第11話 ガリュウ
――亜久田ガリュウは悪運が強い。俺はそう言われてきた。
だが俺なんて死んで当然の人間だったのかもしれない。
何をやっても捕まることはなかった。疑われることすらなかった。俺は物を買ったことがない。そもそも買うなんて行為の必要性がわからない。
欲しいものがあれば店から持ち出すだけだ。勿論ばか正直に取ってくると呼び止められる。
まず最初の一回は微妙にわからないようにやる。店員に疑いの心をもたせるが確信はさせない。二回目、三回目で徐々に犯行を大胆にしていく。だが、絶対に捕まらないように。そして四回目。フェイクを入れる。
店を出たところで店員は俺を呼び止める。事務所に連れて行かれる。
俺は何のことだかわからないように当惑した表情を作る。
店員が俺のかばんを探る。何も出てこない。当然だ。かばんに細工がしてある。かばんの中の隠しポケットに品物を入れると底からそれを取り出せる。品物をかばんに入れるが、下から取り出して棚に戻してあるのだから、かばんからは何も出てこない。狐につままれたような店員の顔が滑稽で忘れられない。
一度目は俺も何も言わずに帰る。疑われたことで店員に文句を言うなんてことはしない。
五回目、六回目、完全に店員の疑いが確信に変わる。そしてタイミングよく再びフェイク。
二度目は俺も露骨に嫌な顔を作る。「いいかげんにしろ」と詰め寄りながら言外に慰謝料を要求するように話をすすめる。店員は俺に金の入った封筒を渡してくるが、俺はそれを突き返してそのまま帰る。二万、三万の金より今後頂戴する品のほうが旨味が大きい。この店の物は俺のもの。
簡単すぎる。
こんなのは俺にとっては遊びのようなものだ。
だが物なんて盗まれても命を奪われるわけではない。
些細な事だ。
些細なこと故に俺は飽きてきた。
命を盗む方が緊迫感があって楽しいかもな、そう考え始めた。
俺は命を奪うゲームを始めた。
まずは悪人から始めることにした。詐欺を行うような奴からだ。悪いやつを懲らしめようなんて善意は俺にはない。単なる練習としては最適だと考えたからだ。
金ならいくらでもあるが、まずはオレオレ詐欺の出し子と呼ばれる人間に接触した。詐欺で振り込ませた銀行口座からお金を下ろすだけの仕事を任される人間だ。
俺がやったのは間に入ったことだけだ。俺は出し子が下ろした百万円を受け取る。上層部に八十万円を渡す。つまり二十万円抜いた。抜いた二十万円は出し子のかばんに潜ませる。ついでに依頼者のポケットからこっそり拝借しておいた財布を入れておくと効果的だと考えた。
戦利品であるはずの金を抜かれ、さらに自分の財布も盗まれたと勘違いしたあいつらは出し子を拉致した。翌日身元不明の死体が川に上ったとのニュースを見て、ゲームの成功を確認する。
ゲームだ。こんなのはただのゲームだ。
もっと楽しいゲームはどこかに無いか。
もう現実世界には俺が楽しめるゲームはないのか。
今読んでいるこんな小説の中なら、俺が楽しめるゲームがあるのだろうか?
たまたま面白い小説を見つけてしまい、歩きながら読んでいた。つい夢中になってしまった。
歩きながら本を読むなんて普段しないことをしたから、トラックに轢かれるなんてへまをした。
俺は死んだ。
俺なんか死んで当然の人間だったかもしれない。地獄にでも行くのだろうか。
それとも無になるのだろうか。
どこへ行くのだろう、そう考えていたらそこには鬼がいた。
真っ白な世界に鬼がいた。
いや、鬼としか形容できないような醜悪な存在だった。かろうじて性別が女性だとわかるが、鬼女とはこんな存在のことを言うのだろう。
鬼女は言った。俺は新しい世界で生まれ変わるのだと。
そしてスキルダイスというものを渡してきた。出た目のスキルを持って新しい世界へ行くことができるそうだ。
俺はスキルダイスを振った。出た目はスキルランクCの【レッサースキル】だった。当然のように振り直すと次はさらに下のランクD【超レッサースキル】だった。今までの俺の人生を振り返ると当然の結果かもしれない。
俺は期待をせずに、みたびダイスを振った。てっきり最低ランクの【悪魔的レッサースキル】でも出るのかと思ったが、意外にも出た目は【神域レアスキル】の中でも最上級のSSSランク【ドラゴニック・エクストラ・カウンターアタック】だった。
1,000万ダメージ以下のダメージは受け付けない。受けたダメージはそのまま相手に返して、相手のダメージになる。
悪運は尽きていなかった。
転生人を殺せばそいつのスキルを奪えるそうだ。
俺はこのスキルを使い、転生人の奴らからスキルを奪い取ってやろうと心に決めた。
楽しみだ。
無敵の俺に勝てる奴がいるのか?
俺を楽しませてくれるゲームが始まる。
俺は異世界へと旅立った。
気が付くと植物などまったく生えていない岩山にいた。岩の上に裸のまま寝ていた。そこは灰色の世界だった。空はどんよりと曇っていた。やがてぽつぽつと雨がふりだした。雨を避けようと手近にあった洞窟へと入っていった。手始めに誰を殺そうか。俺は無敵だ。奪えるだけの生を奪ってみたい。
俺の心が歪んだのは俺自身のせいだろうか? 俺を捨てた親のせいだろうか。俺を見放したあいつらのせいだろうか。考えても仕方がない。楽しむことだ。それだけが痛みを忘れる手段だ。生殺与奪を楽しむだけだ。奪うことをただ楽しもう。奪うのだ。命を、尊厳を、スキルを。
――そして一万人以上の転生人を殺しただろうか。俺のスキル保有数は15,725になっていた。次に出会ったのがミミカという女だった。
彼女はスキルをひとつしか保有していなかった。
最低スキルである【悪魔的レッサースキル】の所持者、ミミカ。
彼女を殺すことは容易く思えた――
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