葉には棘がない。姉妹のように仲が良さそうにも思えた。


「カルニバスいい匂いするね」


 ドリルがカルニバスの体に顔を埋め、くんくん匂いを嗅いでいた。


「ふふふ、ドーテーの愛が注がれているからな」


「いいなー。くんくん。これはゾゾゲのスキルだね。スキルを使ったね、ゾゾゲ」


 ドリルは「ゾゾゲ、わたしにもスキルを使っておくれ」というので、ドリルにも【スイートスメル+】を発動した。


 俺の頭にアナウンスが流れる。『ドリルと繋がりました。ドリルの能力の一部がマヒロに流入します。マヒロのEXPが上昇。マヒロのレベルが10に上がりました』


 この時になってやっと理解した。俺のレベルがいつの間にか上がっていたのはこのスキルが原因だった。香りのラインを通してEXPが流れてくるんだ。


 ドリルは自分の体の匂いを嗅いでいる。「いい匂いだー」とニコニコしている。


「ゾゾゲありがとう。ペットになったらたくさん可愛がってあげるね」


「だめだ、ドーテーは私が可愛がるのだ」


 香りというアドバンテージを失ったカルニバスは少し悔しそうだった。




 俺達は夜通し空を飛び続けた。


 夜が明ける頃にエアリアス国の領土に入る。そこからしばらく飛び、王都の上空へ到達した。王都の町並みを抜けると城のすぐ近くの広場に人が集まっていた。そこが処刑場だった。


 処刑場には群衆が溢れていた。ラミイとエミリスさんの処刑が今にも始まろうとしている。上空を旋回する三体の神獣はまだ気づかれていなかった。

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