四章 風雲急

第40話 「保険の保険」 妖怪「リスク」登場



    1


     心の闇にとらわれて 出口の見えない人がいる

     天狗の力の少年が 来たりてこれを焼き払う

     てんぐ探偵只今参上 お前の心の悪を斬る



「あの……あの……」

 おどおどと汗をかく挙動不審な男を、久留美くるみはじっと見ていた。

「あの……もし…もし良かったらだけどさ……」

「なに?」

 新開しんかいは、どうしてこう上手くしゃべれないのだろうと汗を噴き出していた。失敗したらどうしよう。そう思いすぎることが自分の欠点だと分っている。分っていても、当の久留美を前にすると、上手く言葉が出てこなかった。なにせ三年間も片思いしてきた、話したこともない同僚に、はじめて廊下で声をかけたのだ。


「ファ……FKJファンダメンタル・キラー・ジェイ好きだって聞いたんで」

 新開は、ライブのペアチケットを久留美に見せた。

「好きは好きだけど……」

 久留美はじっと新開の目を見て真意をはかった。その目にじっと見られると、更に新開の緊張に拍車がかかった。

「偶然、……そう、偶然、新聞屋さんが持ってきてくれてさ」

「はあ?」

「こんなマイナーバンドのチケットなんて、新聞屋に出回るものなの? まだ、『Pinkピンク Hipopotamusのカバ』ぐらいしか代表曲ないのに」

「あ、そ、……それは新聞屋さんが先にライブハウスの枠だけ買ってて、たまたま、偶然、そこにFKJが来ただけじゃないかな」

「……はあ」

「あ、こんどの土曜日なんで、次の日は休みで疲れないし、ライブのあと、話題のカリビアンレストランも偶然あいてて、予約取れたんだ」

「……で、何が言いたいの?」

 新開の態度が煮え切らないのに苛立ち、久留美の言葉に棘が生えた。

「いや、FKJタダで見れて、得だよって」

「それで、レディーを誘ってるつもり?」

「……え?」

「なんかさ、一応デートに誘ってくれてるのは分るんだけど、なんか一々保険かけてんだよね。俺といるのが詰まらなくてもFKJ見れるから。俺といるのが詰まらなくてもカリビアンレストランあるから。俺といるのが詰まらなくても次の日休みだから。保険の保険の保険、みたいに何重にも保険かけすぎだよね? 何でそんな保険ばっかかけてんの?」

「しょ、……しょうがないだろ」

 新開は会社の廊下で、誰にも見られていないのを確認してから言った。

「俺たち、ほ、保険屋なんだからさ」

 ここはチキン保険とんび野町営業部の廊下である。営業二課の新開静夫しずおは、内勤の富田とだ久留美をどうにかしてデートに誘おうとしていたのである。

「……考えとく」

 久留美はチケットを受け取らなかった。

 全力の誘いを断られた新開は、屋上で落ちこんだ。

「まだ保険が足りないのかな……。カリビアンレストランが不味かった時の為に、話題のロシア式バーで保険を打たなきゃいけないのかな。話題が尽きたときの為に、手品とか習っといたほうが……」

 新開は、保険の選択肢の多さにため息をついた。

 その右肩に、「心の闇」が取り憑いていた。その名を妖怪「リスク」という。ウニのようにトゲトゲしていて、触ったら痛そうで、危険を示す鮮やかな黄色だった。



「ラーメン屋を出したいですって? とんでもない!」

 ある日、駅前の角地に出店したいという男が、保険の相談にやってきた。担当についた新開は、思わず声を大にした。

「飲食店は、食中毒のリスクがあります!」

 客の男はぽかんと口をあけた。静夫は畳み掛けるように続けた。

「食材を抱え、売れないときは腐ってゆくリスクもある! ネズミのリスクも無視できない! 第一おいしいんですか? 不味いかも知れないリスクがあるでしょう! 常連さんがつかなかったらどうするんだ! 一見さんの客だけでやってけるほど低リスクの商売じゃないでしょう? 常連さんを引き連れてくるなら別ですが、一から上客を探すのは、リスクがありすぎる! そもそも反対側の商店街にオイシイチャーシューメン屋があるのに、もう一軒ラーメン屋が増えるのは客を奪い合うリスクがある! ネットに晒されるリスクはいまどき考えなきゃいけないし、雨の日は客が減るリスクもあるでしょう! 第一火事になったらどうする? 駅前だから、強盗が立てこもるリスクやトレーラーが突っ込んでくるリスクも考えなきゃいけない!」

「いや……それじゃ、ラーメン屋出すほうがリスクがあるってことですか?」

「そうですよ! あなたが病気になったら? ある日飛行機が落ちてきたら? 放射能を浴びたら? 呼吸する空気の中は細菌だらけだ! 致死性ウィルスを吸ったら? 蚊がマラリアを運んできたら? 家の中でもリスクがある! 睡眠中呼吸が止まるかも知れないリスクがある! 地震で家が倒壊するリスクもある! 富士山が爆発するリスクもある! そうだ!」

 新開は席を立ち、つかつかと店舗から外へ出た。客の男は追ってきた。

「ちょっと! どこへ行くんですか!」

「そもそも、生きるのには、死ぬリスクがある! だから死ぬ! それが合理的だ!」

「はあ?」

 新開は、そのまま大通りの車に身を投げた。

「ちょっと!」

 飛びこんだ新開を見た車の運転手は、急ブレーキを踏んだ。

「不動金縛り!」

 てんぐ探偵シンイチの声が響くと同時に、新開は空中で静止した。ブレーキを踏んだ車も、追ってきたラーメン屋も、その周囲も時を止めた。天狗面の少年シンイチは、新開を脇に抱えて一本高下駄で飛び去り、裏通りまで連れて行き金縛りを解いた。

「あれ? ……何? き、君は?」

「あなたは、妖怪に取り憑かれています。……それは、妖怪『リスク』」

「……はい?」

 新開の右肩の上の、黄色いトゲトゲの「リスク」は、一メートル越えに成長していた。黄信号どころか、もうすぐ赤信号が灯りそうな状態だった。


    2


 話をひと通り聞いた新開は、鏡にうつった自分の肩の「リスク」を見ながら言った。

「そんなこと言ってもさあ。俺、リスクを考えて保険打つのが仕事だしさあ」

「でも『生きるのは死ぬ恐れがあるから死ぬ』は、明らかにオカシイよ!」

「だってそう思ったんだもん」

「それはあなたのせいじゃなくて、妖怪『心の闇』がそう思わせてるんだ。『リスク』の事を考えたのはいつ?」

「いつ?……って、この仕事始めてからずっとだよ。保険屋だもの。保険ってのはあらゆるリスクを前もって考えて、その前で立ち止まって……」

「最近ひどくなったとか?」

「……」

 新開は図星のようで黙りこくった。

「思い当たる節があるな?」と、シンイチのお供ネムカケが口をひらいた。

「わしには分かるぞ。恋の病じゃ」

「むむむ。化け猫に見透かされるとは。……実は俺、同僚の富田久留美さんが好きなんです。……でも、もし彼女に嫌われたらどうしようって」

「ふむ。恋は嫌われるリスクがあるとな」

「自分の気持ちが彼女に知られたら、オシマイだ」

「……その不安が、妖怪の取り憑く心の隙間だったのかもね」

 シンイチは肩の棘だらけの妖怪を眺めた。いまにもその棘で刺してきそうだった。

 何も考えず、シンイチは言ってみた。

「ねえ、彼女に思い切って告白しなよ! リスクって言っても、単に振られるだけじゃん!」

「それが最大のリスクだろうが!」

 シンイチはまだ知らないのだ。恋に破れることの恐ろしさを。二人の関係性を崩したくない思いが新開を支配している。リスクやリターンというひと言では示せない、それは膠着状態だ。恋はそれ自体リスク。新開の肩の妖怪「リスク」が、そんな思いを吸収し更に膨れ上がる。好きであればあるほど、その大切な玉を壊したくない。素晴らしい彼女が好きであればあるほど、こんな俺がその素晴らしい彼女に釣りあう筈がないという劣等感。

「俺がどれだけ彼女が好きか……。営業から帰ってきたとき、彼女のパソコンを打つ姿を盗み見ることが、どれほど俺の心を立ち直らせてくれたことか……。彼女の好みのパンクバンドを調べ上げるのに、どれだけの人に調査してもらったか……」

「え? 本人に聞いてないの?」

「恐くて喋れるかよ! こないだようやく廊下で喋れたんだよ!」

「えーっ。それが本当に好きだってこと?」

 シンイチの子供なりの質問は、時々大人の心を抉る。

 ネムカケがフォローを入れた。

「まあまあ。恋は人を臆病にするものじゃよ」

「でもこのままリスクを恐れれば恐れるほど、妖怪に取り殺されちゃうよ」

「まるでの国のゆうさんのようじゃのう」

「誰? 知り合い?」

「わしが生まれた頃の中国の話じゃが、杞という国の人で、憂さんという人がいてのう。直接は知らんけど、友達は知っとる。で、憂さんはある日『天が落ちてきたらどうしよう!』と『天が落ちてくるリスク』を考えはじめたのじゃ。天を支える方法ばかり考えはじめて大騒ぎしたのじゃ」

「天は落ちたの?」

「落ちる訳ないじゃろ」

「なあんだ。そりゃそうだよね!」

「心配し過ぎのことを杞憂というのは、彼みたいだ、と後世の人がつけたのじゃ。その支える様は、中国拳法(八卦はっけしょう)にも杞人支天勢という技で残ってるくらいじゃ」

「うーん、じゃ、『リスク』退治は、それが杞憂だって学ぶことが正解かなあ」

「どういうことだ?」と新開は聞いた。

 シンイチは考え、ひらめいた。

「そうだ、釣りに行こう!」

「相変わらずシンイチは独特の発想をするのう。予想もつかんわ」と、ネムカケはニヤニヤする。

「釣りってどこへ?」

「山奥にでも行こうと思うけど!」

「山? そんな、危険だらけじゃないか!」

「そう? そうでもないよ!」

 じたばたする新開を押さえつけ、シンイチは奥多摩の渓流まで、一本高下駄で飛んだ。


    3


 キャンプ場のある川原から、渓流沿いに上ってしばらく。そこは誰も居ない穴場スポットだった。深い緑色の沼があり、周囲には様々な木がおじぎをするように枝を垂らす。絶好の釣りスポットだ。

「つ、釣りなんて、危険すぎる!」

 妖怪「リスク」に取り憑かれた新開は怖がりはじめた。

「こんな尖った岩だらけの所で転んだらどうするんだ! ケガのリスクがあるじゃないか! きっと傷口がパックリいくぞ! 傷口から破傷風菌が入るリスクもあるし! 虫に刺されたり、蛇に噛まれるリスクもある! 釣り針で自分を刺すリスクもだ! 大物を引っ掛けたとしても、沼の中に引きずりこまれるリスクだってある! 山の中はリスクだらけだ! もうダメだ! こんな恐い所一秒たりともいられない! 帰る! 保険かけてから来れば良かった! いや、全額払われたって死んだら受け取れないし!」

 新開は大自然に恐れをなし、走って帰ろうとした。しかし足場の岩に足を取られ、派手に転んで腕を尖った岩にぶつけた。

「いってえー! ホラ! 傷口がパックリ!」

「それぐらい、ツバつけときゃ治るよ!」

「ツバだって? 子供かよ!」

「ツバには殺菌力があるんだよ?」

「……知ってるよ!」

 新開はツバを念入りに腕の傷に塗りこんだ。

「山なんてリスクだらけだろ! 鉄砲水が来たらどうするんだ! 大体、何で釣りなんてしなきゃいけないんだ!」

 シンイチは笑った。

「えっとね、そのリスクを体験してもらおうと思って!」

「……ハア?」

 言った端から、スズメバチが巡回にやって来た。

「うわあ! 蜂だ!」

「動かないで。こいつは巡回してるだけ。巣からは遠いだろうし、動かなきゃ刺されない」

 ブーン、と耳障りな低い音を立て、オレンジの縞模様の危険な奴は去ってゆく。と、足元の薮がガサリと動いた。

「へ、蛇だ!」

 パニックになった新開は走り回り、誤ってその蛇の尾を踏んだ。びっくりした蛇は新開の足を噛んだ。

「か、か、か、……噛まれた……! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬ!」

 シンイチとネムカケは落ち着いて笑っている。

「何笑ってんだよ! 血清! 死ぬ! ここは山の中……血清は間に合わない! ヘリだ! ああ! 電波が届いてない!」

「それ、青大将」

「はい?」

「毒蛇じゃないよ。青大将。知らないの?」

「区別なんかつかねえよ!」

「マムシとヤマカガシとハブ以外は、毒持ってないんだよね」

「え……そうなの?」

「尻尾踏まれたら、誰だって怒るよね!」

 青大将は薮の中へと消えていった。

「お前……山に詳しいのか?」

「まあまあかな」

「山の王の弟子だしのう」とネムカケは笑いながら沼の方へと向かい、昼寝にぴったりな岩を見つけた。

「ホラ、ツバつけときゃ治るから、この釣り竿使って」

 シンイチは腰のひょうたんから、釣り竿を二本出した。

「俺、釣りははじめてで……」

「そう! 難しくないよ! オレの真似して!」

 シンイチは沼の周りの湿った石を裏返し、虫を取って釣り針に引っかけた。

「ちょっと離れて。こうやるの」

 竿を持って軽く針を持ち、自分の周りにまず一周させて、その勢いで水面に投げる。遠心力の応用だ。

「あとは待つだけ」

 新開は見様見真似で竿を振った。そして左手に釣り針を引っかけてしまった。

「痛え! 刺さった! 死ぬ! 釣り針って返しがついてて、抜けないんだろ! 抜けば抜くほど深く刺さって……」

「落ち着いてよ。コレ、返しがない針だし」

「え? そんなのあるの?」

「食べる用じゃなくて、楽しむ用の釣りはさ、魚にダメージがないように返しのない針を使うのさ」

「え? そうなの? ……じゃ何の為に釣るの?」

「だから、楽しむ為だって!」

「……楽しめる保証なんて、あんのかよ。釣れるかどうか分んないだろ。それこそリスクだ」

「それを、楽しむのさ」

「???」

「とにかくやってみることさ! またツバつけて治しときなよ!」

 新開は慌てて左手にツバをつけた。全身ツバだらけだ。

 シンイチは太公望よろしく、岩の上で堂に入った座りぶりを見せた。

「……どこが釣れるとか、ポイントみたいなのあるんだろ?」

「うーん、そうだね。魚の気持ちになるといいよ!」

「?」

「自分が魚なら、どこに行きたがるかを考えるといい。そこに餌を垂らす」

「……原理は分るけど」

 新開は沼の周りを眺めた。大きな木が枝を水面に垂らしていた。

「俺が魚なら、あそこに行く。見つかるリスクが少なそうだ」

「いいね。なかなかやるじゃん!」

 こうして二人の釣りがはじまった。うるさかった新開は、このテンポに慣れてきたのか段々静かになってきた。

「……でも全然、釣れねえじゃねえか」

「今日はアタリが全然ないねえ。どうする? 場所変えてみる?」

「いや。俺が魚なら絶対ここへ来る」

「そう思うなら、しばらく待とう」

 しかし何も起こらなかった。新開はどうしていいか分らなかった。

「……なあ。これ、楽しいのか?」

「釣れない時間は、釣れる時間の為にあるんだよ」

「……えらく哲学的なことを言うな」

「先生がサッカー教えてくれる時にも同じことを言うんだ。サッカーってさ、パスが来ない時も、いざ来た時の為に走っとく必要があるだろ? ボールを持ってる時間なんて、サッカーの時間の中ではちょっとだよ。殆どのサッカーの時間はさ、ボールがない状態で走り続けることなのさ」

「……えらく哲学的だな、お前」

「そうかな?」

「……釣りとか、好きなのか?」

「時々、ススムって友達と来たりするよ。今日は天狗の力使ったけど、いつもは電車で来る」

「釣れるのか?」

「うーん、ぼちぼち!」

 シンイチは笑った。

 どうしてだろう。この子と話していると、新開の心のざわざわが静まっていくようだ。


 しばらく沼は動かなかった。

 またしばらく沼は動かなかった。ネムカケはすっかり昼寝を楽しんでいた。

 動かない沼を見ていると、何故だか久留美の事が思い出されてきた。

「彼女の好きなバンドがあってさ」と、何の気なしに新開は話しはじめた。

「あ、子供に恋愛相談してどうすんだって話もあるけど」

「いいよ。聞くよ?」

 新開はシンイチに、彼がどれだけ彼女が好きかを日暮れまで延々と話した。はげしいギターだけどどこか優しい魅力的なバンドのこと。そんなパンクバンドが好きだなんて、普段の彼女からはちっとも想像できなくて、そのギャップで好きになったこと。はじめて見た彼女の横顔の美しさ。それからずっと好きだったこと。彼女の好きなバンドを特定するまでの苦労。結局、ネットで八倍の額でチケットを譲ってもらったこと。何度も聞いたバンドの、ギターとドラムが特に上手いと思ったこと。むしろ二人だけの曲が聞いてみたいと思ったこと。彼女とその話をしてみたいこと。


 ちっとも沼は動かなかった。

 こうして、何も起こらないまま日が沈んできた。


「全然釣れなかったね。帰るとしようか!」とシンイチは立ち上がった。

「で、何しに来たんだよ。結局一匹も釣れなかったし。それがこの妖怪の何になったって言うんだよ」

「でもさ、天は落ちてこなかったでしょ!」とシンイチは竿を仕舞いながら言った。

「そりゃそうだろ。天が落ちてくる訳……」

 そう言いかけた新開は気づいた。

「どうしたの?」

「そうだ。天は落ちて来ない。振られたら、振られただけだ。魚釣りのリスクだって大体分った」

「でも鉄砲水と大物に沼に引き込まれるリスクは、まだ経験してないね!」

「ははは。多分なんとかなる」

「?」

「ていうか、自分でなんとかする」

 新開の肩から、妖怪「リスク」が脱皮するようにするりと外れた。

「火の剣、小鴉!」

 シンイチは天狗の面を被ると天狗の力が増幅する、てんぐ探偵である。

「一刀両断! ドントハレ!」

 固く見えたトゲトゲは、触ってみるとぐにょんと曲がって、案外やわらかかった。リスクを遠巻きに見ているより、実際に触ってみることは、案外大事だ。

 こうして妖怪「リスク」は真っ二つに斬られ、炎に包まれて清めの塩になった。



「FKJのライブ終わっちゃったんで、次の休み、釣りにでも行きませんか」

 と、新開は久留美を誘った。

「は? なんで私があなたと釣りに行かなきゃいけないの?」

「釣れたら、面白いと思うんだよ」

「釣れなかったらどうするのよ。無駄な一日を過ごすの?」

「うーん」

「考えてないの?」

 新開は笑った。

「まあそれはそれで、何とかなる」

「?」

「動かない沼を見ながら、ぼちぼち話をしてればいいと思う」

「…………」

「釣りじゃなくてもいいよ。正直なことを言うと、ぼくは君と、話をしたいんだ」

 何か吹っ切れたような新開のシンプルさに、久留美は思わずシンプルに「はい」と返事した。



     てんぐ探偵只今参上

     次は何処の暗闇か






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