第24話 隠れ家の手紙
エアリアスにある隠れ家は大きな屋敷だった。高級住宅街の一角にあり、二階建ての屋敷の前には広い庭がある。ラミイに続いて屋敷の中へと入った。だがそこにはミミカの姿はなく、代わりにリビングに置き手紙があった。
――ラミイちゃんへ
ラノキアの大聖堂が燃えてしまったので、ラミイちゃんもここへ来るんじゃないかと思います。
私は瀕死のゴブリンの女の子を拾ってしまったので、転移ゲートでここに来ました。
一刻も早く治療して貰う必要があったので、ラミイちゃんに連絡を取る時間がありませんでした。
この手紙を見てくれるといいのですが。
ミミカより
メリルちゃんの回復魔法で治してもらおうと思ったのだけど、メリルちゃんでも無理みたいなんです。
ゴブリンの女の子は死んでしまいました。私はゴブリンの亡骸をオルマール共同墓地に埋葬しに行きます。
ラミイちゃんもこの手紙を見たらオルマール共同墓地まで来てください――
いっしょに手紙を読んでいた俺は愕然とした。フィーネが……フィーネが死んでしまった。そんな……。
ところがラミイはまったく別の反応をしていた。表情を変えずに手紙を何度も繰り返し読んでいる。
「この手紙……なんかおかしい……」
「ラミイ殿、何がおかしいというのだ?」
「わかんないですけど、なんかこの手紙が引っかかるんです。第一ゴブリンの女の子が死んじゃったなら、私と合流してから墓地へ向かったっていいはず。急ぐ必要はないんだから」
「ふむ、確かにそうだな」
ラミイは手紙を置いて腕組みをして考えていたが、それで何かがわかるわけでもなかった。
「なんか、ひっかかる。でも墓地へ行ってみないとわからないか……」
「メリルちゃんとは何者なのだ? 転生人か?」
エミリスさんが手紙に書かれていた人物、メリルの名前を口にした。
「いいえ、メリルちゃんはこの世界の住人で回復魔法のスペシャリストです。私たちとは王都で知り合った友達です」
手紙には確かにフィーネが死んでいると書かれている。だが、生きている可能性があるのだろうか? 俺はそのことを口にする。
「ラミイさん、この手紙にはフィーネは死んだと書かれているけど、これが間違いだってことですか?」
「うーん、まったく確証がないんだけどね。フィーネちゃんが生きてる根拠なんて何もないし。ミミカちゃんに会ってみないとわかりようがないよね」
そこで俺は自分の持つスキル情報について話してみた。
「俺のスキルの対象者にフィーネの名前が残ったままなんだ。これってまだスキルがフィーネに対して有効だということでしょうか?」
俺は自分のスキル情報にフィーネの名前があることをラミイに説明した。
「なるほどね。死んでいたらマヒロさんのスキル情報から消えているかもしれないってことね」
ラミイはそのことをすぐに理解したようだ。
「じゃあ、この娘で試してみる?」
そう言うと同時に何の前触れもなく、ラミイの前に霧が現れた。霧はすぐに晴れ、その中からラミイとそっくりだが身長が半分の人間が姿を見せた。しかし顔には目鼻口が存在せずにつるんとしている。いきなりの出現に俺とエミリスさんは声も上げられずに、ただ驚いた。
ラミイはスキル【エミーの傀儡(くぐつ)】を発動させていた。あとから聞いたところエミーというのはエミー・ラック・ハミルトンというこの世界の傀儡職人のことらしい。
「この娘は『エミーの傀儡』っていって私の能力の半分を持っているの。私の劣化コピーみたいなものね。死という概念がないの。壊れても一定時間が経過するとまた作り出せる。この娘にあなたのスキルを使ってみて」
「わかった……」
俺は【スイートスメル】のスキルを傀儡に対して発動した。スキルの有効人数が二人から三人に増えた。スキル対象者のリストに『ラミイ二分の一スケールの傀儡No.1』が加わった。
「じゃあこの娘を消すね。スキルのチャージ時間が三日間だからそれまでこの娘は呼び出せなくなるけど……」
ラミイは傀儡の胸に勢い良く手刀を突き刺した。傀儡からは血が噴き出るわけでもなく、突き刺された胸の部分から細かい灰のように変化していく。すぐに全身が灰になり、その灰も掻き消えた。
そして俺のスキルのリストから『ラミイ二分の一スケールの傀儡No.1』が消えた……。そのことをラミイに告げる。
「傀儡は命ある存在じゃないけど、消滅したらあなたのスキルも効果が切れた。傀儡とゴブリンをいっしょに考えることはできないかもしれないけど、フィーネちゃんはまだ生きている可能性が高いね。やっぱりこの手紙は何かがおかしいよ」
「ミミカ殿を追って、オルマール共同墓地まで行くしかないわけか」
エミリスさんはオルマール共同墓地を知っているそうだ。王都から南西の方角にある放棄された墓地だとのことだ。
「確かオルマール共同墓地はすでに使われていないはずだぞ。まあだからこそゴブリンの埋葬には向くわけだが……。ゴブリンが生きているのなら、なぜ墓地になど向かったのか。少年、ラミイ殿、墓地までは私が案内しよう」
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