第39話 「見える友達」 妖怪「認めて」登場
1
心の闇にとらわれて 出口の見えない人がいる
天狗の力の少年が 来たりてこれを焼き払う
てんぐ探偵只今参上 お前の心の悪を斬る
「またまたまた転校生だ!」
情報の早い公次が走ってきて、五年二組はざわついた。ここの所シンイチのクラスは転校生ラッシュで、その度に「心の闇」騒ぎがあった。今度もそうならなきゃいいけど、とシンイチは少し緊張した。
「今日は新しい仲間を紹介しよう。転校生の
内村先生が、転校生を教壇で紹介した。
その結城くんがクラスに入ってきたとき、教室の空気が少し変わった。寒くなったというか、湿度があがったというか、なんだか陰鬱な空気になった。結城くんは陰気で、前髪が長くて表情も良く見えない、自分を出すのが苦手な、不気味な子だった。
「結城……礼一です……」
「結城くんは、お父さんの仕事の都合で色々な所を転々としていて、転校ばかりなんだ。みんな、仲良くしてやってくれ」
内村先生はそう紹介し、クラスに増設された席に座らせた。結城くんの周りだけ、どんよりと暗い空気が覆っているような気がして、みんな緊張したのが第一印象だ。
休み時間、みんなが興味津々で、結城くんの周りに遠巻きに集まっていた。突然、結城くんは言った。
「俺……『見える人』なんだ」
「何が?」
「幽霊が」
「マジで!」
女子たちは気味悪がり、男子たちは一線を越えて猛烈に食いついた。
「地縛霊とか浮遊霊とかか!」
「……うん」
「マジで!」
結城くんは、ポケットから何枚かの写真を出した。
「時々、こういう奴の御祓いをしてる」
「し、心霊写真だ!」
数々の薄暗い恐ろしげな写真を、結城は皆に見せた。小学校の運動会で、何故か手が一本多く写っている写真。滝の前で、苦しんでいるような変な顔が背後に写っている写真。夜の神社に、半透明の
「こんなの、見ただけで祟られるぜ!」
と男子たちは大はしゃぎ。結城は言った。
「大丈夫だ。俺が御祓いしたからもう害はないよ。あとで、神社に燃やしに行くんだ」
「へえええ! 霊能力者だ!」
結城は辺りをゆっくりと見渡した。体の一番大きな大吉を見た。
「……」
「な、なんだよ」と大吉はうろたえる。
「い、いるのか?」
「……」
「ちょっと待てよ! いるのか!」
「……この塩を持って」
結城はポケットから紙に包まれた塩を出し、大吉に握らせた。
「南無観世音大菩薩……急急如律令……」
結城は不思議な呪文を唱え、その後大吉の手を開かせた。握り締めた塩が、茶色く変色している。
「やべえ!」
「……安心して。塩の力で祓ったんだ」
結城は大吉の肩をポンポンと払った。
「……肩に地縛霊みたいなのが取り憑いてた。低級霊だったから何とかなったよ」
「結城くん、幽霊退治が出来るの?」
「……少しだけ」
「やべえええええええ!」
「少し、教室が寒くなくなったでしょ」
「そうかも!」
みんな驚きまくった。誰にもその幽霊は見えなかったが、塩が見る見る茶色くなっていくのは見たからだ。
シンイチは妖怪は見えるが、幽霊はまったく見えないし、今まで見たこともない。が、小学生なりに情報は聞くし、信じてはいる。
心の闇「弱気」に取り憑かれてからこのかた、天狗たち、遠野の妖怪たち、跳梁跋扈する新型妖怪「心の闇」たちは、他の人には見えないが、シンイチには常に見えている。妖怪と幽霊は似てるが違うジャンルなのだろうか。死者が魂になったとき天国へ行くか地獄へ行くか判定する、
幽霊や神様は見えないが、この世に存在する「目に見えない世界」が、色々と重なり合っていても不思議ではない。なんといっても電波は目には見えないけど存在するし、最新の物理学は宇宙は十一次元だと言ってるぐらいだし。
結城礼一は、たちまちクラスの人気者になり、姓と名から「ユーレイ」と仇名をつけられることになった。「幽霊退治のユーレイ君」と皆から呼ばれることになる。
シンイチが妖怪が見えることを知っているのは、クラスではススムとミヨちゃんだけである。ススムはこっそりシンイチに聞いてきた。
「大吉に取り憑いてた幽霊、見えた?」
「いいや。オレ、妖怪専門だし」
「じゃ、シンイチとは別ジャンルってこと?」
「うん。みたいだ」
妖怪と幽霊について話がしたい。シンイチはそう思ったが、大人気のユーレイの周りには常に人がいて、二人で話すチャンスはなかった。
放課後、ユーレイはクラスの皆を集めて、「こっくりさん」をやることにした。これは一種の降霊術であるとユーレイは言った。女の子を四人集め、机の上に一枚の紙を置く。ひらがな五十音と変な紋、中央には鳥居、「はい」「いいえ」の選択肢が書いてある。その上に十円玉を置き、ユーレイは変な呪文を唱える。
シンイチの知らない呪文ばかりだ。もっとも、天狗の術の呪文は、修験道や密教系だから、たとえば陰陽道や鬼道、神道系、道教、もちろん西洋魔術やブゥードゥー魔術などの、様々な系統の呪文は専門外である。世の中には様々な呪文がある。特に動物霊を扱う系統は日本には古来から沢山ある。四国の方では「犬神」を駆使したり、東日本全般には狐を使う術が広く流布している。その一部が修験道の傍流、
一枚の十円玉に、ユーレイ、女子四人の右手の人差し指が乗せられた。
「こっくりさんこっくりさんおいで下さい。おいでくださいましたら、お返事をください……」
ユーレイが何度か唱えると、突然十円玉が勝手に動き出し、鳥居の上で止まった。女子は悲鳴を上げた。見えないものが、「来た」。
「こっくりさんようこそおいで下さいました。お聞きしたいことがあります」
ユーレイの声が、しんと静まった空間に響き渡った。最初のぼそぼそした暗い声に比べて、次第にユーレイの声が明るく澄み渡ったような声になってきた。
「この中に、片思いをしている人はいますか」
またまた十円玉が勝手に動いた。人差し指を乗せているだけなのに!
十円玉は「はい」の所で止まった。
「その男の子の名前は?」
十円玉はまた勝手に動き、「あ」「い」「さ」「わ」と動いた。
「相沢くんって子を好きなのが、この四人の中にいるんですね?」
ユーレイの質問に、また十円玉が動き「はい」のところで止まった。
「こっくりさんこっくりさん、有難うございました。お帰り下さい。最寄の稲荷神社に、油揚げを捧げに参ります」
ユーレイが唱えると、十円玉は鳥居のマークへ帰っていった。
四人の女子も、周りの皆も、声が出なかった。
「転校してきたばっかで全員の名前をまだ覚えてないけど、相沢くんって子がいるんだね?」
四人の女子はうなづいた。相沢くんは塾に行くために既に帰っていた。
「好きなのは、男子には秘密の話だったのに」
「……すげえええ!」
ギャラリーは大騒ぎだ。ユーレイの人気は初日から大沸騰し、その後様々な幽霊談義に花が咲き、みんな帰りが遅くなった。
2
夕暮れの時刻は、
薄暗い街灯が点滅しながら点灯した。皆は怖がりながら家路を急ぐ。今日の恐怖体験から、走り出す子もいた。
「また明日なユーレイ!」
皆次々に言って、ユーレイを中心としたクラスの子は、次々に集団から離れ、最後はシンイチとユーレイの二人になった。
「家、こっち?」とユーレイは聞いた。
「うん。偶然だね!」とシンイチは答えた。
これはシンイチの嘘だった。二人で話すチャンスを、シンイチはずっと待っていたのだ。
坂を下りた先は、電車の踏切だった。建物の陰に入り、そこは真っ暗な空間にも見えた。カンカンカン。遮断機が降り、二人は立ち止まる。エアポケットのように生まれた時間に、シンイチは話を切り出した。
「笑わないで聞いてくれユーレイ。……オレは高畑シンイチ。妖怪が見えるんだ」
「……そう」
ユーレイはあくまで冷静だった。
「驚かないの?」
「幽霊が見える奴がここにいるんだぜ。妖怪が見える奴がいてもおかしくないだろ」
「幽霊と妖怪って、違うジャンルかな? 同じジャンルかな?」
「……わかんない。俺が見えるのは、今まで幽霊ばっかだったからな」
「逆にオレは幽霊は全然見えないや。ちなみにさ」
シンイチは踏切の向こうを見て指差した。
「あの反対側にいる妖怪、見えてる?」
人に取り憑いていない、浮遊状態の「心の闇」を、俗に野良という。その野良が、律儀に踏切待ちをしていた。シンイチに気づき、ニタリと表情を変える。逢魔が刻は、本当に魔に逢える時間帯のことである。
「あの……青い奴のことか?」と、ユーレイは答えた。
シンイチは突然表情が変わった。
「お前にも、見えるのか!」
その「心の闇」は鮮やかなブルーだった。
シンイチは時折、妖怪が見えているのは実は幻覚で、本当は自分一人がは狂っているのではないかと疑うことがある。天狗も、小鴉の炎も、ネムカケも全部幻覚。遠野の妖怪も、河童のキュウも寒戸のババも本当はいなくて、気が狂った自分だけが空間に向かってしゃべったり、天狗の面を被って剣で斬った振りをしてるだけではないのかと。
心の闇は、取り憑いた本人には鏡に写って見えるから、確かにあったことだと言える。しかし「その人との会話」すら全部幻覚だったとしたら? つまり、妖怪たち、妖怪「心の闇」、てんぐ探偵の実在すらも、シンイチは、密かに「すべて疑い得る」という可能性を考えていたのである。
「良かったあああああ!」
シンイチは涙を流して喜んだ。
「オレは、狂ってなかった! オレのやってることは、意味があったんだ!」
この悩みは、ネムカケにも大天狗にも言ったことはない。仮に自分が狂っているとしても、この世界は一応進んでいるように見えていたからだ。それほどシンイチは、「自分だけが妖怪が見えている人間である」ことに、深く悩んでいたのである。
「臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 烈! 在! 前! 不動金縛り!」
シンイチは踏切に不動金縛りをかけた。やって来た急行電車はぴたりと止まり、車両の中の蛍光灯に照らされた人々もぴたりと止まった。この空間の中で、シンイチとユーレイだけが動けた。ユーレイはびっくりしきょろきょろと周囲を見た。シンイチは天狗の面を被り、火の剣を抜いてユーレイに言った。
「オレ、妖怪退治をやってる『てんぐ探偵』なんだ」
シンイチは天狗の面を被ると天狗の力が増幅する、てんぐ探偵である。
踏切の向こう側に一本高下駄で一瞬で跳び、火の剣で青い「心の闇」を斬り、清めの塩と化してから、八艘跳びのように元に戻ってきた。
「じゃ不動金縛りを解くよ! エイ!」
電車が踏切を勢い良く通過した。ぎぎぎ、と、踏切が上がった。
「……妖怪退治」
「ユーレイは幽霊退治をしてるんだろ! 聞かせてくれ、幽霊の話! 妖怪の話なら、オレはめちゃくちゃ出来るぜ!」
ススムやミヨちゃんは、人間の友達。ネムカケや大天狗やキュウは妖怪の友達。妖怪たちは人間が見えるが、人間は妖怪は見えない。その間に挟まれて、シンイチはずっと孤独だった。その気持ちを共有できる友達が出来た、とシンイチは思ったのだ。
「はじめて本当の友達が出来た!」
堰を切ったようにシンイチは話し始めた。誰にも言ったことのない悩み。これまで秘めて来た冒険。よかったこと、つらかったこと。何もかもシンイチは話した。自分を理解できる人がいることが、これほど嬉しいとは思わなかった。
3
次の日も次の日も、ユーレイをシンイチは独占した。ススムたちとのサッカーもせず、雨が降ったにも関わらず三組のタケシの所へ将棋をしに行かなかった。クラスの皆はユーレイと話したがったが、シンイチが離さない。「またこっくりさんで恋の相談をしたい」という女子たちがぶーぶー言っても、シンイチは譲らなかった。
色々な話をした。幽霊や妖怪はいつからいるのか。彼らは十一次元世界のように、この世と重なり合っているのではないか。人は死んだらどうなるのか。天狗の不老不死。人は修行したら不老不死になれるかも知れないこと。妖怪退治と幽霊退治の違うところと同じところ。遠野に連れてって、河童のキュウや大天狗に会わせたいこと。
どれだけ話してもシンイチには話し足りなかった。そうしてユーレイが転校してきて一週間も過ぎたころ、事件が起こった。
朝一番に来た先生が、「それ」を見つけた。三階建て校舎の、グラウンドに面したすべてを使って、「それ」は作られていた。
屋上から、何十本ものトイレットペーパーを垂れ幕のように垂らす。端から端までナイアガラの滝のように。屋上側の端を一点にまとめ、屋上の真ん中の一点から地面に広がるように、それは仕上げられていた。
「誰だこんなクリスマスツリー作ったのは!」
校舎の壁面全部を使った、巨大なもみの木のオブジェのように見える。「トイレットペーパークリスマスツリー事件」の開幕である。
先生たちは大激怒し、犯人を捜そうとした。学校中のトイレットペーパーが盗まれていた。女子トイレには手をつけず、男子トイレからすべて盗まれている形跡から、犯人は男であることが推測された。朝早く登校した児童たちは騒ぎ立て、先生たちが必死で撤去し終わる前に、学校中の噂となって広まった。うんこをしたい男児たちがトイレットペーパーがない為我慢し続け、十二名がうんこを漏らす悲劇もその後起こった。
シンイチはいつものように時間ぎりぎりに登校し、ようやく皆からトイレットペーパークリスマスツリー事件について知った頃、隣の席のススムが話しかけてきた。突然、シンイチの表情が険しくなった。
「ススム」
「何?」
「犯人はお前か」
「……なんの?」
「不動金縛りの術! エイ!」
シンイチはクラスの時を止め、ススムとユーレイだけはその中で動けるようにした。
「ユーレイ! 何で言わないんだよ!」
とシンイチはユーレイに言った。ユーレイはぽかんと口をあけている。
「ススムに、妖怪『認めて』が取り憑いてんじゃん!」
ススムはびっくりした。
「お……俺に心の闇が?」
「そうだよ! お前は誰かに認めてほしくてたまらないんだな! だからトイレットペーパークリスマスツリーをつくったんだろ!」
妖怪「認めて」はススムの肩の上で歪んだ顔をシンイチに向けて見せた。
ススムは観念して白状した。
「……お前に、認めてほしかったからだよ!」
「ハア?」
「……だって最近シンイチは、ずっとユーレイとつるんでんじゃん!」
「な……なんだよ! そのせいだってのか!」
「そうだよ! 俺の方が古い友達だろ? 親友じゃなかったのかよ!」
「親友だよ! そんなことで、お前、妖怪に取り憑かれたのかよ!」
「悪ィかよ!」
「オレはただユーレイと話したかっただけだよ! ススムと話した分ぐらいユーレイと話したかっただけだろ!」
「……ユーレイを認めて、俺を認めてないんだろ!」
「認めてるよ! 青いメガネ買いに行ったとき、屋上でソフトクリーム食ったろ!」
「……なんだ、覚えてんじゃん」
「だから、ススムを認めてるって言ってんだろ! ダブルフェイントはオレより上手いだろ!」
「……先にそれを言えよ」
ススムの肩の妖怪「認めて」は、この言葉であっさりと外れた。シンイチは腰のひょうたんから天狗の面と火の剣、小鴉を出した。シンイチは天狗の面を被ると天狗の力が増幅する、てんぐ探偵である。
「一刀両断! ドントハレ!」
妖怪「認めて」は真っ二つにされ、清めの塩と化した。
シンイチはユーレイに同意を求めた。
「どうだユーレイ! 見たかオレの妖怪退治!」
一部始終を見てほしくて、不動金縛りの空間の中で、ユーレイを動けるようにしておいたのだ。ユーレイは答えた。
「あ、……ああ。やったな、青い奴」
「青い奴? 『認めて』は、緑だったろ」
「あ、……ああ、そうだな! 青緑っぽかったからさ、青って言ってもいいかなって思ってさ」
「……」
違和感を感じたシンイチは周囲を見渡し、時を止めた大吉を指さして尋ねた。
「今大吉の肩に取り憑いてる『心の闇』は、何色?」
「そ、……そうだな、赤、……っぽくもあるし、黒、……っぽくもある」
シンイチは悲しい顔になった。泣きそうになった。必死で我慢して、しっかりと九字を切った。
「臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 烈! 在! 前! 不動金縛り!」
不動金縛りの中に、さらに不動金縛りの空間を作ったのである。ススムは時を止め、シンイチとユーレイの二人の空間になった。
「あれ? なんだよ、俺ら二人だけ? なんでそんなことするんだ」
シンイチは悲しい顔でユーレイを見た。
「ユーレイ」
「な……なんだよ」
「大吉に、妖怪は取り憑いていない」
「……えっ」
「なあ。何で赤とか黒とか適当な嘘つくんだよ。妖怪が見えるってのは、嘘だったのかよ?」
「……」
「ちょっと変だと思ったんだ。ススムに妖怪が取り憑いてたのに、お前ノーリアクションだったもんな。色だって青とか言うし」
「……」
「……まさか、幽霊も嘘か? 幽霊退治ってのも嘘か?」
「……」
「ユーレイは、『見える人』でも何でもないのか?」
ユーレイはぽろぽろと泣き出して、意を決して白状した。
「ああそうさ! 全部嘘さ!」
「そんな!」
「よく見破ったなお前!」
「じゃあの踏切の青い奴は? なんで青だって分かった?」
「適当に決まってんだろ! 当てずっぽうが当たっただけだよ! もし違ったら、『青い幽霊だ』って言おうと思ってたのさ! シンイチは幽霊は見えてないって言ってたからな!」
「え……じゃ、……じゃあ、何のためにそんなこと言うんだよ」
「俺転校ばっかで、友達作る方法が分かんねえんだよ! 訛りも違うし、教科書も上履きの色も違うし、持ってる文房具も違うしさ! 毎回毎回それでいじめられるの避けるには、手っ取り早く人気者になるしかねえだろ!」
「心霊写真は?」
「ネットで拾った合成写真だよ!」
「塩が変色したのは?」
「手で握りこむときに、弁当についてくるちっちゃな醤油さしをきゅっとやるのさ!」
「こっくりさんは?」
「最初俺が強引に動かして、暗示をかけるのさ! 女子の方が暗示にかかりやすいんだ!」
「好きな人が分かったのは?」
「俺じゃなくて、もう暗示にかかった誰かだ! 四人もいれば、なんとなくその場の空気で動いちゃうもんさ!」
「……」
「ああ! 何もかも嘘っぱちだよ! 幽霊なんていねえよ! 幽霊ハンターもいねえよ! 何でお前がいるんだよ! いなきゃ、今までのようにユーレイでいられたのに!」
全てを告白したユーレイは号泣した。そしてこの場にいることに耐えられず走り去った。ショックを受けたシンイチの結界の力は弱く、ユーレイは簡単にその外へ出てしまい、クラスの皆は時を刻み始めた。
自分のやっていること全てを否定されたような衝撃を、シンイチは受けていた。窓の外に、泣きながら走っていくユーレイが見えた。シンイチは窓際まで走って行って、叫んだ。
「ユーレイ! そんなことしなくたって、オレたちはお前と友達になったよ!」
それは彼の耳に届いたのだろうか。今となっては分からない。
4
ユーレイは一週間休んだ。次の日、内村先生が発表した。
「せっかく我々の仲間になってくれた結城くんだけど、お父さんの仕事の都合で、また別の学校に転校することになってしまったそうです」
ええええ、とクラス中の皆が落胆した。
「結城くんから手紙を預かってる。『短い間だったけど、ありがとう、楽しかった』って。なんでキツネの絵が描いてあるんだ?」
女子たちがその手紙を貰いたい、と申し出るのを、シンイチは複雑な目で見ていた。
放課後サッカーで、ススムが突然シンイチに聞いてきた。
「なんであの時、俺に金縛りかけたんだよ? 大吉にも取り憑いてたんだろ?」
「……ああ。大吉のは『心の闇』じゃなくて、実は幽霊だったんだよ。危険だったのさ」
「マジで! ユーレイの幽霊退治がまたあったんだ! てんぐ探偵アンド幽霊ハンター二大共演だったんじゃん! 見たかったよ!」
「うん。そうだな。……あいつが走ってったのは、幽霊を成仏させきれなくて、神社に連れてって封印するためだ」
「そうだったのかあ!」
「……うん」
俺は狂っていない。だってそうじゃなきゃ、こんな悲劇起こる訳がない。シンイチはそう思って泣きそうになった。
ススムは目を輝かせてまた聞いた。
「あいつさ、転校した先でもまた幽霊退治やってるかな!」
そのきらきらした目に、シンイチは応えるしかなかった。
「……うん」
「アハハハ! そうだよな!」
ススムは、そう信じたがった。
シンイチは、その逆を願った。
てんぐ探偵只今参上
次は何処の暗闇か
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