3.前兆
ランディーと木を切った次の日も、ガーナットは収穫祭の準備に追われていた。テンダールットの収穫祭は3年に一度でその分期待なども大きく、準備には長い期間を要した。そうした日々も今日が最後だった。ガーナットは眠たい目をこすりながら朝からデリー、ランディーと共に村の雑務をこなしていった。
そして昼時に差し掛かった時、デリーは村長たちと中央広場手前の酒場で明日の段取りの確認をしていた。そして少年たちは酒場の外で昼食をとっていた。その時、一匹の猫が近づいてきた。白猫はこの辺境の村の野良猫とは思えないほど優美に歩み寄ってきた。毛並みは短く整っている。その艶々しい毛並みは白というよりもかがやく白銀のうに実に美しい。、その目の虹彩は右は、サファイアのように透き通ったブルーで左は輝く黄金色をしている。座っていたガーナットの足に体をすり寄せ、その神秘的なオッドアイでガーナットの瞳を覗き込んだ。
「やあ、マーガス、収穫祭の準備で誰もかまってくれないのかい?」
ガーナットはマーガスが好きだった。物心ついた時からは村にいて馴染みの存在でもあり、人には媚びないのだ。そしてガーナットだけには懐いた。そんな気品が漂う白猫にガーナットは優しく干し肉を差し出した。するとその肉をくわえるとそっぽを向いて正面の家影へ、隠れるように行ってしまった。
「相変わらず愛想のない猫だね。」
ランディーはしかめっ面をして言った。
「そう言うなよ、ランディー。野良猫なんてああゆうもんさ。」
「お前だけには懐いてるじゃないか。前俺が肉をやろうとしたら近づいてさえ来なかったんだ。」
「マーガスにだって気分があるのさ。彼は気分が向くままに生きてるのさ。猫はいい。羨ましいよ。気ままに、気の向いたままに生きられる。気楽とは言わないけどね、どこへでもいけるのが本当に羨ましい。」
「じゃあ、そんな気分のときに肉をやってみることにするかな。」
ガーナットはランディーの言葉に上の空で返事をして、どこか遠くを見てつぶやいた。
「僕も猫のように、どこへでも行ってみたいよ。」
彼は空を見上げながら、すっかり気持ちはどこか遠く後にいるようだった。
「ガーナット、お前だってどこにでもいけるさ。だがそのときは俺も一緒さ。」
少年たちは顔だけ向き合ってまたも笑いあった。
ガーナットは「密かな決断」のことを思い出し、ランディーも一緒に来てくれるだろうかと考えていた。
ランディーとガーナットは家が隣で小さいころから親友だった。だが何かそれ以上の「絆」をお互いに感じていた。強い繋がりが自分たちにはあると。ランディーがまだ11歳のころ、彼の父が村の外へ出稼ぎに行ってしまいランディーが泣いていた時も、2年前ガーナットの母が死んでしまったときも、お互いに励ましあってきた。そんなことを考えているとランディーとガーナットの前を再び白銀の毛並みを揺らしながらまーガスが横切った。と、隣を見るとランディーの顔は落胆の底に落ちていた。どうやらランディーはガーナットと同じように干し肉を差し出したようだが、あいにく無視されたらしい。ランディーはしかめ面をして言った。
「やっぱりあの猫嫌いだ。」
ガーナットとは対称的にランディーはお高くとまった白銀の猫が好きではないようだった。だが、ランディーも動物は好きだった。好きではない、その理由がガーナットには懐いて自分に懐かない、という所から来ているのをガーナットは知っていた。
「ランディー、そう嫉妬するなよ。そのうち懐くようになるさ。」
ガーナットはニヤリと笑ってランディーをからかった。ランディーはからかわれているのに気付きながら反論した。この二人はこんな馬鹿げた、日常的な会話が好きだったのだ。
「別に懐いてほしいわけじゃないさ。だいたいもう十何年も、、」
[ついに時は来た。
ランディーの言葉を遮り、不意に頭の中に響いた言葉に二人は違和感を覚えた。しわがれた声で深く響くような男の声だった。ガーナットは周りを見回しながら、目についた村人の声をめくるめくる思い出していた。二人は軽くパニックに陥った。こんな時決まって先に口を開くのはランディーだった。
「なんだ今の!ガーナット、お前も聴こえたんだろう?」
「ああ、聴こえた。なんだかすごく気分が悪い。なんだろう、
ランディーはガーナットの言葉を聞いて目を細めて眉間にしわを寄せた。
「
急に湧き上がってくる吐き気と倦怠感、頭痛などを押さえ込みガーナットは懸命に説明しようとしたが、これらの苦痛に対する苛立ちでうまく話せなかった。
「言ってたじゃないか!時は来たって、
ガーナットは多少声を荒げたがそれでもほかの村人が気にかけるほどではなかった。
「落ち着けガーナット。俺には頭に響いた変な音しか聴こえなかったぞ?ほかの連中も聴こえなかったようだし、いったん落ち着ける場所に移動しよう。」
「ああ、そうしよう。」
息を切らしたガーナットは立ち上がろうとしたが、足に力が入らずにその場に倒れこんで、そのまま気絶してしまった。
倒れたガーナットは額に汗を浮かべ、苦痛に顔をゆがめながらうなされていた。それをみて助けを呼んだランディーに気がつき、村人たちは駆け寄ってきた。だがデリーだけは、謎の声が響いた瞬間からガーナットとランディーの二人を酒場の中から驚いたような目で凝視していた。
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