~父の裏切り~

朝目が覚めると、すでにみんなが起きていた。

「あ、おはよう、ゆずり。」

一番に気づいてくれたのはフレアくんだった。

「おはよう。」

私はそう言って皆に近づいた。

「よく眠れましたー?」

間の抜けた感じでそう聞いてきたのはアンドリューさんだった。彼も眠そうに目をこすっている。

「うん、昨日は疲れちゃったからかな?そう言えば、お父様は?」

見るとお父様だけがいなかった。私の質問に答えたのはリュウさんだ。

「王様でしたら、まだお休みのようです。」

「そう、お父様もお疲れのようね。・・・無理はないでしょうけど。」

「そうですね。」

そこまで言うとガリューさんが言った。

「ですが、そろそろ起きていただかなければ。」

「え?どうして?」

「いつまでもここに止まる訳にはいきません。一刻も早く行動を起こし、敵から逃げるためにも。」

ガリューさんの言葉には全員納得済みたい。

「んじゃ、俺起こしてきますわ!」

アンドリューさんがそう言ってお父様の寝ている所に行った。しばらくして戻って来た彼の顔は、蒼白と言っていいものだった。

「アンドリュー?どうしたんだ?」

リュウさんがそう聞いた。

「いない・・・。」

「は?」

「いないんだよ、王様が!掛け物の中を覗いても、どこにも!」

「おいおい、嘘だろ?」

リュウさんの言葉は皆が思った事だったと思う。お父様がいないってどう言うこと?

「・・・!まさか!」

そう言ってガリューさんが外の様子を見てすぐ、「まずい!」と言った。

「あ、あの、まずいって、まさか・・・。」

フレアくんが遠慮がちにそう言うと、ガリューさんが頷いた。

「そのまさかです。この足跡、これは恐らく王の物です。ここにいる人物がここから出ていない事は、把握しています。つまり、この事件、王も関わっていたのです!」

「そんな!」

「ね、ねぇ、全然わかんないよ。お父様も関わってるってどういう意味?」

フレアくんは少し考えてから言った。

「王様も、ゆずりを捕まえようとしてるって言えば分かるよね?」

「・・・!」

私だけじゃなくて、アンドリューさんとリュウさんもビックリした。

「そんな、ウソっすよね?王が姫欲してどうするんすか!」

「そうです!なんの得があるのです!」

「もし、他国の王に姫を渡し、その報酬として、我が国の国土が増えるとしたら?」

そのガリューさんの言葉に、全員が凍りついた。

「考えられなくも、ないか・・・。」

そう呟いたのはリュウさんだ。

「なんで・・・なんでだよ!おかしいっすよ!そんな、自分の子を、娘を売るんすか!」

「王は、戦いがお嫌いだ。」

そう言ったのはガリューさんだった。

「争わない為となれば、恐らくは・・・。」

「そんな事って・・・ないっすよ。」

私は動かなかった。いや、動けなかった。怖くて。

「大丈夫。」

そう言って笑いかけてくれたのはフレアくんだった。

「少なくとも、ここにいる騎士は、全員ゆずりの味方だから。」

「どうして、分かるの?」

私は、フレアくんに聞いた。

「お父様も、私を裏切ったのに、どうして、皆が味方だって言い切れるの?」

「じゃないとここにいないでしょ?」

フレアくんの言葉は、すごく単純で、当たり前の事だった。もし、この中に裏切り者がいたら、お父様と一緒に逃げてるはず。

「そうっすよ!少なくとも、俺はゆずり姫の味方っす!」

「ええ、俺も、味方ですよ。安心してください。」

「ここにいる者がもし裏切ったら、私はそれを許しませんよ。」

皆が口々に言う。

「ね?安心でしょ?」

「うん!」

私が頷くと、皆ホッとしたように顔を緩めた。

「では、そろそろ行きましょうか。王が向こうに付いているなら、ここの場所もすぐに見つかります。」

「はい!」

皆で馬に乗って洞窟を出た。お父様が乗っていた馬はさすがに連れて行けなかった。私にも乗馬が出来ればな・・・。

「ごめんね。」

そう言って私達は出発した。

「どこへ行くんすか?」

先頭に立つアンドリューさんがそう言った。

「この先の森まで、恐らくは日没までには着くはずた。そこまで行こう。」

「了解っす!」

本当に日没前には着いたけど・・・。

「先客が、いるね。」

フレアくんがそう言うと、皆が剣を抜いた。視線の先には、騎士団の人達。

「ここまで来て、引き返すの、地味にきついっすね。」

アンドリューさんがそう呟くと、向こうの人達は高笑いした。

「そうだろう!ならば、ここで姫を渡してはくれないか?」

「悪いが・・・。」

「ゆずり姫を『渡す』気はさらさらないんっすよ。」

そう言ってリュウさんとアンドリューさんが馬を降りた。ガリューさんは私達を守るように前に来た。フレアくんは、私を支えている手に力をこめた。

「さあて、やりますか!」

そう叫んでアンドリューさんが双剣を構える。

「ガリューさん、フレアさん。姫をよろしくお願いします!」

そう言ってリュウさんも刀を握る。

「何が、始まるの?」

「ん?あの二人?」

「うん。」

「高速演武、かな。」

そんな事を話してる間に、二人は相手をみるみるうちに倒していく。な、なんか凄い。

兵士が半分くらいになったところで、相手が逃げて行った。

「ふう!」

二人はまず、馬に乗る。アンドリューさんが私を見て言った。

「姫様お怪我ないっすか?」

「え?うん、大丈夫。それより、二人こそ大丈夫?」

見ると、二人ともかすり傷を多く負っていた。

「これくらい平気っすよ!」

「はい、お心遣い、いたみいります。」

「う、ううん、大丈夫ならいいんだ。」

「それより、野営の場所を考えないと。」

不意にフレアくんがそういった。

「ど、どうして?」

「ん?いや、向こうの奴等にはもう、ここで、野営する事は完全にバレたって事は、寝てる間に奇襲をかけて来るかも。」

「き、奇襲!?」

「うん、だから、反対方向の森に行くか、森を抜けた先に洞窟があるかを探さないといけないんだ。」

「で、でも、そうなったら間違いなく徹夜でしょ?そんな事したら明日倒れちゃうよ。」 

「まあ、そうだね。」

「どうすべきでしょう?」

「うーん・・・」

「あのー・・・」

そこで、アンドリューさんとリュウさんが入って来た。

「どうした?」

「いや、えーっと・・・。」

「この森の奥に、小さな集落があります。」

「この森の?」

「はい、そこは俺とアンドリューの故郷でもあります。今夜一晩ならバレずに休めるかと。」

「だ、そうっす。」

「森の奥・・・。」

「行ってみる価値はあるね。」 

フレアくんも、ガリューさんも賛成みたいだった。

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