第8話 6ヶ月後
「ナっちゃん、狙撃頼むぜ」
「家妖精に戦闘させるなんて、とんでもない
「よくも毎回色々と豊富にディスる発言でてくるな! このデス子! いや、ディス子!」
「ナっちゃんと呼ばなければオーク肉のソテーをコボルド肉に変えてやるデス」
「それだけは止めてー!」
馬鹿な掛け合いをしつつも、ナっちゃんは俺が開発した電磁ライフルでオーガの眉間を狙い撃つ。
雷精ゼオスと話し合って、電磁誘導する、いわゆるレールガンって奴を開発したのだ。弾丸は鉄鉱石から作りだした鉄球である。無反動かつ軽い作りの為、ナっちゃんでも操作可能。最初は自分で使うつもりだったのだが、自由に転移し宙を飛ぶことも出来る家妖精ならば、狙撃兵として最適である事に気がついたのだ。
もっとも、一番の理由は、ナっちゃんだけ留守番ではなくて、一緒に出かけたかった、と言う事である。説得の際にナっちゃんを落とした言葉もこれであった。
ナっちゃんの狙撃によって、オーガ達が次々と倒れていく。
強力な飛び道具にオーガ達もひるみ始めた頃、連中の最後尾で、1匹、また1匹とオーガが崩れ落ちる。倒れ伏すその身体のそばにはオーガの生首が転がるのはコミカルなのかシュールなのか。
「また、つまらぬ物を斬ってしまいました」
そこに佇むのは、左右の手に小刀を二刀握り、全身黒ずくめの忍び装束姿のミユ。
ミユを冒険者にするに当たって考えた事は、腕力や体力重視の戦士系は無理であろうと言う事と、迷宮探索を安全に行うために罠感知や解除などの盗賊技術を身につけさせる事。その為、俊敏性と器用さを優先して訓練をしていた結果、その職業スタイルは地球で言うところの忍者になってしまった。
地球の知識をミユとナっちゃんに伝えた所、2人ともそれが随分気に入ったようで、色々とせがまれて教えていった結果、ミユはコスプレ忍者の如く振る舞うようになってしまったのである。
俺としては忍び装束の生地の作成(裁縫はナっちゃんである)、小刀の作成と両手を使いこなす為のバスケットボールを使った訓練法などを協力したのだが、マスター忍者は身体に何も身につけない事によって究極の身軽さを得るんだよと教えたら、2人にジト目で見られたのは失敗である。
影精や風精と契約出来たミユは、影を媒体とした異空間に身を潜めオーガ達から再び身を潜める。
その為、オーガ達は後方の異常に気付いたものの、その脅威を見つけ出せず、結果、やけくそになってこっちに突進して来た。
俺は浅黒くムキムキになった腕で杖を振るい、顔面一撃クリティカルを3匹の顔面に連発する。そう。俺はアンデッドを一先ず脱却したのだ。
訳あって肉体の凍結を解除し、筋トレと食事をしっかり取ってガリガリだったミイラな身体をムキムキに肉体改造しているのである。
おかげでナっちゃんからはキモ爺呼ばわりされ、新陳代謝が増えて汗をかく事をしているので1日2回、シャワーを浴びている。触覚も戻ったので熱いシャワーも感じられるようになった。
そんな肉体を駆使して、敵の攻撃を回避し、杖で受け止め、再び打ち返す。
しかし、まだまだ近接戦闘のみで倒すには到らない。武器が刃物なら別かも知れないが、杖の打撃ではやはり物足りないのだ。
今回の探索は、この解決策として開発した新魔法の試験運用が目的である。
影精ヤンディの印、戦神ファルカスの印を用い、“
足下の影から筋骨隆々の茶色い男が浮かび上がる。肌の色と同じパンツを履いたかのように腰周りはデフォルメされており、顔は頭髪も目鼻口も無いマスクを被っているかのようだ。
戦神ファルカスとの契約印により、“戦の従者”を呼び出す魔法がある。
これによって呼び出された従者を戦いに使役するのだが、この魔法の欠点は魔方陣を描かなければならないことと、従者の能力が均一であることだった。
一方、影精ヤンディの印により、自分の影に他人を潜ませる事が出来る。
この二つを掛け合わせ、素早く従者を呼び出せるようにしたのが“
口に出さずとも攻撃の意思で命じると、従者は俺の背後から
俺の背中に背もたれよろしく、筋肉の胸板が俺をオーガ目掛けて押し出していく。
ちょっ! この動きは想定外!
従者が俺の頭ごなしにオーガの顔面に右ストレートを叩き込む。
俺も勢いづいたまま前に放り出され、オーガに抱きつく羽目になり、さらにその状態のオーガに従者が左ストレート。
オーガと一緒に床に転がる俺のそばで、ビシュン! ビシュン! とナっちゃんが電磁ライフルでオーガに止めを刺してゆく。
「しっかりしてくださいよ、シン。それとも、実はオーガと抱き合うのが趣味なんですか?」
「そんなわけは無いだろ!」
「だって、前も筋肉、後ろも筋肉、そして自分も最近筋肉。あっ、そっちに目覚めたのでデスね。デスれば良いのに」
「最近、ほんっとキッツイね」
「マッチョは趣味じゃありませんです」
ツンと拗ねたような顔をするナっちゃん。
もう少しだから待って欲しい。培養中の俺用の身体は17歳の若い身体なんだ。マッチョとはいずれ、おさらば予定なのだ。
ミユがオーガの角の回収を始めており、俺もそれを手伝い終わると、俺達は居住区である50階へ戻るのであった。
一息ついた俺達は、ナっちゃんはダンジョンコアの監視、ミユはシャワーと言うことで俺は49階―俺が目覚めた儀式の間があった―に向かう。
ナっちゃんに頼んで49階は大分様変わりしており、幾つかの壁で仕切って部屋数が増える様に改装してある。そのうちの一部屋に俺は入った。
そこにあるのは四畳半程の広さの部屋一杯に設置された円筒形の培養槽。
ここに特定の材料を入れることで、新しい身体を作る事が出来るのだが・・・・・・問題はその材料だった。
日本から来た俺ならばすぐ理解出来たが、この世界では理解し難い魔法書の記載内容。
『雌の卵と雄の鍵』
これって卵子と精子じゃんか。どうやって入手してこの培養槽に入れろと?
とりあえず精子は入手出来るように、この身体を鍛えてる最中なんだけどな。卵子提供お願いしますってどう説明しろと?
ラウィーネルスタンが実行していなかったのも、その辺に理由があるのかもなぁ。
ダンジョンコアの様子を見ていたナギウスは、地脈から吸収する魔素の量が安定していないことに気がついた。
地脈事態が乱れているようだが、今までにこんな事は無かったのである。
次元震がいずれ来るとラウィーネルスタンが話していたが、それに何か関連があるのだろうか?
考えても判らないので、この件についてはさておいて、自分がシン達と出かけている間の記録画像のチェックを始める。
3人組の冒険者のようであるが・・・・・・
白銀の軽装鎧に身を包んだのは金髪の女騎士。白銀の方形盾と片手剣は意匠の凝った作りでおそらく魔法付与のされた名品であろう。
灰色に青の色調の僧衣に身を包んだ茶髪の女僧侶。長杖の先には大きな水晶が輝いており、質素倹約を常とする神職にはありえない。それが必要とされ許されていることからも各の高い僧侶と思われる。
紅色の全身鎧に身を包んだ赤髪の戦士・・・・・・いや、彼女は。
「深紅の鎧に赤髪・・・・・・スカーレット・フレイム! 炎の勇者クリス・シアン!」
勇者が、
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