第21話 マヒロの決意と新しい仲間

 スキルの対象者として名前があるだけで確信こそないが、フィーネは生きていると思う。フィーネが死んだなんて信じたくなかっただけかもしれない。もう一度フィーネに会いたい。フィーネに会うんだ。


 だが、肝心の探す宛はどこにもなかった。意を決してエミリスさんに頼み込む。


「エミリスさん、ゴブリンの調査をするなら、俺も連れて行ってください」


「少年よ、お前を連れて行くメリットがどこにある? せいぜいフィーネというゴブリンの顔を知っているというくらいだろう」


 エミリスさんは冷たく言い放った。


「それでも連れて行って欲しい……」


 俺ひとりでは何の手がかりもない。エミリスさんの手を借りないとフィーネを探し出せるとは到底思えない。


「私の所属している第八部隊は野良ゴブリンの調査を主体としている。この付近の沼にゴブリンが生息していると聞いて、休暇を兼ねてこのラノキアへやって来たわけだが……」


「エミリスさんの部下にしてください」


 俺は食い下がった。


「第八部隊はな、第七部隊と部隊長が兼任している。副部隊長の二人は病気で長期休養中、そして部下は……ひとりもいない……」


「実質エミリスさんひとりじゃないですか」


「ああ、第八部隊は捨てられた部隊なんだよ」


 会社でいったら左遷、あるいは窓際部署というやつなのだろうか。エミリスさんはなんともいえない淀んだ表情を浮かべていた。自分の存在意義を認められていない、そんな者の顔だった。


「なら、俺を……エミリスさんの部下にしてください」


「私にはその権限は与えられていない。どこの馬の骨とも知らんやつを部隊に入れるなど論外だ」


 エミリスさんの表情は複雑だった。彼女には王国の騎士として誇りがあるはずだ。自分の置かれた立場を話してくれただけでも不思議だった。なぜ自分の立場を話してくれたのかはわからなかった。


 その時この部屋の扉をノックする者がいた。俺もエミリスさんも何も言わないでいると、ふたたび扉がノックされた。


「よろしいでしょうか……」


 扉の向こう側で女性の声がした。


「誰だ?」


 エミリスさんが俺の代わりに強い口調で答えた。


「こちらに転生人の方がおられると聞きまして。聖女ミミ様のことでお願いがあって、こちらに参りました」


「入れてもいいか?」


 エミリスさんが俺に向き直り、聞いてきた。


「はい、かまいません」


 扉を開けて入ってきたのは金色の髪の少女だった。髪は頭の後ろで結わえられており、腰まで長く伸びている。白い素材で簡素な桃色の飾りがついた服でスカートは膨らんでいる。そして同じく白い素材で桃色の飾りのエプロンを着用していた。


「はじめまして。ラミイ・セルフィスと申します。聖女ミミ様の侍女をさせていただいております」


 ラミイはスカートの両端を軽く持ち上げ、小さく上半身を折り曲げて挨拶をした。侍女というよりも良家のお嬢様を彷彿とさせる仕草だった。


 ラミイと名のる人物が挨拶したので、俺とエミリスさんも簡単に自己紹介をした。エミリスさんは王国の騎士だと名のり、俺はマヒロという名前のF級冒険者だと説明した。


「それでお願いというのは何なのだ? こいつは頼りにならんと思うがな」


「実は……大聖堂が火事になったのはご存知ですよね? そこから被害者が出ていないことも」


「うむ、知っている」


「ところが逃げ出したはずの聖女ミミ様が行方不明なのです。誰も聖女ミミ様の姿を見ていなくて……」


「え!? ミミカが? ミミカが行方不明だって!?」


 俺は思わず大きな声を出していた。ミミカという名前に反応してラミイの相好が崩れる。


「あれ? マヒロさん。ミミカちゃんのこと知っとんの?」


 突然ラミイの口調が馴れ馴れしいものに変化した。まるで同郷の人間に偶然であったかのような変わり身だった。


「そうなんよぉ。ミミカちゃんが行方不明になって困ってたん。そんで同じ転生人の手を借りたいと思うてな。ミミカちゃんならゴブリンにやられんと思うよ。その心配はしてないんやけど、マヒロさん、悪いけどミミカちゃん探すの手伝ってくれへん?」


「か、関西弁!? え? 転生人? ラミイさん転生人なの?」


「お、おっと。こほん。つい……。し、失礼しました。そちらの女騎士様は転生人ではないのでしたね?」


 ラミイは口調を丁寧なものに戻した。


「そうです。私は転生人で聖女ミミ様――ミミカちゃんと共に行動していました。残念ながらじゃんけんで負けてしまって、私が侍女役、彼女が聖女役に……。まあ今となってはあんなアイドルじみた真似は私には無理ですので、私に聖女役はできなかったのですが……。幸い侍女という名の仮面を被ったマネージャー業が私には向いておりました」


 再びこほんを咳払いをし、ラミイはいたずらっぽく俺に視線を送ってきた。この世界に来て孤独を感じていた俺はやっと仲間に出会った、そんな感情が湧いてきた。

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