第3話 出た目のスキルがもらえるそうです

 どう考えても選択は「異世界へ行く」の一択だ。


「俺は異世界へ行く。絶対に行く」


「わかりました。決意は固いようですね。ではあなたにスキルを授けます」


「おう! 超強力なスキルを頼む!」


「残念ながら私にどのスキルを授けるかの決定権はありません。マヒロさんには今からこのダイスを振ってもらいます。出た目のスキルをマヒロさんが獲得することができます」


 そう言って女神は俺の目の前にバスケットボール大のボールを差し出してきた。俺はそれを受け取った。ずしりと重いがどう見てもボールだ。完全な球体をしている。


「これって……。ボール、球ですよね? ダイスじゃないですよね?」


「いえ、それは一億五千万の目を持つダイスです。スキルダイスと呼ばれる一億五千万面ダイスなのです。ひとつひとつの面にスキルの説明が刻まれています」


「なるほど。どう見てもボールだけど、これを振って出た目のスキルが獲得できるんですね」


「ええ、そしてスキルにはノーマルスキルとレアスキルがあります。説明させていただきますね。レアスキルには通常の『レアスキル』の他に『超レアスキル』、『神域レアスキル』があります」


 女神によるとそれぞれの出現頻度は次のようになっているそうだ。


【ノーマルスキル】スキルランクB 出現確率:約3分の2

【レアスキル】スキルランクA 出現確率:約3分の1

【超レアスキル】スキルランクS 出現確率:15分の1

【神域レアスキル】スキルランクSSかSSS 出現確率:1,000分の1


「そして滅多に出ることはないのですが、ノーマルスキルの下のスキルもあるので注意してください」


 女神の説明によると役立たずのスキルがあるそうだ。


【レッサースキル】スキルランクC 出現確率:10万分の1

【超レッサースキル】スキルランクD 出現確率:500万分の1

【悪魔的レッサースキル】スキルランクZZZ 出現確率:1億5千万分の1


 どれも出現確率は極めて低い。


「とは言っても、レッサースキルで10万分の1の出現確率ですからほとんど出ることはありません」


「ちょっといいですか? このダイスって一回しか振れないの?」


「いえ、二回振り直しができます。つまり最大で三回振ることができます。ただ、注意していただきたいのが最初にレアスキルが出ても振りなおしてノーマルスキルが出てしまったら最初のレアスキルは無効になってしまいます。つまり最後に出たスキルだけが獲得できるスキルになります」


「なるほど、最初に超レアスキルか神域レアスキルが出たら振り直さない方がいいってことですね」


「そうなりますね」


「ところで『神域レアスキル』って獲得した人はいるんですか? 二万人もいたら誰かしら当ててそうですよね?」


「ええ、二十人が神域レアスキルを引きました」


「なるほど、だいたい確率通りなんですね。じゃあレッサースキルなんてひとりもいないんじゃないですか? 引いても振りなおしちゃうんだし……」


「それが……レッサースキルと超レッサースキルに関しては0名です。しかし一人だけ三回目のダイスで悪魔的レッサースキルを引き当ててしまった女の子がいます」


「はあっ!? すごい悪運ですね。悪魔的レッサースキルっていったいどんなスキルなんですか? って教えてくれるわけないか」


「いえ、かまいませんよ。【1ダメカウンターアタック】と呼ばれるパッシブスキルです。『1』ダメージを受けた時だけ、そのダメージを相手に反射して攻撃するスキルです」


「なるほど、確かに使い所のないスキルですね。でも悪魔的ってほどでは……」


「私もよくわからないのですが、どうも特殊効果があるようなんですね。このスキルは受けたダメージを貯め込みます。理論的には1億ダメージでも2億ダメージでも貯め込むことができます。その方法は……」


 このスキルは受けたダメージと同じエネルギーをスキル内に貯め込む。

 意図的に貯め込む方法もある。誰かに正確に1ダメージを与えてもらうのだ。するとダメージを無限に貯め込むことができる。しかし……


「このスキルは約一億分の一の確率で貯めたダメージを相手に放出します。つまり常に暴発の危険性があるのです」


 ダメージを貯め込もうと図っても常に暴発の可能性がある。

 仮に数万ダメージを貯めることができたとしよう。

 貯めたダメージを強い敵に放出したいが、強敵からのダメージが1ダメージなんてことはありえない。おまけに発動確率が低すぎる。

 使えないことこの上ない。


「その女の子は本当に運が悪いね」

「ええ、きっと生き残れていないでしょうね……」


 生存者が二万人のうち数人なら、この女の子なんてまっさきに死んでいそうだ。


「じゃあ、早速ダイスを振っていいですか?」


 そう言ったあと、俺は女神の許可を得てダイスを振った。転がすと、真球に近いダイスだがすぐに止まった。


「ええと、ちょっと待って下さいね。字が細かすぎて……」


 女神は胸元(ちょっと垂れている)から虫眼鏡を取り出してダイスを覗き込む。


「はいはい、ふむふむ、ノーマルスキルの隣の……、えっと、ぶほっ」


 女神が吹き出した。愛嬌のあるおばちゃん顔の女神から唾が飛ぶ。なんだ? 俺はどんなスキルを引き当てたんだ?


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