第21話 対G軍戦 第2試合 〜試合終了〜
タイムを取ろうとした初根を、石村は右手のひらで制するとボールを寄越すように要求した。相川の本塁打を気にするそぶりも見せずに、いつものペースで投げ、2番谷池を内野ゴロに切って取ると、ベンチへと駆け足で戻った。
石村は、峰監督の元へ駆け寄り詫びを入れたが、峰はそれには無反応で返した。作戦を破り勝手な行動をとった者に対する、いわゆる当然の対応だったかもしれない。
深々と頭を下げた石村は、それでも反応が無い事を確認すると踵を返して、峰とは離れた位置のベンチに座った。初根は、それを確認して石村の隣に腰を下ろす。
「惜しかったですね。相川も動揺してました」
「いや、俺の球じゃあれがせいぜいだろうな」
石村は肩をアイシングしながら答える。この試合もう自分の出番は無いと勝手に決めつけている。初根はこんな態度も監督の気に障らなければ良いがと心配したが、でも今は石村に確認しておきたい事があった。
「石村さんは相川の秘密何か掴んだんですか?」
石村の偽敬遠策は初根には思いもつかなかった。石村なりに何か仮説を立てていたと踏んだのだ。
「いや、アイツの事はお前の方が分かってるだろ」
「俺がですか?確かに俺にも考えはありますけど」
それは、コースや球種が常人とは別次元で読まれてしまうという事。しかし、そうじゃなかった。今の相川は現に石村の4球目を読んでいなかったではないように思えたのだ。
「お前が言うような、投げる前にコースや球種が分かるって感覚?俺には良く分からない。けれど、もしそれが出来るんだとしたら、もっと俺には分からない事があるんだよ」
「もっと分からないこと?」
「ああ、俺みたいな凡人はこう考えるんだ“球種が分かってるんなら打ちやすい球を待つ”って」
「あっ」
「気づかなかったろ?多分間近で見てるとそんな事も忘れさせてしまうんだろうな。アイツの打撃は」
確かにそうだ、初根は言われて初めて疑問に思った。何故全て初球打ちなのかと。それは圧倒的な自信に裏付けられた為なのだと勝手に思っていたが、確かに自信があるのであれば“より有利な状況”でその球を打てば良いのだ。
「お前も立ってたから気づかなかっただろうけど」
石村は、説明を続けた。
「さっきの4球目。あれも外したんだ」
「何ですって、それじゃあ」
「ああ、打たなきゃ四球だ。けれどアイツは手を出した」
「そんなバカな」
ボール球に手を出して、さっきの表情。全く理屈に合わない。初根は息を呑んだ。
「多分、投げる前に球種が分かるってのも確かにあるんだろうけど、どんな球でも無理に振らなきゃならないってのは腑に落ちねえよな」
「確かに‥」
「ああ、相川は確かに化け物かも知れねえが、同時にとんだペテン師なのかも知れないぜ。参考になったか?」
「ええ、参考になりました」
話し終えると石村はロッカーへ行くためにベンチを離れた。
初根は盗み見るように峰監督を見たがこちらを見向きもせずに、ただ試合の行方を追っている。
9回裏G軍の攻撃はランナーを出せぬままツーアウトを奪われていた。このまま今日は終わってしまうだろう。
初根は早く対策を練りたい。明日の開幕3連戦の最終戦。何とかして相川の暴走を止めなければならないのだ。その為には相川が何故初球打ちをしなければならないのかを今ある材料の中から見つけ出さなければならない。更に言えば水上のスライダーやカーブに匹敵するようなウイニングショットの検討。石村のあと一歩届かなかった偽敬遠のような奇策。それらを駆使すれば必ず相川を崩す事が出来る。場合によっては水上や山川のワンポイント起用まで検討してもらわなけらばならない。それらは初根一人で決められる内容ではない。その為にも試合が終わり次第に明日のミーティングをしなければならないのだ。
気が焦る初根の思いを汲む用にして、G軍は追いつく事が出来ないまま試合は8対6で終了した。終了とともにマスコミが相川を追いかける。この前人未到の大偉業の達成に何とかしてコメントをとらなければならないのだ。S軍ベンチは騒然となった。
試合終了後、初根は直ぐに峰監督の元へと駆け寄った。そしてミーティング開催を直訴したのだ。
「ミーティングか。そうだな短くやっておこう」
そう答えると峰は試合後のインタビューのためマスコミのブースへと向かった。
初根も急いでロッカーに向かいユニフォームを着替える。そこへマネージャーが現れ監督の会見後にミーティングがある旨を選手達に伝えた。
ちょうどロッカー室に設置されたテレビに監督の会見模様が映し出されている。
「ちょっと、これ見てくれ!」
テレビの近くでインタビューを聞いていた誰かが声を上げた
。選手達はテレビの近くに集まり監督のインタビューを聞き、そして耳を疑った。
テレビでは峰監督が明日の試合、相川を全打席で敬遠すると宣言していた。
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