第19話 地下空間の捜索
ゴブリンの死体の捜索は明るくなってから開始された。
部隊長が指示をして穴にロープを垂らさせ、二名の兵士を中へ送り出す。兵士が穴の底へと降り立った。
「状況を報告せよ」
「ここにはゴブリンの死体は見当たりません。広大な空間が広がっており、奥までは見通せません」
穴のすぐ下にはゴブリンの姿がないと言う。
穴の先は広大な空間が広がっており、太陽光は奥までは届かなかった。魔法光を持ってしてもその先までは見渡せないと伝えてくる。
用心しながら追加要員として数名の兵士を穴に入れ、続けて部隊長自身も穴の底へと降り立った。
「なんだ……ここは……」
広大な空間が広がっている。直線的に伸びたその通路は自然にできた空洞などではない。住居であろうかそれとも……。
「何が潜んでいるかわからないぞ。用心して進め」
部隊長は指示を出しながら思考を巡らす。
なぜラノキアの街の地下にこんな空間があるのか。
何者かがラノキアの地下に潜伏し、奇襲をかける作戦だったのか。
いずれにせよ、隅々まで捜索したあとはこの空間は埋めてしまわねばならない、そう決断をした。
ゴブリンの死体はどこにも見つからなかった。
もしかしたらこの空間はゴブリンの手によるもので、地下に潜んでいた仲間のゴブリンが死体を運びだしたのかもしれない。
そうだとしたらこの事態の対処は急を要する。ゴブリンの集団が地下に潜んでいた可能性すら考慮に入れなければならない。
混乱を避けるために、この地下の広大な空間のことは箝口令が敷かれ、部隊の兵士たちには口止めをした。
だがさすがに一匹のゴブリンがラノキアの街に潜入した事実、これだけは噂の口に戸を立てることはできない。
部隊長であるガーラックは一ヶ月前にこのラノキアの街の防衛部隊に配属された。元々は王国騎士団の一団員だったが、辺境の街とはいえ部隊の長として抜擢された。三年ほどこの部隊を平穏に統率すれば、王都に戻った時にそれなりの地位が与えられるはずだ。
ここで失敗を犯したくはない。彼は頭を悩ませていた。
一匹のゴブリンならなんとか対処のしようがある。だが、もし集団でラノキアの街をゴブリンが襲ってきたら、仮にゴブリン百体を相手にしたとしたら今の部隊で一時間を持ちこたえられるかどうか。
いや、無理だ。一時間どころではない。おそらくは数十分ともたないだろう。
この部隊構成で対処できるのは、無傷で倒すならばゴブリン三体が限界だ。うまく一箇所に誘導することで、昨晩のように部隊の被害なく倒すことができるはずだ。
部隊側の損傷も覚悟すれば十体ほどのゴブリンを相手することができるだろう。肉弾戦に持ち込み、後方から魔法と弓で支援する。だがこの場合、近接戦闘に参加した兵士のうち最大で半数ほどは失うだろう。ゴブリンが十五体を超えたら……もう勝ち目はないだろう。住民を逃がすための時間稼ぎくらいしかできない。
穴から外に出て懊悩としたまま次の作戦を考えていた部隊長ガーラックであったが、一人の女性に声をかけられた。
「聖女ミミ様が……。聖女ミミ様がどこにもいらっしゃらないんです」
聖女ミミの世話をしていた侍女のラミイであった。
「確か、そなたは聖女ミミ様のお付きのラミイだったな。聖女様は助かったのではないのか? あの火事の焼け跡からは死体は発見されていないはずだ」
「それが……誰も聖女ミミ様の姿を見ていないのです。誰に聞いても見ていない、知らないと。ガーラック様、どうか聖女ミミ様をお探しいただけませんでしょうか」
ラミイは悲痛な表情を浮かべてガーラックに訴えてくる。
やっかいな事になったと部隊長ガーラックは考えた。大聖堂の焼け跡には広大な空間とつながっていた抜け穴があった。このことは部隊の一部の者しか知らない。
(まさか……ゴブリンに攫われたんじゃ……)
事態は最悪の方向に向かっているかもしれない、そう考えていた。
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