第4話~旅の決意

森を進んで行くと、本当に小さな集落があった。

「ここっす。」

アンドリューさんはそう言って馬を降りた。それにならって私達も降りる。

「こんな所に集落があるなんて、知らなかった。」

「なんでも、王家から身を隠すためにこんな森の奥になったらしいっすよ。」

「え!じ、じゃあ私、入んない方がいいんじゃ・・・。」

「大丈夫です、我々が説得します。」

そう言いながら歩くうちに、大きな家の前に着いた。中からおじいちゃんが出てくる。

「おお、アンドリュー、リュウ。よくぞ戻った。」

「おじい様、お久しぶりです。」

「長老、どうもっす。」

「城から不穏な空気が流れて来たから皆心配してたぞ。後ろにいるのは城の方じゃな?」

「さすがおじい様。こちらの女性が姫であるゆずり姫、我々はその騎士です。」

「おお、そうか。」

その後も、リュウさん達の近況を話して本題に。

「ところで、ここにいますゆずり姫は今、王家から追われる身です。本日一晩、ここでかくまっていただけないかと思いまして・・・。」

「そうじゃったな、わしの水晶玉にも出ておったわ。無論、手を貸そう。この家の離れを使うといい。」

「ありがとうございます。」

離れに案内され、もう一度お礼を言ってから皆で寝た。

夜も更ける頃、私はどうしても眠れなくて、起き上がった。すると、隣で寝てたはずのフレアくんがいなかった。

外に出てみると、綺麗な満月を見上げるフレアくんがいた。

「フレアくん。」

私が声をかけると、フレアくんは微笑んで振り向いた。

「あれ、眠れないの?」

「うん。フレアくんは?」

「俺も一緒、眠れなくてさ、外に出てたんだ。」

「そうだったんだ。・・・ねえ。」

「ん?」

「なんで、お父様は私を捕まえようとしてるのかな?」

私の質問に、フレアくんは小さく息を飲んだ。

「人身売買は聞く事もあるけど、自分の子供を売る人は聞いたことないから・・・怖くて・・・。」

人身売買の話は、城にいても聞く事があった。例えば、奴隷として身寄りのない子供達を売ったりする人の噂とかを。でも、自分の子供を売る人がいるなんて、思いたくなかった。

俯いているとフレアくんは私に近づいて手を包み込んでくれた。その暖かさに、全て出てきてしまう。弱い自分が。

「怖いよ、お父様に売られると思うと、すごく怖い。」

「大丈夫だよ。」

「なんで・・・?」

「俺が、そんな事、させないから、そのために、もっともっと強くなるから。」

優しいけど、力強くて、頼もしい声。 

「ぜったい、だよ?」

「うん、ぜったい。」


朝になって、やっぱり私が一番遅く起きると、私だけ長老に呼ばれた。

「おはようございます。昨日は寝場所をお貸しいただき、ありがとうございました。」

「この程度、礼にはおよびません。」

そう言うと、長老は真剣な顔になった。

「リュウやアンドリューに聞いていないでしょうが、実はこの集落には『神の声』が降りてくるのです。」

「『神の声』ですか?」

「ええ、先日、お告げがあり、あなたが城から追われ、ここに参られる未来が神より告げられました。」

そこまで言うと長老は軽く目を閉じ、次に開くと、優しい微笑みを浮かべた。

「この集落は王家から追われ、身を隠すためにこの森にやって来たと言います。しかし、それはもはや昔の事、今の姫様には関係ありますまい。・・・もし、あなたが助けを要する時、我々は全力でお応えします。いつでも、おいでください。」

その言葉は、暖かすぎて、父親に裏切られた私は、感謝の言葉を言いながら涙を流す事しか出来なかった。

そして、その言葉で、私は旅への決意が出来た。いつ城に帰ることが出来るのか、そもそも、帰ることが出来るのか、それは分からない。

・・・それでも

それでも、「守る」と言ってくれた3人の言葉を信じるしかない。そう、この時思った。

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