【2話】 カーナビ起動! 俺はガソリンではなく、幼女エルフの尿(涙)で動く

 

 俺は、失禁して気を失ったエルフ幼女を、

 綺麗に池の水で洗って拭いてやった。


 うんうん、綺麗になったぞ……


 それから、

 座席の裏にある仮眠スペースに、そうっと寝かせてやる。


 

 トラックには、長距離輸送を快適に過ごせるように、

 このような仮眠スペースがついているのです。


 

 それに、

 失禁したままの幼女エルフを放置しておくのは、人道にもとるからね!


 


「ん……ぁ、」


「よかった。目が覚めたか?」


 

 しばらくして、

 薄い毛布にくるまった、裸のエルフ幼女が目を覚ました。


 

「ここは……?」


「安心していい。ここは安全だ」


 

 大型トラック特有。

 遮光カーテンを引いた仮眠室は、ちびっこエルフにとって充分なスペースだ。


 

「あなたは、だれ?」


「俺は……、通りがかりのトラックだ」


 

 エルフ幼女は、どこからか聞こえて来る声にキョロキョロしている。

 そりゃ、おびえるよね。


 

「とらっく? それがおなまえ?」


「名前ってわけじゃ……」


 

 なんと答えればいいだろう。


 んー。種族名というわけでもなし。


 俺は自分の巨大な身体全体を見回す。


 

「羅生門……?」


「らしょう……もん?」


「あ、いや、ちがくて」


 

 俺は、自分のおでこ付近に書いてある、ネオンサイン? 的な文字列を

 思わず口にしていた。

 なんか、お相撲書体で、羅生門って書いてあったのだ。


 

「らしょうもん! らしょうもん!」


「まあ、いいやそれで。俺は羅生門だ。エルフの幼女よ、おまえの名は?」


「ルーリィ」


「よろしく、ルーリィ。かわいい名前だな」


「えへへ……っ」


 

 笑顔、めっちゃかわいいですやん!

 よかった、よかった。


 

「そっちに行っていい?」


「そっち?」


 

 エルフ幼女のルーリィが遮光カーテンを揺らす。


 

「ああ、運転席にな? 来ていいぞ。でもその前に服を着ろ?」


 

 はだかんぼのままだと、いくらここが森の中だといっても、

 ガラスの向こうから変態に見られちゃうかもしれないからな。


 ルーリィよ、……おまえは、美しい。


 エルフ幼女は仮眠用のマットレスの上をコロコロ転がりながら、

 粗末な服を着た。


 

「わーっ」


 

 カーテンを開けたルーリィは、さっそく座席にはい出してくる。


 トラック運転席の内装が珍しいのか、

 視界が高くて広いのが嬉しいのか、はしゃいでいる。


 

「らしょうもん、すごいね! ここはおくちのなかなの?」


「おくちのなか? 運転席のことか? まあ、そんなものかな」


 

 すると、急にルーリィは身体を縮みこませ、


 

「あなた、やっぱりどらごん? ルーリィ、たべられるの?」


 その発想は無かった。

 子供の発想は柔らかいなぁ。


「食べない食べない。俺は、やさしいドラゴンなんだ」


 

 オークもひき殺すしな!


 

「よかったー」


 

 エルフ幼女かわいい……!


 

 しかしドラゴンか。


 ということは、あれか。


 俺はつまり、ルーリィからすれば、

 ドラゴンにはね飛ばされて異世界転生したってわけか。


 

 実はトラックは、異世界転生用ドラゴン説。


 

 なんか納得した。


 

「らしょうもんは、なんさい?」


「え? ……ええと、22歳」


「ルーリィは、これだけ」


 幼女の小さい片手が、ぴーんと開かれている。

 指ピンだ。


 5歳か?

 50歳ではあるまい。


 エルフは成人するまでは、人と成長速度、変わらないっていうもんな。

 そうだよな!


 


「だから、泣かないよ?」


 


 もう泣いていた。


 

「おかあさぁぁん……」


 

 やばい、俺、こういうの弱いんだが!


 

「おうちに、かえりたいよぅぅ」


 

「ルーリィ、お家までの道は、わかるか?」


 

 ふるふると首をふる。


 

 どうしようなー……。

 この道を辿って行けば、街とかあると思うんだが。


 

「とりあえず、近くの街にいくか?」


「いやっ、まちはいやっ」


 

「どうして?」


 

「ルーリィ、どれいだから、怖くされる」


 


「エルフ奴隷幼女……!!」


 


 まじでか!

 許せん……!


 ほんと、マジで許せんッ!


 俺はドルドルとエンジンを鳴らした。


 

「ルーリィ、だったら俺が家まで送ってやる。

 なぁに、すぐに着く。俺はトラックだからな!」


 

「ほんとうに!?」


「約束する、羅生門、うそつかない!」


「らしょうもん、だいすき!」


 

 ルーリィはフロントガラスの内側にべったりと抱きつく。


 はっはっは、まかせたまえ。


 

 でも困ったぞ。


 

 ルーリィは帰り道なんてわからないだろうし。


 とにかく、誰かに道を聞いたり、地図を見せてもらわないと。


 

「カーナビとかあれば便利なんだけどなぁ」


 

 まあ、長距離トラックだから、普通にカーナビ、付いてるんだけどね。


 異世界で、使えるわけないし。


 


 ……使えないよな?


 


「……ダメもとで試す!」


 

 うはは、これでうまくいったら、さすがに草はえるんだがなwww


 よし、カーナビ、起動ッ!


 

 『ETCカードを認証しました』


 

 ETCカードwwww

 使えないからwwwww


 さあwwwそれよりwwwwwここはどこかなwwwww?


 

 ぱっと、モニターはマップ画面に切り替わり、


 

 【 キフォンの森 】


 

 マジか!

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