第2話 ~反逆~

パーティー中は、フレアくんのおかげであまり縁談の話は来なかった。そして、もう終わりに差し掛かり、最後のダンスをしなければならない時になった。

「ダンスかぁ、フレアくん一緒に踊らない?」

「・・・」

声をかけても、フレアくんからの応答はなかった。違う方を向いて怖い顔をしていた。

「ね、ねえ、フレアくん。」

服の袖を軽く引っ張ると、ようやくこっちを見た。

「あ、ごめん・・・じゃない、すみません姫様。どうなさいました?」

パーティー中で、いろんな人がいるからこの口調は仕方ない。

「どうしたの、怖い顔して?」

「い、いえ、なんでもございません。それより、姫様こそどうなさいました?」

「えっと、ダンス、一緒に踊らない?」

「もうそんな時間ですか。姫様がそれをお望みなら喜んで。」 

そう言ってフレアくんが私の手を引いて中央へ歩き出す。ライトの下まで行くと会場中の音がなくなった。


ダンスが終わると、そこかしこから拍手の音がして、一礼すると、お父様のお話が始まった。

「ええ、本日は、我が姫君の17の誕生パーティーにご臨席を賜りまして・・・」

「王様、しっかりしてらっしゃるね、今年は。」

「去年はほら、私結婚出来る歳になったから、それで感極まったんだよ。」

「そうだね。」

小声で、他の人達には聞こえないから、いつもの口調に戻る。それがなにより嬉しくて・・・。

「これで、私からの挨拶とし、また、パーティーの終わりを告げます。本日は本当にありがとうございました。」

拍手が鳴り響き、私達も、挨拶のために、出口へ向かう時だった。

「動くな!」

いきなり響いた声に、フレアくんは私を引き寄せ、周りの臨席者からは一様に緊張の色が差した。

「死にたくなければ、そのまま大人しくしていろ!」

「この声・・・。」

「知ってるの?」

私が聞くと、声のする方を向いていたフレアくんがこっちを見た。いつもよりも顔が近くてドキッとしたけど、フレアくんの答えを聞いてそんな事も考えられなくなった。

「うん、多分、なんだけど、騎士団の人の声だと思う。」

「騎士団?なんで、そんな人が?」

「分からない。でも、少なくともいい雰囲気ではないね・・・。」

それは同じだった。しかも、そこかしこ(確か騎士団の人達がいた所)から剣を抜く音がする。

「姫様、ご無事ですか?」

すると、そこへ長年勤めているベテランの騎士が来た。

「ガリューさん!わざわざここまで?」

「いえ、近くにいたものですから、姫様達の姿を見つけて、ここまで。」

フレアくんが応対すると、ガリューさんも、答える。

「ガリューさん。この襲撃、誰が関わっていて、誰が主犯格か分かりますか?」

フレアくんがそう言うと、ガリューさんは首を横に振った。

「いえ、残念ながらそこまでは・・・。ただ、関わっている者は特定出来ます。おそらくは私とアンドリュー、リュウ以外の騎士団員全員かと・・。」

「そんなに・・・!」

私は怖くなってフレアくんの腕にしがみついた。さすがのフレアくんも驚いたのか、目を丸くした。

「そうですか・・・。王様はご無事か分かりますか?」

「ええ、アンドリューとリュウに任せてあります。あの二人の断末魔が聞こえないので、大丈夫でしょう。王は裏から脱出させるように言ってあります。」

「分かりました。では、俺達はゆずり・・・じゃない、姫様を守りましょう。」

「分かりました。」

ガリューさんが味方と分かってフレアくんは少しほっとした感じだった。

そこまで二人が話すと、向こう(反逆者)がまた話し始めた。

「我々の目的、いや、我が主の目的はただ一つ、17となった姫君の強奪である!」

『な!』

フレアくん達が一斉に声を上げる。私は腕の力を強くして、いっそう近づく。

「姫君までの道を開けてもらおう!」

しかし、その声が、響く前にフレアくん達は動いていた。まず、フレアくんが私を抱き上げて、ガリューさんの後を追って走り出した。抱き上げたのは私の足に今、力が入っていないのを確認したから。ガリューさんが先に行ったのは、道を開けてもらうため。それと、前に出てくる騎士団員をすべてなぎはらうため。でも・・・

「フ、フレアくん!どこ行くの?」

フレアくんの向かっている方向は出口ではなかった。

「とりあえず、窓から脱出するよ!出口付近には騎士団員いっぱいいるからね!しっかり掴まってて!」

「う、うん!分かった!」

そう答えたと思ったらもうすでに、ガリューさんが窓を突き破って外に出ていた。ここは二階だからしっかり着地しないと、怪我をする危険性が(たとえ、騎士団の厳しい試練を受けていても)高い。フレアくんが余計な心配をして着地を失敗しないように、腕の力を強めた。

無事に着地したと思ったら息をつく暇もなく、馬小屋へ。中に入るとすでにお父様が馬に乗っていた。

「お父様!」

「ゆずり、無事であったか!」

「姫様、王様、ここはひとまず逃げましょう!追っ手がくる前に!」

「ああ、そうだな。」

フレアくんが私を馬に乗せて、自分も同じ馬の後ろに乗ると、片手で手綱を握り、片手は私が落ちないように支えてくれた。こんな事が出来るのは騎士団の中にも、片手しかいなくて、そのため戦いの場へ馬に乗って行けるのも限られてくる。そうじゃないと、片手で剣を握ったまま、馬を駆れないから。

アンドリューさん、お父様、リュウさん、私達、ガリューさんの順で出発した。

幸い、まだ追っ手は追いついていなかった。

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