第12話 転生、新たな身体
ラジーナの言葉は衝撃的であった。もしかしたらそれって、地球上でも似たようなことがあったんじゃないか?
なぜ、地球には竜や妖精、妖怪や神話、古代文明など、不思議なおとぎ話や伝説等があるのに今ではその存在が確認出来ないのか?
進化論とはかけ離れた存在の生物はいつ地球上に現れたのか?
次元震がその鍵を握っている可能性は大いにありそうだ。
魔素溜まりが悪さをする事はほぼ確定で、それが、二つの世界の一方だけなのか、両方にあるのか、それによって発現する事象が違うのであろう、と。
俺とラジーナはその推論にかなり確信を持って同意できた。そして今後の次元震対策としてどうすればいいのか。
『各地の魔素溜まりを、迷宮塔に吸収していくんだよ。地中型迷宮には出来ないが、塔型迷宮ならば持ち運び、移動が出来る。そうしてあちこちの魔素溜まりを一端、迷宮塔に吸収させて地脈以外の魔素溜まりが地上に出ないようにするのさ。後は次元震が過ぎてから塔を出現させれば、一般への被害は極力少なく出来るだろう』
『塔って移動できるんです!?』
『その辺は家妖精に聞けば良い。私は、この方法を知り合いの魔法使い達に連絡して、各地で同じ活動をするように伝えよう。地中型迷宮の方は移動出来ない分、近場の魔素溜まりにしか手を出せないだろうが、ま、ないよりはマシだな。後は、王宮や城付きの魔法使い達にも一応連絡する。国単位で魔素溜まりの封印作業に動いてくれればなお良いが』
『国単位で動いてくれますかね?』
『人によるからそっちはダメ元だな。信仰の強い地域は相変わらず邪魔してくる可能性もあるが、それにしても神々め、ダンジョンコアなんぞ破壊したら、むしろ魔素が溢れまくってもっと酷くなるっていうのに・・・・・・奴らはもしかしたら次元震とその影響を待ち望んでいるのかもしれん』
『だとしたら何ででしょうね?』
『流石にそこまでは判らん。シン、お前もしっかりと力を付けるんだぞ。これから何が起こるか判らんからな。それでは機会があればまた会おう』
こうして、俺とラジーナの会談は終わり、次元震に対する今後の方針が見えてきたのである。
これらの事情を勇者達に説明した結果、彼女達が俺の言葉を信じるかどうかについては半分半分であった。何しろ、神々を疑えと言っているようなものだ。
しかし、戦いで俺に負けた彼女らは、俺の言うことに従うと言う。間違いなく俺の立場が敵と判明した時はその限りではないが、それまでは俺と一緒に各地の魔素溜まりを消していく作業をすると言うことで、俺達は合意に到ったのであった。
さて、俺は今、49階の一室、培養槽の前に居た。培養槽の中には17歳にまで成長した俺の新しい身体が浮いている。身長は175cmくらい、肩幅はがっしりとしていて細く締まった肉付きながらも体格が良く見える。肌の色は小麦色。ここまでは恐らくラウィーネルスタンの遺伝だな。そして髪の色は赤・・・・・・間違いなく勇者クリスからの遺伝だ。
17歳に設定したのは、実戦に耐えうるだけ身体が成長し、なおかつ成長度合いも残した年齢だろうと当たりをつけたからだ。
全裸で培養槽の浮かんでいるため、当然股間も全開な訳だが・・・・・・なるほど、そこも赤毛なのね。サイズは・・・・・・標準以上だといいなぁ。こればかりは身体に入ってその状況にならないと判らない。
身体には生まれつき炎神アーグィヌと火精ファラガ、影精ヤンディ、生命神ナシュロンの印が刻まれている。これは、クリスとラウィーネルスタンの遺伝子を引き継いだ事や、クローン・ホムンクルスの秘技を成功させた事から与えられた加護のようだ。
一方、俺は転生する前に、狩人神エシュケルと雷精ゼオス、戦神ファルカスとは魂契約をしておいた。これらの高位霊命体達は俺の魂と契約しても特に悪さはしてこなさそうであったし、これらの存在は今後の活動を考慮すると契約印が是非とも必要だったからだ。
さらに、ラウィーネルスタンの身体は時間凍結によるアンデッド化を再度行い、エナジードレインと物理無効を復活させている。
顔にライダーヘルメットを顎のラインで鋭利にしたようなフルフェイスカバーを被り、ジャージのような上下を着用し、腕だけはノースリーブで剥き出しの格好だ。背中に二本の魔剣を交差するように背負う姿は軽装の剣士の装いである。
「ナっちゃん、それじゃあ、これから転生術を行うけど、手順は大丈夫かな?」
「大丈夫です。新しいシンの目が開いたら、すぐ培養槽の水を抜くです」
俺の魂が入る前に培養槽の水を抜くと、重力を感じる身体と魂の感覚にズレが生じるのだ。その為、俺の魂がちゃんと入ってから、水を抜かないとならない。その際、口を開けて最初の空気を吸い込むまでは水中で呼吸を止めたままという苦行が発生する。胎盤も酸素マスクもない仕様のため、こういう欠点があるとは、この転生の秘技もまだまだ改良の余地はあるようである。もっとも、再び使う事は無いと思うけどね。
俺は傍らに控えていたナっちゃんに確認すると、いよいよ呪文を唱え始めた。
「生命神ナシュロンよ、我が望み叶え給え。我が魂をこの身より取り出し、我が願う
俺が呪文を唱え終わると、身体が光に包まれる。
なんか、暖かい。死霊が昇天する際のターンアンデッドってこんな感覚なんだろうか。俺の意識がふわりと身体から離れ、そして目の前の新しい身体に吸い寄せられるように近づき、そして、意識が途切れる――
深い意識の底から浮上するかのような感覚。次第に手足に冷たい水の感覚が伝わりだし、俺は目を見開いた。
同時に、周囲の水が動く感覚が伝わり、呼吸が出来ない苦しさが始まる。しかしそれも30秒だろうか、1分だろうか・・・・・・やがて、水面から顔が出ると、俺は口を開き大きく息を吸った。途端に咽せて、息を吸いたいのに咳が出る。過呼吸気味に苦しくなりしばらく咳き込んだが、これは身体の内部が初めて急に外気に触れたせいであろう。ようやく落ち着くと、俺は培養槽からのそりと身体を起こし、ぺたりと這い出た。手足を動かし立ってみる。ナっちゃんがタオルを持ってそばに来てくれた。
「おはようです、シン。無事に転生できたのですね」
「ああ、ようやく、自分の身体が手に入ったよ」
「とりあえず、身体を拭いて粗末なモノを隠してください」
言いながらタオルを渡してくるナっちゃんだが、相変わらずキッツイな。しかも粗末とは失礼な。
俺が腰にタオルを巻くと、ナっちゃんが近づいて来て予想外な行動に出た。
ウエストに手を回し抱きついて、おでこをコツンとへその辺りにぶつけてきたのだ!
「ようやく、クサい匂いが消えてくれたです」
「そんなにクサかった?」
「家妖精というモノは家を維持し守るモノ。死者や死に近づくモノは悲しくて苦しいのです。生きながらも死臭を放つ不死者、さらにそれに加齢臭まで加わると家妖精にはキツイ臭いなのです。それが好きな者ならば尚更、悲しくなるのです」
思わぬ告白に、俺はナっちゃんの肩に手を置く。そうか・・・・・・家妖精だからこそ、苦手なモノだったんだな。それに、もしかして・・・・・・
「ラウィーネルスタンの事、好きだったんだね?」
「人として、です。勘違いするなです」
「ちなみに俺のことは?」
軽い気持ちで聞いてみたのだが。ナっちゃんは俺のへその辺りから上目に真っ直ぐ俺を見つめ、ニヘラっと笑った。
「シンからは前向きな生きる力を凄い感じるです。それは、家妖精の好むモノですよ? 死臭も加齢臭も消えて、今はとっても良い香りです」
そのまま抱きつく腕がさらにギュッとする。
よっしゃー! 遂にナっちゃんがデレたーっ!
おっと。
「シン、顎にぶつかったんですけど」
別に俺はロリコンではないが、ナっちゃんがデレた事実と温もりに、思わず下半身が煩悩しちゃったのだ。マ、マズイ、どうしよう、何と言い訳をしたら良いものか。思わず口から出た言葉は。
「あ、あててんのよ」
「家妖精に何という事を・・・・・・ハサミを持ってきます。ちょん切って晩ご飯のウインナーにまとめて調理するです」
「ぎゃー! やめてー!」
こうして、俺の不明だった最大ステータスが判明してしまったのであった。
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