6.証物語そして悲劇へ
語り部の口からでた証物語、それはリグニールでは定番の伝承だった。数々の吟遊詩人が口にした。そして誰もが知っている物語。だが真実を知る者は少ない。そんな物語は誰もに好かれたいた。
「これは他のものが語るものとは違って真実の物語なのじゃ。」
この台詞もまたどの語り部もが口にする言葉だった。
「まだ魔法が生まれる前、そう、「#種族戦争__しゅぞくせんそう__#」の真っ最中の話じゃ。その頃は主に人間とドワーフがリグニール大陸の土地を奪い合っておった。
最初にこのリグニール大陸に住んでおったのはドワーフじゃった。彼らは体は大きく額から頭にかけて小さな角が二本生えておるのじゃ。そして人間は規模は小さくも大いに栄えておった。やがて人間は自分たちこそが大陸を支配するにふさわしいと考えるようになり、ドワーフに戦いを挑んだのじゃ。
宣戦布告もなしに急にじゃったそうな。そうして人間とドワーフに戦いは1世紀にも及んだそうな。じゃがこの戦いに疑問を抱く若い人間たちがおったのじゃ。彼らは戦争を止めようと動いたがむなしい結果じゃった。じゃがある時を境に魔法が生まれた、その若者たちの元でじゃ。魔法を駆使して戦争を止めることに成功したそうじゃ。そして魔法使いの中でも体に「証」を持つものは特に強力な力をもっとったらしい。そうそれこそが「証」というわ・・・」
「全員、動くな!!」
突如、語り部の声を切り裂いて村に響き渡る緊迫の声。ガーナットとランディーは声の元を探した。が、それも必要なかった。
「我々は帝国第一師団である!この村で反逆者をかくまっているとの情報を得た!貴様らはすでに包囲されている!全員動くな!」
師団の数は百はゆうに超えていような大軍だった。こんな小さな村の住人から見れば余計だった。村人は静まり返る、師団長らしき人物に兵士が何かを報告している声が遠くから響くだけだった。
「おい、なんで帝国の兵がここにいるんだよ。反逆者なんてどこを探してもいないぞ。」
村の中心で焚かれる炎と月の灯りが照らすテンダールットは不気味なほどの静寂に包まれていた。が、静寂を破ったのはガーナットだった。あたりはざわつき、ガーナットは村中、帝国の兵の視線を一身浴びた。まるで針のように突き刺さる視線を。
その中には村長の家から出てきた父デリーのものもあった。
ガーナットは話で聞いた限り帝国は嫌いだった。そんな帝国に濡れ衣を着せられるなんてガーナットは許せなかったのだ。
[黙っておれ。喋るな小僧。]
不意にガーナットの頭に響き渡る声。深くしわがれた声。間違えなく「謎の声」だった。あの時と同じだった。だが今度は、はっきりとどこからの声かガーナットはわかっていた。再び襲ってくる、ガーナットは驚きの目見つめていた。民家と民家の間からことらを覗く白銀の猫の瞳を。
「・・・マーガス?」
「おい小僧!口答えをするな!帝国の師団だぞ!」
ガーナットに詰め寄り胸ぐらをつかむ兵士。その表情からは自らが帝国の兵士だと言わんばかりの高慢な態度がうかがえる。だがガーナットはそんなことはどうでもよかった。声の正体が分かったことに驚きとと喜びを隠せなかった。
「おい!聞いているのか!どこを見てる!」
ガーナットに帝国兵の声は全く聞こえていなかった。ただじっと、マーガスを見つめていた。それはまたマーガスも同じだった。
「マーガスなのか?」
マーガスは微動だにせずただガーナットを見つめていた。
[喋るな。じきにわかる。]
ガーナットはそれは聞き、落ち着きを取り戻した。
「もういい、放してやれ。そんな小僧に構ってる暇はないはずだろう。」
兵士達の奥から現れたのは一人だけ黒いマントを羽織った、黒い長髪の男だった。そのマントの胸には村人には見慣れない紋章が刻まれていた。髪は全て後ろで束ねられており鋭い眼光は、鷹や鷲など猛禽類を思わせるものだ。
「はっ!」
胸ぐらを掴んでいた兵士はマントの男の後ろへと下がった。
「いや、村の方々。不快な思いをさせてしまったようだ。なに、全員をひっ捕らえようってわけじゃあ、ない。」
全員が眉間にしわを寄せる師団の兵士達に対して、少し緩んだ雰囲気を見せ、親近感をも漂わせていた。兵士に投げ出され地面に倒れているガーナットに対し、手を差し伸べ起き上がらせた。
「悪かったなあ、少年。うちの師団はちょいと荒っぽくてね。」
「あ、はい・・・。」
帝国の兵士らしからぬ態度にガーナットや他の村人も拍子抜けだった。
「俺達は王様から命令を受けてきてる訳んだけど、別に全員捕まえろー、とかじゃあ、ないんだよね。」
「ならなにが目的なんだ。親衛隊までお見えなんだ。相当なことなんだろう?」
村人の奥から現れたのはガーナットの父デリーだった。デリーは言い放ったのと同時にガーナット腕を引っ張り自分の後ろへと下げた。
「おい、ガーナット大丈夫か?顔色悪いぞ。」
「ああ、大丈夫だよランディー。・・・あとで話がある。」
「話?別に今で・・」
「こいつは驚きだあ、この親衛隊の紋章がわかる奴がいるとはねえ。何者かなあ?」
少年たちの会話を遮りマントの男はニヤリと笑いながら、話し出した。
村の焚き火がデリーとマントの男の横顔を赤く照らし出す。
「そんなことはどうでもいいだろう。命令とやらがあるならとっとと済ませて帰ってくれ。」
「つれないなあ。」
マントの男は顔を傾け、口角は上がったままデリーに一歩一歩と歩み寄った。村人達からは心配の声や、中には火に油を注ぎ込むようなものまであったが、なんにせよざわついたままだ。
デリーの後ろで少年たちも心配そうに見つめていた。デリーは腕を組んだまま、動かずマントの男を静かに睨んでいる。そしてマントの男は一度、鼻で笑ってから、胸の前で人差し指と中指を立てた。
「王様の命令は二つ。一つ、匿ってる反逆者の首を持ってくること。まあ、あんたらが引き渡せば、だけどなあ。二つ、一つ目でなかった時は皆殺し。」
村は一気にざわつき出した。皆殺し。それを口にしたのが帝国の兵だからだ。帝国が村一つ焼き払っただの、壊滅させたなどの話は少なくない。現実味があるのだ。家に逃げ帰っていく者その場で立ち尽くす者。そんな中、村人の中の一人ひときわ大きな声をあげた。
「そ、その反逆者ってのは誰なんだよ!」
「おーっと。村人Aさんかな?いい質問だあ。実は名前は割れてるんだよ。」
「ほう。その反逆者ってのはドイツだ?」
デリーはうろたえずその場で静かに言い放った。
「悪いね。名前を覚えるのが苦手なんだ。師団長!」
「はっ」
マントの男は師団長を呼びつけ羊皮紙を持って来させた。男は羊皮紙を見つめデリーに向き直った。
「そうそう、歳は25。名はガーナット。」
またしても村中が騒ついた。そして男はデリーを見てまたしてもニヤリと笑った。
「おっと、村長さんだか知らないがあ、なにも知らないって顔じゃあ、なそうだ。」
デリーの顔には冷や汗が垂れ、同様は隠しきれてなかった。
「おい、ガーナット!お前の名前じゃねえかよ!お前が反逆者なわけねえ!そうだろ?」
「ああ、人違いさ。第一僕は25歳じゃない。」
とは言ったもののガーナットもランディーも、鼓動が早くなっていた。
「今すぐ帰ってもらおう。帝国に引き渡すものなど一人もおらん!」
「そりゃあ、ないぜ。そうだなあ、引き渡せないってんなら、あんたから皆殺しだ!」
男はそう言い放つと、マントを広げ目にも止まらぬ速さでデリーの後ろへと回り込んだ。男がデリーの首をめがけて腕を振り下ろした。刹那、デリーは男に向き直り、男の手刀を受け止めると、
「インカーディア!!」
叫びながら、男の懐に光る掌を放った。だが、男はこれをかわし、デリーの腕を掴んだ。
「驚いたなあ。あんたとは、もう少しちゃんとやり合いたかったよ。」
そして男はデリーの首を掴み、持ち上げた。デリーは必死に男の腕を両手で締め上げたが、男もまたデリーの首を絞める腕を緩めることはない。
その時デリーはガーナットを見つめ声こそ出なかったものの唇を動かした。
「お返しだあ。インカーディア!」
その言葉が響いた瞬間、男の掌は光を放った。頭と胴体は音を立ててちぎれた。動かなぬ屍となったデリーが、どさりと音を立てて地面に落ちた。血が飛び散り、赤く染まった顔の男はまだ笑っている。いや、終始ずっと笑っている。
ガーナットは目を見開き胸を押さえ、息を切らした。この瞬間ガーナットは、なにが起こったか全く理解できなかったが二つだけはわかった。帝国の兵は本気で皆殺しにする気だということ。そして父デリーの死。
「親父ーー!!」
狼の遠吠え。村人のたちの叫び。そしてガーナットのさけび声。テンダールットの悲劇が始まった。
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