第5話~遭遇~
集落から出てしばらくは森の中。森を抜けると今度は広い草原に出た。
「わあ!ひろーい!」
そう言って年甲斐もなく少しはしゃいでしまう。もう少し大人な態度で日々を過ごしたいな…。
「姫様は草原初めてなんすか?」
アンドリューさんからそう聞かれて素直に頷く。
「そうなの!昔本で少し見たことがあるくらいで、実際に来たのは初めて。」
「へえ、俺たちは子供の頃とかよく来てたよな?」
「ああ、懐かしいな。よく、服を汚しておじい様とお母様に叱られたな。」
「そうなんだ!なんか、アンドリューさんは𠮟られてるイメージあるけど、リュウさんも怒られたんだね。」
「姫様、地味にひどいっす。」
そう言って三人で笑ってると、フレアくんが後ろで「しっ」と言った。
「リュウ、アンドリューは戦闘準備。嫌な予感がする。」
「「了解」」
二人はそう言って剣を構えた。
「ゆずりも、落ちないように気を付けてね。」
「うん。」
「来た!」
そう言ったのは、最後尾にいたガリューさんだった。振り向くとそこには、私がよく知ってる紋章の入ったマントを身に着けた人の集団だった。
「騎士団…。」
騎士団の人たちは私達を見ると不敵に笑った。
「ふっ。やはりここにいたか。悪いが姫は我々がいただいていく。おとなしく姫を開放してもらおうか。」
「はっ!解放って、まるで俺達が姫様を誘拐したみたいな言い方っすね。自分たちが正義の見方っすか!」
そう言いながら、アンドリューさんとリュウさんが前に出て来た。それと入れ替わるように私たちが下がる。
「だが、そんな事させるわけにはいかない。」
リュウさんがそう言うと、ガリューさんも剣を構えた。
「今回は向こう側の人間も多い。姫様の事は頼みましたよ、フレアさん。」
「分かりました。…ゆずり、しっかりつかまってて、落ちないようにね。」
「わ、分かった。」
そうして、3人は敵の所へ飛び出していった。でも、こっちは3人なのに向こうはどう見ても10人はいる。どうしても3人だけじゃ無理はあった。
「は!しまった!」
その声が聞こえた頃には、目の前に敵がいた。
「ゆずり、目つぶって!」
フレアくんはそう言って剣を抜く。相手を斬るんだと分かったから、私は目をつぶってフレアくんにしがみついた。
そこから先は何も覚えてない。でも、一つ言えるのであれば、これが戦場なんだって思った。今まで戦い何て最後にお父様の所へ『良い報告があります』くらいしか聞いたことがない。
だから、何で目の前で人が死んでしまうのか、分からなかった。…いや、怖かった。
「ふう、終わったね。」
フレアくんはそう言った。皆平気な顔をしていた。きっと、慣れてるのかな?
「…ここから離れましょう。ここは血生臭くて、長くいるのはつらい、ものがあります。」
「そうっすね。」
リュウさんとアンドリューさんがそう言った。
「それなら、向こうに休むのにちょうどいい岩場がありました。そこに行きましょう」
「お、さすがガリューさん。案内して下さい。…ゆずり、しっかり掴まっててね。」
「…え?あ、う、うん。」
私の反応に、皆心配そうな顔をしながら馬を進めた。
「ここです。」
ガリューさんが連れてきてくれたのは大きな岩がたくさんある中で、腰掛くらいの岩が何個かある、身を隠すにはうってつけの場所だった。
「ゆずり、少しここで座ってて。ちょっと3人で話してくるから。」
「…うん、分かった。」
優しく降ろされた岩の上にそのまま座ってフレアくんを見た。なんだか違和感を感じたけど、そのまま行ってしまったので何も聞けなかった。
これからどうなるのだろう?このまま皆が危ない目に合うのなら、その原因が私ならば、私は、どうするべきなんだろう?もし、ずっとこのままなら、ううん、このままならまだいい。もし、私を守ると言ってくれた人たちが、傷つくことがあるなら、もし、だれか、死んでしまうことがあるとしたら…。
あの日、決意した心が揺らいでしまう。このまま、私は旅をしていいのだろうか?
皆を、アンドリューさんを、リュウさんを、ガリューさんを、…フレアくんを、守るためなら、私は城に…。
「こーら、ゆずり!」
そう言われて頭を叩かれて、びっくりして振り向くとフレアくんが怒った顔をしてた。
「フレアくん?」
「…、小さいころからゆずりの事見てるんだから、何考えてるかくらい、何となくだけど分かるからね?」
そう言って、フレアくんはそのまま頭を撫でてくれた。それだけで泣きそうになる。
「フレアくん…。だって、さっきの見たら、考えちゃうよ。」
「そうかもしれないけど…。悪いけど、俺たちはゆずりをあいつらに渡す気も、ゆずりから離れる気もないからね。」
「…え?」
「守るって、言ったでしょ?それは最後まで、ゆずりを狙ってる奴らがいなくなった後も、ずっと守り続けるって意味だからね?」
「で、でも、私のせいで皆に何かあったら…!」
私がそう言うと、他の3人も近くに来た。
「大丈夫っすよ!何かある前に皆で逃げちゃえばいいんすから!」
「そうです。大体、そんな事はないはずです。そうでしょう、ガリューさん。」
「ああ、我々には、騎士団最強のフレアさんがいる。何も心配はいりませんよ。」
「ちょ、ガリューさん。…まあ、いいけど。」
そう言うとフレアくんは照れ笑いを浮かべた。
「ね?なんか、根拠のない安心感あるでしょ?」
「フレアさん!そりゃないっすよ!」
そんな皆のやり取りに笑ってしまった。ううん、いつの間にかみんなも笑っていた。なんだか、心から笑うのは久しぶりな気がした。
「それに、ほら!俺たちがいつも着けてたマントも捨てちゃったんだよ。」
「え!?」
本当だ、皆背中にあるはずのマントがなくなってる。さっきの違和感はこれだったんだ。
「ああ、そういえば王が消えてからすぐに捨てたんでしたっけ?」
「ええ、王国に誓う忠誠もありませんしね。」
「俺たちが忠誠を誓うのは姫様だけっす!」
「そう言うこと、分かってくれた?」
そう言われて、もう、何も言えないくらい嬉しくて、フレアくんに思い切り抱き着いた。フレアくんは優しく抱き留めてくれて、他の3人も優しく見守ってくれてた。
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