転がってるのね

新吉

第1話

 石ころ、猫、ゴミ、人、みんな日々転がっている。けいちゃんも。ただいるのではなく、転がってるのね。何を思ってそこに転がってるんだろう。



 けいちゃんはお姉ちゃんで私は妹で、いつも一緒にいた。いつからか一緒にいるのが嫌で離れるようになった。そして今また一緒にいる。理由はけいちゃんが精神病にかかったからだ。いや、私が仕事を辞めて帰りたくもない実家に帰ってきたからだ。そしてそれがけいちゃんのきっかけになってしまった。と思う。



 けいちゃんはおとなしい子だった。真面目な子だった。クラスでも目立たない存在だった。たまにいじめられたりしたけれどけいちゃんはだいたい悪くなかった。ただうまく話ができなかっただけだった。ただうまく話ができないことが悪いことなら、間違いなくけいちゃんが悪かった。



 けいちゃんはよく中学校の話をする。時には幼稚園の時の話まで、よく覚えているなあと言うと忘れられないんだと言う。




 けいちゃんはいつも下を向いている。

 けいちゃんは耳がピクピク動く。けいちゃんはその癖が嫌い。

 けいちゃんは家では私を叩く。理不尽な理由で、叩かれる。叩き返してケンカをする。



 けいちゃんは学校をいろいろありながらも卒業する。その頃にはケンカもしなくなった。将来のことでお互いに忙しかった。けいちゃんは好きなことを仕事にしたかった。けどそのためにはお金もなく、勉強もできないから奨学金も使えなかった。小さな工場に勤めることが決まった。その前にも見学や面接に行ったり、けいちゃんはすごく頑張っていた。試しに一週間勤務し初任給をもらった。みんな優しく教えてくれたという。

 工場は津波に流された。けいちゃんは無職になった。私は進路変更をした。きっとそれもよくなかったんだと今になって思う。



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