第18話 ゴブリン掃討戦の結末
俺はもう叫ぶ気力も残っていなかった。魔法弾に撃たれるフィーネをただ見ていることしかできなかった。そこから目を背けたかったが、視線を外すことはフィーネを見捨てるようでできなかった。
フィーネに反撃の力は残っていなかった。
魔剣はフィーネの手から滑り落ち、怪しく赤く光っていたその輝きも失われていた。
フィーネは地面に顔を突っ伏している。瞳の輝きもなくなった。無数の魔法弾がフィーネに向かって発射された。
これでゴブリン掃討戦も終局、とうとう終わりだ、誰もがそう思った。だがその時、異変が起きた。
轟音が鳴り響く。
フィーネの足元から土煙が上がる。
そこに無数の魔法弾が着弾する。しかし魔法弾は互いにぶつかり合って弾け飛んだ。
土煙で魔法弾がフィーネに着弾したかどうかの確認が取れない。それどころか土煙とともにフィーネの姿が消えたようにも見えた。
土煙が拡散していく。視界が徐々にひらける。
地面に深い穴が空き、陥没しているようにも思える。フィーネの体は穴深く落ちたのか。まるでフィーネの足元の地面が突然消え去ったかのようだった。ぽっかりと小さな穴だけが残っていた。
その場にいた誰もが、何が起こったのか、わからなかった。
暗い穴にゴブリンが呑みこまれていった。そのことだけがわかった。
「穴を覗くのは危険だ。近づくな」
部隊長は指示を出して経過を待った。
だが、何も起こらない。土埃がおさまっても、ただただ静まり返っているだけだった。
意を決して隊長が穴を覗くと、穴の中は暗くて何も見えない。とうてい穴の底までは見通せない。
「魔法光で照らせ」
魔法光も穴の奥まで届かなかった。
明るくなってから穴の中を捜索することを決意するしかなかった。魔法使いと弓兵に周囲を包囲させたまま夜が明けるのを待つことにした。おそらくゴブリンは死んでいるに違いない。明るくなってからゴブリンの死を確認しても遅くないはずだ。部隊長はその決断を部隊全体に伝達した。
大聖堂はとうに焼け落ちて焼失していた。消失しても焼け跡は長いあいだ熱を失わなかった。黒焦げになった焼け跡からは無数の火の粉が天に向かって舞い上がっていた。
火の粉はフィーネを弔うかのようにどこまでも高く高く昇っていった。
ミミカにすがりたかったのかもしれない。俺は大聖堂の焼け跡まで来ていた。ミミカはどうしたのだろうか。火事から無事逃げ出せたのだろうか。
世界は滲んでいた。視界の中で火の粉はきらきらと反射していた。深海の底のような光景だった。暗闇の中を赤く小さな光が浮かんでいく。ここは暗く冷たい。
俺は夜明けまでの長い時間をずっと立ち昇る火の粉を眺めていた。やがて火の粉がなくなってもそこから動けないでいた。遠くの空が白みがかった。地平線が黒から藍色に変わった。夜が明けようとしていた。俺の頬には涙の乾いた跡だけが残っていた。
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