第23話 首都エアリアスの食堂にて

 ミミカとフィーネの捜索のために、俺はラミイに協力することを決めた。

 その捜索に、なぜだかエミリスさんも加わってくれることになった。(むしろ、俺がおまけの扱いだったが)


 ラミイがいう心当たりとは、この国――エアリアス王国の首都であるエアリアスの都にある隠れ家だそうだ。ミミカ・ドミニオンはこの世界の要所要所に隠れ家を持っているそうだ。元々は各々の転生人が住居として使っていたのだが、現在はその殆どが空き家の状態だ。


 しかし首都エアリアスの隠れ家は別で、強力な回復スキルを持つ仲間がひとり住んでいるという。


 ミミカがラミイにひと言もかけずにそこへ行ったということは、フィーネの容態が極めて悪かったことが想像できる。


 逆に言えば、その時点ではフィーネは生きていたに違いない。


 かすかに希望が見えた気がした。


 首都エアリアスまでは馬車で二日の旅だった。途中で野営キャンプを張って一泊した後、昼にはエアリアスに到着した。


 ラノキアの街も壁で囲まれていたが、ここエアリアスはさらに高く、重厚な城壁で周囲が囲まれている。そして城壁の外から中央にそびえた城が目に入る。そこが王の住む城だそうだ。


 巨大な門を抜けて首都へと入る。


 ここからは馬車を降りて徒歩で隠れ家となる家へと向かうが、先に昼食にしようということになった。


「肉だ肉。ラミイ殿、少年よ、まずは腹ごしらえだ。バーグを食べよう。バーグを」


 どれだけハンバーグが好きなんだと思った。俺は早く隠れ家へと向かいたかった。「急いで隠れ家に向かいませんか?」そう言う俺だったが、ラミイも急ぐ様子はなく、おすすめの店があると言う。


「この先に私がレシピを提供したお店があるんです。軽食を出している食堂で短時間で食事できますよ。エミリス様、そこへ参りましょうか」


「よし、そこへ行ってみよう」


「では、参りましょう。私に着いてきてください」


 ラミイの案内で食堂へと到着した。昼時ということもあり、店は客でごった返していた。


 ラミイが注文すると、じきに三人分の料理が運ばれてきた。


 エミリスさんが運ばれてきた器を手にとった。器はどんぶり状で深くて大きかった。


「なんだ? これは? 器に肉を盛っているのか? 山盛りで気前がいいな」


 食べる前にエミリスさんは器の肉をフォークでめくり上げた。そしてあることに気がつく。


「いや、肉の下に炊いた米が敷き詰められているようだな」


 怪訝そうな顔でめくった肉を戻す。


「ラミイ殿には申し訳ないが……。これは米で肉をかさ上げしているのではないのかな? 少ない肉を多く見せる……まあ商売としては致し方ないか……。だが……このぺらっぺらの薄い肉はいかがなものかと……肉は厚いほど美味いのだがな……」


 エミリスさんは肉を一切れ持ち上げて不満そうな顔を浮かべる。その肉は薄く、反対側が透けて見えそうなほどだった。


「しかも肉にまぎれて玉ねぎも忍ばせてあるな。肉の量をごまかしているのではないか? これは本当にラミイ殿のレシピに忠実に作っているのか? まあこの値段だ、価格相応といったところなんだろうがな」


 メニューによると品名は『ギュードン』となっており、価格はたったの3ギル、元の世界で三百円ほどだ。エミリスさんは「なんとも貧相な品だな……」と小さく呟いた。


「エミリス様、これは確かに私のレシピ通りですよ。美味しいのでぜひ食べてみてください」


 特に不満そうな顔を浮かべることなく、にこやかにラミイは勧める。


「なるほど、そうか。最近は庶民の食というものから離れていたからな。私が悪かった。失礼なことを言ってしまったようだ。うむ、ではいただくとしよう」


 エミリスさんが肉とご飯をいっしょに口に運ぶ。数回噛んだ後、飲み込む。「な、なんだ、これは」と呟いた後、掻きこむように食べだした。


「美味い、美味いぞ。バーグとはまた違った美味さだ」


 エミリスさんの手の動きが加速する。


「なぜ薄い肉がこれほど美味いのだ? そうか……なにかのタレを染み込ませている……玉ネギもタレが染みこみ……なるほどなるほど。玉ネギも意味があったのか。美味いぞ。しかもタレの染みこんだ飯がこれまた……」


 ほっぺにごはん粒をつけながら、エミリスさんは夢中で食べている。あっという間に器は空になった。そして腕を伸ばして空の器を突き出す。


「おかわりを所望する」


 結局エミリスさんはギュードンを三杯食べた。


 短時間で食べて隠れ家へ向かう予定が、三杯もおかわりをしたエミリスさんのせいで遅れることになってしまった。

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