1.テンダールットの朝

 辺境の村テンダールット。そこでは、2日後に行われる収穫祭に向けての準備であわただしく朝を迎えた。朝日が昇ると同時に鶏は鳴き、道脇の雑草に滴る朝露までも太陽の光で輝いて魅せた。だが、村人はそんなことを気にかける様子もなく動いている。今年17になるガーナットもその一人だった。金髪の少年、ガーナットは朝早くから昨日切った木を運びに来た運搬係りの相手をしていた。

「父さん、この木はどこのやつだっけ?」大声で叫ぶガーナットに眠気と嫌気を覚えつつ父デリーが家から出てきた。

「昨日切ったやつなら中央広場だ。真ん中で燃やす分を例年より多くするらしい。」

うなるように答えた中年の男はまだ眠そうに左手で腹、右手で頭をかいている。昨日切った木材の運搬の指示が終わると、ガーナットとデリーはいったん休憩を入れた。

 家の前にある二つの切り株に腰掛て、朝食のパン、ベーコンを胃にねじ込んだ。

「さあ、ガーナット今日も仕事だ!お前はランディーと一緒に木をもう何本か倒してこい。俺は村長の所へ行っても一度日程を確認してくる。いいな?」デリーは村の中でも皆の信頼を得ているので村人に指示する立場にあった。

「ランディーと?二人だけで?昨日のように大勢でないと時間がかかりすぎるよ」

ガーナットは嫌な訳でもなかったが、昨日の仕事からくる筋肉痛、疲れを考えて、反論した。

「大丈夫だ。昨日ほどの数はいらないからな」

安心させるような笑顔を浮かべたあとデリーは牛乳を飲み干し荷物を取りに家の中へ戻った。

「わかった・・・あー、だけどしばらくしたら運搬係を何人かよこしてよ。木は昨日も切り倒したけどあの量じゃ僕とランディーじゃとても運びきれないよ」

ガーナットはそういって朝食を済ませ、隣の家のドアを三度たたいた。数秒後に走る音がして背の高く後ろで髪をまとめた少年が姿を現した。ガーナットの身長は180cm程度で少年の身長は190cmはゆうに越えていそうだったがガーナットは体格がよく、もう一方のほうの少年は細身だったのでそれほどガーナットは見劣りしなかった。

「おはよう、ランディー昨日の疲れは取れたかい?」

ガーナットはいたずらに笑うと、ランディーのほうを見た。

「散々だよガーナット。まったくお前の親父と言ったら容赦がない。そこらじゅうが筋肉痛さ」

同じくランディーも笑って返した。そしてすでに支度を済ましていたランディーはドアの内側の斧を取ってガーナットの先を行くように歩き出した。

「今日もキルフの森で、きこりの真似事だろう?いこうぜ、きつい仕事はさっさと済ませるに限る。」

「ああ、だがうれしいことに今日のきこりは僕とお前だけさ」

ランディーの顔がすがすがしい目覚めの顔から疲れと驚きを隠せない顔に代わった。そうなるとわかっていながら見ていたガーナットは面白くてたまらなかった。

「お前の親父は鬼か」

そしてガーナットとランディーは忙しそうに道行く村人とあいさつを交わしながらキルフの森へ歩き出した。

テンダールットの朝は活気に満ち溢れていた。


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