第6話~休息~
それからしばらく馬を進め、私たちは王国領から出ることができた。その間、特に攻撃されることもなかった。
「さて、王国から出たのはいいけど、これからどうしましょうか?」
「…このまま南東に行くと、小さな集落があるはずです。そこならば、王国の騎士たちが来ることはないでしょう。」
そう言ったのはガリューさんだった。私にとっては外の世界。ガリューさん、よく知ってるな…。
「そう言えばガリューさん、こっちの任務が多かったですもんね。案内、お願いできますか?」
「もちろんです、行きましょう。」
そう言ってガリューさんを先頭にして私たちは進み始めた。
「しかし、こんなほうまで来ることなかったから新鮮っすね!」
アンドリューさんはそう言ってあたりを見回してる。私も国からあまり出たことがなくて、関所を一歩出ただけでこんなに景色が違うなんて思ってもなかった。
「まあ、ここら辺はジャングルだから野生動物も多いはずだ。警戒するに越したことはない。」
「どうやら、野生動物だけではないみたいですよ。」
「え?」
リュウさんがそう言うと、周りの木の陰から騎士団のマントを付けた人がたくさん出てきた。
「チっ!しつこいな!」
「姫!我々の仲間を斬った輩なんて捨てて、我らと共に城へ行きましょう!王様も待っていますよ!」
そう言って手を差し出してくる。でも、私は―
「…っ!」
フレアくんにしがみついて首を振る。そうすればフレアくんは優しく片手で引き寄せてくれる。
「これが姫の答えだ。」
そう言って剣を抜く。今回も、人はたくさんいる。殺さない方が難しいに決まってる。
「ごめん、また、目をつぶってて。」
「うん。」
優しくそう言ってもらえて、ぎゅっと目をつぶる。怖いけど、皆を信じる。そう決めたから。
「フレアさん、今回は出番ないっすよ!」
「姫の事をよろしくお願いします。」
「下がっていてください!」
そんな声が聞こえる。フレアくんもそれに従って後ろに引いた。
少し遠くで、誰かの叫び声が聞こえる。しかも、色んな人の。『お願い、私の騎士の声だけは、しないで。それ以外は、どんなに大きくても、どんなに多くてもいいから。』そんな事を思いながら終わるのを待つ。早く、早く終わってほしい。
「…終わった…。」
「リュウ!!」
そのアンドリューさんの声に驚いて目を開けると、リュウさんがアンドリュウさんの腕の中でぐったりしてる。出血もすごい。そんな…。
「…皆さん、早く、行ってください…。また、やつらが来てしまう…。」
「んなことできるか!!」
リュウさんの言葉にアンドリューさんがそう言う。ガリューさんやフレアくんも頷いた。もちろん、私も。
「リュウの馬は私が上手く連れていこう。アンドリューはリュウを背負って馬に乗ってくれ。」
「分かりました。ほら、リュウ。掴まれ。」
「すまん…。」
そう言ってアンドリューさんたちが馬に乗る。早くしないと、リュウさん危ないんじゃ…。
「大丈夫。リュウはこんなことでどうにかなるやつじゃないから。」
「フレアくん…。」
私の心配をよそに、フレアくんはそう言ってくれる。そうだよね。うん、きっと大丈夫。
「とりあえず少し急ぎましょう。本来ならすぐそこの集落に行く予定でしたが、もう少し先の村に行きましょう。その方が医療設備が整っています。」
「分かりました。ガリューさん、案内お願いします。」
「リュウ、もうちょっと頑張れよ。」
そう言って馬が走り出す。いつもより早く、でも、リュウさんに負担にならないように。
集落を通り過ぎてすぐ、小さな村に着いた。でも、村は私たちを歓迎してくれた。
「ガリューさん!どうしたんだい?その子!」
「ああ、村長!丁度良かった。実は私の部下でして、まあ、詳しい話は後で。ちょっとこいつの治療をお願いできますか?」
「ああ、任せといてよ。あんた、その子負ぶって付いて来な。あんたの事も治療するからね。」
「あ、はい!」
そう言ってアンドリューさんたちは馬を降りて一番奥の家に向かって行った。
「ガリューさんもどうぞ。馬は、私が世話しておきますので。」
「ありがとうございます。こちらのお二人もよろしいでしょうか?」
そう言ってガリューさんは私たちを指す。ガリューさんに話しかけてきた女の人は私たちを見て優しく笑った。
「もちろんです!お二人もどうぞ。」
「だ、そうです。少し休憩しましょう。」
「そうですね、ありがとうございます。」
そう言って私たちも馬を降りる。少しでも休めるのはありがたい。でも、なんかふらふらする…。
「ゆずり、大丈夫?」
「う、うん。ちょっと、疲れた、かも…。」
フレアくんにそう聞かれて答えたけど、視界がだんだん暗くなる。
「ゆずり!!」
フレアくんのその言葉を最後に、私の意識は消えた。
目が覚めると、柔らかいベッドに横になってた。ここはどこだろう…?
「あ、ゆずり。良かった、気付いて。」
そう言ってフレアくんが部屋に入って来た。手には湯気の立ったカップが握られてる。
「フレアくん…。」
「はいこれ。あったかい飲み物だよ。…覚えてる?倒れたの。」
ああ、そうだった。急にふらふらしてきて、視界も暗くなって…。
「特に熱も出てないし、ただの疲れらしいけど、どこか痛い所とかない?」
「ううん、大丈夫だよ。」
「良かった。」
フレアくんはそう言ってほっとした顔をした。
「ベッド、座ってもいい?」
「うん。」
そう言って、ベッドに腰かける。でも、顔を見てはくれなかった。
「最近、ゆずりに無理ばっかりさせちゃってるね。」
「え?そ、そんなことないよ!」
私がそう言ったけど、フレアくんは首を振る。
「だって、俺たちがもっとゆずりに気を使っていればゆずりは倒れることはなかったじゃん。もっと、こまめに休んでいれば…。」
「そんなの、皆いっしょだよ!」
私はそう言ってフレアくんの言葉を遮る。それから、ベッドに投げ出された手にそっと触れた。
「皆、私を守るために、色んな選択してくれて、自分ばっかり傷つけて、私を守ってくれて…。私は、皆がそうしてくれてるって、ちゃんと分ってるよ。」
「ゆずり…。」
「誰に、フレアくん達のせいだって言われたか知らないけど、違うからね。」
私がそう言うと、フレアくんは私を見てくれた。いつの間にか、触れてただけの手はしっかりと握られていた
「ありがとう。」
ようやく笑ってくれたフレアくんは、ただ一言そう言った。
「でも、また倒れたりしたら大変だからここでゆっくり休もう。あと、これから疲れちゃったり具合悪かったら言うように!」
「はい、分かりました。」
これは、心配して言ってくれてるんだよね。素直に聞かないと。
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